最新動向/市場予測

2021年のグローバル経済見通しと主要リスク

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.66

リスクの概観(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
ディレクター
勝藤 史郎
 

2021年ベースライン見通し

2021年冒頭に当たり、今年のグローバル経済見通しと主要なリスクを概観する。年初より新型コロナ感染症の再度の拡大を受け各国はロックダウン強化に転じており、総じて経済回復ペースはさらに減速しそうだ。日本で2回目の緊急事態宣言が発令されたこと、英国やドイツなどで経済活動制限が大幅強化され移動データ等にみる社会活動が大幅に低下している。一方、米国の感染拡大は世界最大規模であるものの、昨年末に成立した経済対策が経済を底支えして相対的に堅調に回復するとみる。中国ではすでにGDP水準がコロナ前の水準に戻っており、外需、内需ともに順調に回復中である。現在当方ベースラインシナリオでは、2021年通年の成長率を米国が前年比+4%、ユーロ圏同+3%、日本同+1%、中国同+9%としている。コロナ第1波の経験から、各国政府は経済活動維持にも配慮した政策を採用しており、中期的にグローバル経済が回復過程にあるとの見方は維持する。


主要リスク① コロナ感染抑制の遅れ

以下では上記ベースラインに対する今年の主要な5つのリスクを見る。2021年の主要リスクの第一は新型コロナウイルスの感染が一向に収まらないことだ。感染再拡大でグローバル経済は継続的下方リスクにさらされているうえ、一部国・地域でのワクチン接種開始の効果もまだ不透明であり、コロナの今後の経済への影響見通しには不確実性が高い。従前比新たなリスクとして、各国の医療崩壊のリスクが考えられる。医療崩壊で感染者数や死亡者数がさらに急拡大すると、ロックダウン強化による経済活動抑制に加え、感染者数と死亡者数の増加により労働力の構造的縮小が考えられる。医療制度が国営化されている英国、いわゆるオバマケアによる国民皆保険も完全に浸透はしていない米国、国民皆保険ながら医療事業は民間中心の制度の日本など、医療制度は国ごとに異なる。医療機関のキャパシティも国ごとに異なるため、医療機関の稼働率上昇による治療への影響も国・地域ごとに異なるものとなろう。


主要リスク② 中国をめぐる政治経済対立

今年は、中国政治経済圏と他の政治経済圏との対立と分断がより明瞭になるとみる。米国では、バイデン新政権下でも対中国での厳しいスタンスは継続するだろう。特にIT覇権や安全保障にかかわる中国IT企業との取引制限は新政権でも継続が見込まれる。中国側では、米国のみならず近隣国のインド、豪州、EUとの通商や政治に起因する対立が激化している。経済・物流面で中国は、これまでの一帯一路政策に加え、米国からの制裁に対応して半導体の自国生産を目指している。さらに中国による人民元建て決済国際化や中央政府デジタル通貨創設計画などは、中国独自の金融取引圏の構築を目指すものといえる。中国の政治経済における孤立は、グローバルな物流の滞りや政治的緊張に伴うリスクを拡大させる可能性がある。
 

主要リスク③ 中国金融システムリスク

中国の金融システムリスクが顕在化する可能性がある。中国人民銀行の2020年金融安定化報告書によれば、2019年末時点ですでに中小銀行の多くが経営リスクを抱えていた。コロナ拡大を受けて中国人民銀行や政府は他国と同様、金融円滑化のために銀行貸出の促進や返済猶予などの政策を推進した。その後現在では経済の順調な回復を背景に、中国政府中銀は金融監督の強化に転ずる兆しがある。中国人民銀行は銀行のレバレッジ比率の安定化などをすすめるとしている。かかる監督強化がかえって銀行の潜在的な不良債権を表面化させる可能性がある。コロナ後の金融監督緩和の出口(正常化)は極めて難しい課題である。金融監督の正常化が中国で実施されると、グローバルで初の試みとなるため、この動向は要注視であろう。
 

主要リスク④ 米国政治・景気

米国のバイデン新政権後の米国政治・景気も主要なリスクと考える。支持者層や党内有力者が中道から左派まで多彩なバイデン民主党政権の運営は、相応の困難が見込まれる。具体的には、いわゆる「トリプルブルー」のもとでも、予算案や法案が上院の議事妨害でブロックされる可能性がある。大統領選後にトランプ支持層の行動が過激化していることも、政権移行後の米国内社会や世論のさらなる分断を予期させるものである。また、政府債務の拡大が米国長期金利の上昇やひいては米国債の格下げなどのリスクを孕んでいる。医療崩壊、高値水準で推移する株価反落リスクなども、規模の大きい米国で顕在化する場合は、グローバル政治経済への影響も大きなものとなろう。


主要リスク⑤ 中東情勢

中東は大きな変動が考えられる地域である。トランプ政権時代に、イランvs米国・イスラエル・一部アラブ諸国という対立構造が確立されたが、バイデン政権への移行によりこの構造が変化する可能性がある。バイデン新大統領はイラン核合意への復帰を示唆しているものの、イランではむしろ核合意上限を超える濃縮ウラン生産を開始するとの情報もある。仮に米国とイランとの緊張を緩和しようとするならば、トランプ政権が進めたイスラエルとの緊密な協調や、一部アラブ諸国とイスラエルの国交回復路線の修正が条件になりうる。バイデン政権の中東政策いかんでは中東における反動的な地政学リスク拡大の可能性がある。エジプトなど一部北アフリカ諸国における政府と民衆の衝突もリスク要因の一つである。

執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ ディレクター

リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る

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