コロナ後を見据えて、デジタル経済をめぐる新たな枠組みを模索する各国政府 ブックマークが追加されました
最新動向/市場予測
コロナ後を見据えて、デジタル経済をめぐる新たな枠組みを模索する各国政府
リスクインテリジェンス メールマガジン vol.66
金融規制の動向(トレンド&トピックス)
有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
シニアマネジャー
対木 さおり
コロナ後を見据え、各国で経済活動のデジタル化に向けた取り組みが進んでいる。大きな方向性としてはいくつかあるが、①デジタル経済を前提に新しい枠組みを構築する動き、②デジタル化が進み既存産業との垣根が低まった金融業などの産業で、既存の規制枠組みを見直す動きなどがみられる。グローバルな金融規制の議論でも、デジタル化は重要な課題となっており、例えば、金融安定理事会(FSB)が、昨年10月にビッグテック企業(巨大IT企業)の提供する金融サービスに対して分析レポートを公表している。ビッグテック企業の拡大からエマージング・開発国の市場が便益を受ける側面(安価で便利な金融サービスと福利厚生の改善)もあるものの、一方でリスクや脆弱性も存在すると指摘。特に、金融リテラシーが低い市場では顧客保護の観点が懸念材料であると言及している。
こうした中、昨年12月には欧州では、20年以上前の枠組みであるeコマース指令を大幅に刷新する格好で、デジタルサービス(ソーシャルメディア、オンラインマーケットプレイス、その他オンラインプラットフォームを含む)に係る包括的なルールについて規定したデジタルサービス法案およびデジタル市場法案が公表された。消費者・利用者と消費・サービスをオンライン上で仲介する業者の義務を規定し、他方で競争や技術革新を促進する環境を整備する内容となっている。また、英国では、CMA(競争・市場庁)のデジタル市場タスクフォースが、巨大テック企業やデジタル市場に対して競争を促す新たな英国の制度の設計および実行について政府に助言する文書を公表。市場における戦略的な地位を有する企業に対する制度の3つの柱の案として、①新たな法的拘束力のある行動規範、②競争を促す介入、③強化された合併に係る規則を提言した。本邦でも昨年、プラットフォーマー規制である「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」が成立しているが、さらに、現在、消費者庁が、インターネット上で取引の場を提供するプラットフォーマーに対し、消費者保護の観点から制度を整備するルール作りを準備している。
アジア新興国に目を転じると、年末にかけ金融のデジタル化に向けた対応が進捗している。例えば、シンガポールMASが、デジタル銀行のライセンスを取得した4つの銀行を発表した。Grab Holding Inc.、 Sea Ltd,、Greenland Financial Holdings Group Co. Ltd.、Ant Group Co. Ltd.の免許が承認され、2022年初頭から営業開始予定となっている。フィリピン中銀も、デジタル銀行の法的な枠組みに関係しデジタル銀行の設立に関するガイドラインを発表しており、新興国での金融のデジタル化も今後加速が見込まれている。
米国でも重要な動きがあった。米国連邦預金保険公社(FDIC)は、親会社がFRB監督を受けない産業銀行等による預金保険承認に向けた要件を設定する最終規則を発表した。伝統的な銀行規制とは異なる枠組みでの銀行業の選択肢が増えることになる。今後も、金融などの規制・制度の垣根や範囲は、デジタル化の加速により、抜本的な見直しが必要になると見込まれる。消費者保護、競争機会の確保、イノベーション加速と、バランスが難しいこの課題に各国政府がどのようなスタンスで取り組んでいくことになるのか。各国のデジタル化政策も次の競争力の源泉として重要度が高まっており、2021年は、経済活動の「デジタル化」に向けた制度改革のスピードが、一つの注目ポイントであろう。
index
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- 景気回復の頼みの綱となる製造業(市川)
- コロナ後を見据えて、デジタル経済をめぐる新たな枠組みを模索する各国政府(対木)
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