サステナビリティに組み込まれるソーシャルな要素~欧州では環境要素に加え、デューデリジェンスなど社会的な要素への一段の考慮が重要に ブックマークが追加されました
最新動向/市場予測
サステナビリティに組み込まれるソーシャルな要素~欧州では環境要素に加え、デューデリジェンスなど社会的な要素への一段の考慮が重要に
リスクインテリジェンス メールマガジン vol.73
金融規制の動向(トレンド&トピックス)
目次
- サステナビリティに組み込まれるソーシャルな要素~欧州では環境要素に加え、デューデリジェンスなど社会的な要素への一段の考慮が重要に
- 執筆者
- リスク管理戦略センターについて
- リスクインテリジェンス メールマガジン バックナンバー
有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
シニアマネジャー
対木 さおり
欧州では、タクソノミーの拡張議論が進み、その中で社会的な要素の取り込みの検討が進捗を見せている。具体的には、欧州委員会が7月にPlatform on Sustainable Financeによる2つの報告書案を出し、そのうち一つが社会タクソノミーに関する報告書(案)で、報告書に基づく助言は、タクソノミー規則に基づき2021年末までに採択されるタクソノミー規則の適用範囲を拡大するために必要な規定を記述した報告書に反映される予定となっている。もう一つの環境目的に関連するタクソノミー拡張オプションに関する報告書(案)も非常に重要な内容であるが、本稿では社会タクソノミーの取り組みや社会的要素に対する議論について紹介したい。
社会タクソノミーの報告書案は、持続可能な開発目標 (SDGs) や国連の企業と人権に関する指導原則などの国際的な規範や原則に基づいて構築されている。そもそも、タクソノミー規制では、適合のための複数の要件が設定されており、第一に、EUが定めた環境目的の1つ以上の達成に大きく貢献していること、第二に、他の目的に重大な損害を与えないこと、第三に最低セーフガードの遵守、第四に、技術的スクリーニング基準への適合となっている。このうち、第三の要件である最低セーフガードについて、検討する必要があることから、本報告書で議論が展開されている。
また、2010年以来、社会的に持続可能な投資のための全く新しい手段が開発され、「ソーシャルインパクトボンド(SIB)」の市場が成長していることなどもあり、社会的な要素を組み込んだタクソノミーの検討の必要性も強調されている。ベースラインとしては、提案された社会タクソノミーの基礎は、確立された国際的な規範と原則であり、国際人権章典や、ILO(国際労働機関)宣言、ビジネスと人権に関する国連指導原則(UNGP)、OECD多国籍企業行動指針など広範な規範を取り込む試みがなされている。
ただし、環境目的と比較し、「ソーシャル」という概念や目的自体、複数の視点・目線があることに加え、数値化が難しい側面がある。また、状況によっては、環境目的と社会目的が合致しない場面があることなども考慮すると、社会タクソノミーの要件はそれほど容易な課題ではない。ステークホルダーの範囲やどのような価値を実現しすることを重視するのか(本報告書では、垂直的側面:基本的な人間のニーズと基本的なインフラのための製品とサービス提供の視点と、水平的側面:人権などの影響を受ける様々なステークホルダーへの影響の考慮の2つの側面で議論)についても、多様な捉え方がある点が指摘されている。また、社会目的を達成するための要素として、持続可能なコーポレート・ガバナンスは、経済主体における環境的・社会的持続可能性の水準を設定するものと考えられ、贈収賄、課税、ロビー活動などのテーマに焦点が当てられており、極めて広範な内容となっている。
議論の出口として、例えば、社会的・政府関連の最低セーフガード (ビジネスと人権に関する国連指導原則(UNGP)とOECD多国籍企業行動指針)を組み込む考え方が提案されているが、ここでは詳細は割愛するものの、最低セーフガードの組み込み方次第で、基準が厳格化し、環境タクソノミー適合でも最低セーフガード基準に抵触するなどの活動が広範に発生する可能性もある。
また、最低セーフガードの要素として考慮されているOECD多国籍企業行動指針に関しては2011年改訂で、リスク管理の一環として、企業は自企業が引き起こす又は一因となる実際のおよび潜在的な悪影響を特定し、防止し、緩和するため、リスクに基づいたデューデリジェンスを実施すべきなどの規定が、義務ではないものの盛り込まれている。さらにEUでは、サプライチェーン管理の観点からのデューデリジェンスの法制化に向けた議論を実施しており、例えばドイツ上院ではすでには6月に「サプライチェーン・デューデリジェンス法」を承認済みで2023年1月から施行予定となっている。
本邦でも、金融庁がソーシャルボンド検討会議における検討を踏まえて、7月に「ソーシャルボンドガイドライン(案)」を取りまとめており、今後は詳細な基準設定が進むとみられる。ショーシャルな要素の議論は世界のトレンドとも考えられるが、国境を越えてグローバル目線で考える場合は、デューデリジェンス義務化などの動きにも目配せが必要であろう。
index
- 感染収束見通しに下方リスク(勝藤)
- 出口の見えないコロナ禍:ワクチン頼みの限界(市川)
- サステナビリティに組み込まれるソーシャルな要素~欧州では環境要素に加え、デューデリジェンスなど社会的な要素への一段の考慮が重要に(対木)
- 講演最新情報(2021年8月時点)
執筆者
対木 さおり/Saori Tsuiki
有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター シニアマネジャー
財務省入省後、大臣官房にて経済・政策分析業務、関東信越国税局(国税調査官)、理財局総務課・国債課にて、国有財産・債務管理や国債発行政策策定に従事。米国コロンビア大学にて修士号(MPA)取得(IMFインターン等を経験)、その後大手シンクタンクにて、政策分析・経済予測、関連調査・コンサルティング業務を担当。