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ステーブルコインを含む暗号資産関連の活動・市場に関する規制・監督・監視~FSBが市中協議文書を公表

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.88

金融規制の動向(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネジャー
菅谷 幸一
 

2022年10月、FSBが、暗号資産関連の活動に関する国際的な規制等について、①「暗号資産関連の活動・市場に関する規制・監督・監視」、②「『グローバル・ステーブルコイン』の規制・監督・監視に関するFSBのハイレベルな勧告の見直し」、③「暗号資産関連の活動に関する国際的な規制:FSBが提案する枠組み」の3つの市中協議文書を公表した。これらの市中協議文書は、FSBが2022年2月に公表した報告書「暗号資産の金融安定に対するリスクの評価」および同年7月に公表した「暗号資産関連の活動に対する国際的な規制・監督に関するステートメント」を踏まえたものである。

市中協議文書①は、暗号資産の活動と市場に対する規制・監督・監視アプローチの一貫性と包括性を促進し、国際的な協力・協調・情報共有を強化するための勧告(CA勧告)を新たに提案するものである。CA勧告案は、(1)規制の権限と手段、(2)一般的な規制枠組み、(3)クロスボーダーの協力・協調・情報共有、(4)ガバナンス、(5)リスク管理、(6)データ収集・記録・報告、(7)情報開示、(8)相互連関・相互依存から生じる金融安定リスクへの対応、(9)複数の機能を持つ暗号資産サービス提供者に対する包括的な規制、の9項目から構成されている。具体的な内容としては、当局が暗号資産の活動と市場を規制・監督・監視するための適切な権限・手段等を有するべきこと(CA勧告1)、当局が暗号資産発行者・サービス提供者に対し、ガバナンス・リスク管理枠組みの整備や、業務・財務状況・商品・活動等の包括的で透明な情報開示を求めるべきこと(CA勧告4・5・7)などが盛り込まれている。

市中協議文書②は、グローバル・ステーブルコイン(GSC) のもたらす金融安定リスクへのより実効的な対処を目的として、FSBが2020年10月に公表した「『グローバル・ステーブルコイン』の規制・監督・監視-最終報告とハイレベルな勧告」を見直すものである。ハイレベルな勧告(GSC勧告)は、GSCに対する法域間で一貫した実効的な規制・監督・監視を促進しつつ、各法域が域内のアプローチを実施できるよう十分な柔軟性を提供することを目指すものとされている。主な見直しの内容としては、勧告の適用対象をGSCになる可能性のあるステーブルコインに拡大することや、当局がステーブルコインの規模、複雑性、リスクを考慮し、より広くステーブルコインの取決めに適したハイレベルな勧告の適用を選択できることを追記した他、価値安定メカニズムや利用者の償還権に関する要件を強化することなどが提案されている。

市中協議文書③は、市中協議文書①・②両文書の位置づけと今後のFSBの作業方針等を示すものである。CA 勧告が全ての暗号資産活動、発行者、仲介者、サービス提供者を対象としている一方、GSCの定義に当てはまる暗号資産は改訂 GSC 勧告の対象ともすべきことが示されている。また、CA・GSC両勧告は、ステーブルコインとより広い暗号資産エコシステムの間の相互連関性を反映し、密接に関連しているとしたうえで、それぞれ独立した文書として作成されているものの、こうした相互連関性を考慮し、同じ課題・リスクの取り扱いが一貫していることを企図するものとされている。

本市中協議文書で提案されている勧告は、「同じ活動・同じリスクには同じ規制を適用する」との原則に基づき策定されている。これは、今春の暗号資産市場の混乱により浮き彫りになった、暗号資産のボラティリティ、構造的な脆弱性、伝統的な金融システムとの相互連関性の高まりを踏まえ、伝統的な金融業務と同様のリスクをもたらす暗号資産関連の活動が同様に規制されることを確保するための取組みと位置付けられる。勧告案は、今般の市中協議を経て、2023年半ばまでに最終化される予定である。今後、ステーブルコインを含めた暗号資産に係る国際的な監督・規制の大枠が確定することにより、FSB加盟法域を中心に、法制化の動きが本格的に進んでいくと思われる。足元では、大手暗号資産取引所の破綻を巡り、暗号資産市場の混乱が続いており、信用不安が広がりつつある。これを契機に国内外での監督・規制強化が一気に加速することも考えられよう。ただ、暗号資産関連の活動につき金融業務と同等の規制を構築するには相応の時間がかかる。その間、暗号資産の取り扱いについては当局・中央銀行とも保守的なアプローチをとらざるを得ないだろう。暗号資産自体は正しく活用すれば将来の経済活動の多様化に大きく貢献する技術でもある。必要な規制監督の基盤を早期に整備の上、暗号資産の適切な活用の道を探ることが重要だろう。

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.88

index

  1. 欧米リセッションは不可避に(勝藤)
  2. 深まる世界の分断:国際情勢変化の可視化(市川)
  3. ステーブルコインを含む暗号資産関連の活動・市場に関する規制・監督・監視~FSBが市中協議文書を公表(菅谷)
  4. 講演最新情報(2022年11月時点)

執筆者

菅谷 幸一/Koichi Sugaya
有限責任監査法人トーマツ マネジャー

証券系シンクタンクにて、地方銀行をはじめとする金融機関の事業動向・経営環境の調査・分析業務に従事。財務省国際局国際機構課出向中は、主に国際金融規制、FSB、IMFを担当。金融庁企画市場局市場課出向中は、主にソーシャルボンドガイドラインを担当。現職にて、海外金融規制動向の調査業務等に従事。

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