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最新動向/市場予測
株高が崩れる時
リスクインテリジェンス メールマガジン vol.67
マクロ経済の動向(トレンド&トピックス)
有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネジャー
市川 雄介
日経平均が3万円の大台を突破するなど、振れを伴いがらも株価は上昇基調を続けている。この上昇トレンドはいつまで続き、何によって崩れるのだろうか。
まず、株価の割高感を評価してみよう。企業収益が最終的には実体経済によって規定されることを踏まえ、マクロ的な観点から時価総額の名目GDP比をみると、足許では2000年代半ばのリーマン・ショック前夜の水準を上回り、平成バブルのピーク時に近づきつつあることがわかる(図表1)。一方、本欄でも度々指摘してきた過剰流動性を勘案し、市中に出回っているマネー(マネーストック統計のM2。家計や企業などが保有する現預金)と時価総額とを比較すると、違った姿が見えてくる。平成バブル時は、マネーを考慮しても株価は上振れしており、根拠の薄い期待によって押し上げられていたことがうかがわれるが、足許では2000年代半ばよりも低い水準にとどまるなど、それほど割高感は見られない。したがって、実体経済との対比で株価が上振れているのは確かだが、平成バブル期のように期待だけで上昇を続けているわけではなく、世界的な金融緩和を前提にすれば足許の株価はある程度正当化できるといえる。
図表1 株価の水準評価(日本)
景気動向よりも金融政策の方が株価に及ぼす影響が大きいという点は、統計的にも確認できる。実質マネタリーベース、実質GDP、実質株価から成る簡易なモデルを推計すると、予期しない金融引き締めショックは持続的に株価を押し下げるが(図表2左)、予期しない(負の)景気ショックが生じても、株価への影響は一時的なものにとどまり、間もなく元の水準に回帰するという結果が得られる(図表2右。株価は一時的に上昇するが、統計的には有意でない)。これには、景気が下振れした際に一定の政策対応が打たれ、それが株価を押し上げてきた過去の経緯を反映している面もあるだろう。こうした試算を踏まえると、基本的には現状の金融緩和が続き、他の大きなショックがない限り、株価が本格的に調整することは考えにくい状況だ。
図表2 株価に対する金融引き締めショック(左)・景気悪化ショック(右)の影響
これらのショックのうち、当面最も注意を要するのが、海外、特に米国の金融市場や金融政策だ。市場では、財政支援によって米国家計の貯蓄が積み上がる中、年後半にワクチン接種が一定程度まで進み、抑制されてきた旅行・外食などのサービス消費に火がつくことで、インフレ率が大きく高まるシナリオが想定されつつあるようだ。この点については、経済の正常化はサービスからモノにシフトした消費活動が原状に回帰する側面が強く、必ずしもインフレ率を全体として上向かせるわけではないことに留意が必要だ。サービス価格の上昇圧力は1年もすれば一巡するであろうし、公共交通を避ける動きから足許で大きく上昇している中古車価格などは下落に転じることとなろう。そのため、平均インフレ目標を導入したFRBが年内に金融引き締めを急ぐ状況に追い込まれるとは考えづらい。
しかしながら、当面のインフレ圧力の高まりが一時的ではないという期待が市場の中で強まれば、長期金利が急上昇し、株価の下落につながる可能性はある。イールドカーブ・コントロールを導入している日本銀行と異なり、FRBがどの程度の金利上昇まで容認するか明らかでない中では、金利上昇が長期化したり、市場のボラティリティが高まったりするような状況は想定しておくべきだろう。ほかにも、供給が増加する中で何らかのニュースをきっかけに原油価格が再び暴落し、エネルギー企業の信用悪化(ハイ・イールド債のスプレッド拡大など)に飛び火する状況、株価だけでなく住宅価格の上昇に歯止めがかからず、中・低所得層の不満を背景に対応を求める声が強まり、やはり金融引き締め観測が強まる状況など、米国の株価が調整するシナリオは色々と考えられるところだ。緩和マネーに支えられて国内外の株価は底堅く推移するというのが基本シナリオだが、そこには引き続き不確実性が蓄積していることは改めて意識する必要がある。
執筆者
市川 雄介/Yusuke Ichikawa
有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター マネジャー
2018年より、リスク管理戦略センターにて各国マクロ経済・政治情勢に関するストレス関連情報の提供を担当。以前は銀行系シンクタンクにて、マクロ経済の分析・予測、不動産セクター等の構造分析に従事。幅広いテーマのレポート執筆、予兆管理支援やリスクシナリオの作成、企業への経済見通し提供などに携わったほか、対外講演やメディア対応も数多く経験。英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスにて修士号取得(経済学)。