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2つの緩和:中国ゼロコロナ政策と日本の金融政策

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.90

リスクの概観(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
勝藤 史郎
 

2023年初から、当方のグローバル経済見通しに相応の変動が生じている。昨年末の、中国政府のゼロコロナ政策緩和および日本銀行のイールドカーブ・コントロール修正がその背景である。

まず、昨年12月の中国のゼロコロナ政策大幅緩和は、その他の新たな経済政策と合わせてネットで中国経済にプラスの効果をもたらすだろう。当初は感染者の急増や医療体制ひっ迫などの問題が生じていたが、その後今年に入り、主要大都市では感染がピークを越えたとみられ、同時に人の移動が大幅に回復していると考えられる。高速道路のモビリティデータは大幅に回復しているほか、報道によれば春節の帰省等による移動もコロナ前の規模を回復している模様だ。また中国政府は、昨年12月の中央経済工作会議で経済の回復に重点を置いた方針を決定した。さらに今年に入り不動産融資規制の緩和などの景気回復策も打ち出している。これらの背景から当方は、2023年の中国の成長ベースラインを大幅に引き上げ、前年比5%台後半とした。当初ゼロコロナ政策緩和はゼロコロナ政策反対デモへの対応と考えていたが、今やこれは中国政府が、コロナ抑制優先の政策からコロナ後の本格経済回復の政策に戦略的に転換したものと考えておきたい。

次に、日本銀行が昨年12月の金融政策決定会合で決定したイールドカーブ・コントロール(YCC)緩和を契機に、今後日本銀行が早期にYCCの追加緩和や解除を実施するリスクが高まってきたとみる。昨年12月のYCC緩和(10年物国債金利の変動幅を±0.25%程度から±0.5%程度に拡大)の意図につき、当方では、10年物金利だけが低位に固定されている不自然なイールドカーブ形状の是正にあり、金融緩和解除の可能性を示唆するものではないと考えている。ゆがんだイールドカーブが金融機関の資金収益を悪化させるという副作用への配慮が背景にあると推測される。しかしながら、同政策緩和以降もイールドカーブは10年物金利だけが0.5%の低位にある状態に大きな変化はない。したがって、今後本来のイールド形状が回復されるまで、日本銀行が追加的YCC緩和を実施する、場合によってはYCC解除を実施するリスクは相応に高くなったと考える。当方では現状、年内は更なる金利引き上げなどの政策変更はないとのベースライン見通しを維持するものの、その見通しには不確実性が出てきた。

他方、米国については、今後FRBは利上げペースを落とし、FF金利誘導目標レンジを5%レベルまで引き上げたところで利上げは打ち止めになると見通している。FRBの利上げのゴールが見えてきたことは、株式市場と債券市場にとっては好材料であり、米国の金融市場は今回の利上げ局面を大きな混乱なく通過できそうだ。年後半に利上げ影響などから米国経済がリセッションに陥るとの当方の見方は不変であるが、このままインフレ率が低減して年前半に利上げが停止すれば、リセッションも浅く短いものにとどまろう。

なお、欧州ほか他国・地域のインフレ、利上げによる経済押し下げリスクは引き続き残存している。地政学関連リスクや経済分断の状況も引き続きリスク要因であることには変わりない。

執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクター

リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る

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