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悲喜こもごも:新興国経済の見通し

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.91

リスクの概観(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
勝藤 史郎
 

中国がゼロコロナ政策解除や不動産市場支援など経済回復政策に舵を切ったことで、近隣のアジア諸国経済への好影響を期待したいところである。ただ、中国の経済回復期待がただちにアジア各国の景気を押し上げるという明確な道筋が現状みえているとは言いにくい。アジア各国は、それぞれ固有の経済条件を有しており、また中国以外のグローバルな経済環境の影響を受けるからである。ここでは、半導体市場、商品市場、そして通貨の観点からアジア諸国の経済を見通してみたい。

韓国と台湾は半導体市況の循環的な悪化が成長悪化の大きな要因になっている。特に台湾は、外需の大幅な減少で2022年Q4の成長率が前年比-0.9%のマイナス成長に転じた。韓国も同様に2022年Q4の前年比成長率が前期の+3.1%から同1.4%に大幅減速している。韓国・台湾いずれも、国内のインフレ影響や中国のゼロコロナ政策という景気悪化要因に加え、グローバルな半導体需要の後退による輸出減少が成長率を押し下げている。グローバルな半導体サイクルは今年2023年の半ば頃には底入れすると当方では見ているものの、年前半まではこれが引き続き景気の押し下げ要因となるだろう。

中国経済の回復により、原油などの商品価格上昇が資源国の経済回復に寄与するシナリオもあるが、世界的な需要減観測は残り当面は商品市況も方向感のない動きにとどまりそうだ。原油価格は横ばい推移が続き、天然ガス価格は欧州の暖冬の影響もあり下落傾向である。中国からの需要の影響を反映しやすいとされる銅価格も、ゼロコロナ政策解除後も目立った上昇は見られない。銅や一部の非鉄金属市況は、グローバルな在庫増加によって上昇が抑えられている可能性がある。ロシアのウクライナ侵攻開始後一部の国は、自国産の資源やエネルギーを経済外交手段に用いたことがあったが、それも限界にきている。たとえばアジアの代表的な資源国であるインドネシアについてみると、同国はこれまでに、自国の加工産業の振興のためパーム油やニッケル鉱石など資源の輸出禁止措置を度々実施してきており、それが価格を押し上げてきた面もあるが、国際世論の反発などもあって持続していない。2022年Q4時点でインドネシアの貿易収支はむしろ、原油や天然ガスを含む資源輸出価格の下落で黒字幅が急減に縮小している。

アジア諸国の国内のインフレ要因となる自国通貨安は、米国FRBの金利引き上げペースが減速してドル高圧力が和らいだことで緩和されてはいる。しかし、インドルピーなど下落が止まらない通貨もあり、経済回復の遅れている国に通貨安が再び伝染するリスクは残っている。さらに、2月に入って複数のFRB高官が利上げペースを再び加速する必要性を示唆するタカ派発言を行ったことなどから、目先では米国金利先高観が再び強まっている。

中国は、少なくとも2023年の成長率は5%を超えるものとなろうが、不動産市況や米国等による経済制裁拡大により、その足腰はまだ脆弱といわねばならない。近隣国への波及についてはこれ以上に、楽観するのは時期尚早といえよう。

執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクター

リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る

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