最新動向/市場予測

景気回復の頼みの綱となる製造業

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.66

マクロ経済の動向(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネジャー
市川 雄介
 

2021年は、新型コロナウイルスの感染が急激に拡大する中で、世界的に暗いスタートとなった(図表1)。日本では11都府県に対し、昨春以来二度目の緊急事態宣言が発令されるに至った。欧州では、昨年は感染封じ込めの優等生と位置づけられたドイツが再度のロックダウンに突入し、制限を強化・延長しているにもかかわらず、一向に感染者数が減っていない。他の欧州主要国では年末にかけて最悪期は脱したものの、足許で再び上向く兆しが見えるなど油断のできない状況だ。米国では感染拡大に歯止めがかからず、欧州のように全土レベルでの制限は取られていないものの、西部カリフォルニア州などでは医療崩壊が生じつつある。さらに、これまで長らく感染者数を抑え込んできた中国でさえ、局所的ながら感染が継続的に発生している。政府は感染の蔓延を防止するため、春節での帰省を自粛するよう呼びかけているが、制限が敷かれる前に故郷へと引き上げる農民工も多く、企業活動に支障をきたす恐れが生じている。


図表1 新型コロナウイルスの新規感染者数(7日移動平均)

新型コロナウイルスの新規感染者数(7日移動平均)
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足元の感染の加速は、ワクチン接種の遅延と相まって、景気の「二番底」懸念を高めつつある。実際、緊急事態宣言を受けたサービス消費の収縮を主因に、日本の1~3月のGDP成長率はマイナスに転じる可能性が濃厚だ。欧州も、昨年10~12月期は大幅なマイナス成長に陥ったとみられるほか、今年1~3月期はほとんど反発せず、状況次第では2四半期連続のマイナス成長も視野に入る。

一方で、世界経済にとって明るい材料もある。各国で着実に回復を続けている製造業だ。昨春の経済制限が解除された後の挽回生産は一巡しつつあるが、消費がサービス(コト)から財(モノ)にシフトしている面もあって、各国の製造業の景況感や輸出・生産統計は堅調な推移を続けている。また、グローバルな製造部門の出荷・在庫バランス(出荷の伸び-在庫の伸び)は2020年末に2年ぶりにプラスに転じており、在庫調整圧力は解消している(図表2)。製造業は循環的な拡大局面に入ったと言え、当面は回復軌道を辿り、景気を下支えすることが見込まれる。米中貿易摩擦の不透明感が世界経済を覆っていた頃は、製造業の低迷が目立つ一方でサービス業が底堅く推移し景気回復を支えたが、今は当時と製造業・サービス業の役割がそっくり入れ替わった形だ。


図表2 製造業の在庫調整圧力(日米欧中)

製造業の在庫調整圧力(日米欧中)
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こうした製造業の回復に支えられて、コロナの感染がなかなか抑え込まれない中でも、各国景気は腰折れを回避できる見通しだ。ただし、製造業にも懸念材料が散見されることには留意したい。一つは、供給側の制約である。必要な半導体が確保できないことを理由に世界の主要自動車メーカーが一定規模の減産に踏み切ったほか、東アジアでは寒波の影響で電力需給がひっ迫し、中国では政治対立から豪州産石炭の輸入を取りやめていることも加わって、一部の省で電力使用が厳しく制限されている。依然として、欧米の運輸業の操業低下などを背景とするコンテナ運賃の高騰も各国の輸出を下押している模様だ。基本的に供給要因による生産への悪影響が長期化することは多くないが、景気の頼みの綱である製造業の回復力を腰折れさせないか、注意が必要だ。

もう一つは、製造業に限った問題ではないが、新型コロナウイルスの感染状況を巡る不確実性だ。感染力の強い変異種の広がりも報じられており、感染者数が今後どう推移するか、ワクチンがどの程度のスピードで普及し、どの程度の効果があるのかなど、当面は不透明感の強い状況が続くことになる。特に日本や欧州では設備投資計画にみられる企業の投資意欲が弱いが、それは先行きの不確実性の高まりが下押し要因となっていると考えられる。今後の感染状況を予測することは難しいものの、政策対応によって不確実性をある程度抑制することは可能だろう。その意味で、日本の緊急事態宣言について、政府は延長が必要となった場合の計画を早めに提示することが求められる。早期に宣言を解除できるに越したことはないが、仮にできない場合の計画も併せて提示することが、企業からみた不透明感を払しょくすることにつながるだろう。

執筆者

市川 雄介/ Yusuke Ichikawa
有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター マネジャー

2018年より、リスク管理戦略センターにて各国マクロ経済・政治情勢に関するストレス関連情報の提供を担当。以前は銀行系シンクタンクにて、マクロ経済の分析・予測、不動産セクター等の構造分析に従事。幅広いテーマのレポート執筆、予兆管理支援やリスクシナリオの作成、企業への経済見通し提供などに携わったほか、対外講演やメディア対応も数多く経験。英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスにて修士号取得(経済学)。

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