最新動向/市場予測

小休止:金融システム不安通過後の米欧経済見通し

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.93

リスクの概観(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
勝藤 史郎

 

米国の地方銀行連続破綻や欧州大手銀行の経営危機による市場ショックは、一旦沈静化している。米国当局の預金保護特例措置や流動性供給、大手銀行による経営危機銀行の買収というスイス当局の対応など、迅速な措置が短期的な危機拡大を予防したといえる。金融システムへのリスク波及や金融市場の混乱は一旦回避できたといえそうだ

しかしながら、米国では破綻した地方銀行と同様の金利上昇リスク顕在化予備軍が控えている可能性がある。また、前月指摘したように預金全額保護の特例措置発動には限界もある。さらに、米国や欧州の金利上昇の影響も今後ラグを伴って示現する可能性が高い。銀行の貸出態度が厳格化に転じていることなどは、銀行が貸し出し資産の質の劣化を認識していることの反映とも考えられる。現在のところ住宅ローンや企業向け貸し出しの延滞率の上昇は見られないものの、金融システムについては、金利上昇や預金流出リスクだけでなく、伝統的な信用リスクが今後顕在化する可能性に留意しておきたい。

実体経済面でも、米国で金利上昇を背景とした経済活動の減速が年後半に顕在化するという従前の見通しを維持する。全米供給管理協会(ISM)の製造業景況観指数は3月まで5カ月連続で景気判断の分かれ目である50%を割り込んでいるほか、タイトな労働市場についても非農業部門雇用者数の増加ペースにそろそろ頭打ち感がみられる。ユーロ圏では、冬のエネルギー危機回避ののち生産指標が思いのほか堅調で、総合インフレ率はピークアウトが明らかになって消費者のセンチメントも好転している模様だ。しかし、ユーロ圏では欧州中央銀行(ECB)の利上げ継続が見込まれることから、その景気抑制効果は持続するとみておきたい。

今後、金融危機再発を防止し景気失速をある程度のところで食い止めるには、再び機動的な金融政策がカギになろう。当方ではFRBとECBの政策金利引き上げは早晩終了するとみている。その後は米国、ユーロ圏いずれも、インフレリスクと金融システムおよび景気失速リスクのバランスの評価が金融政策を決める要因になる。エネルギー価格の安定化で総合インフレ率は米欧いずれにおいてもピークアウトが明確になっている。他方、食品およびエネルギーなど変動の大きい品目を除くコアインフレ率は、ユーロ圏では依然上昇基調にあるのに対し、米国では水準は高いものの既にピークアウトの様相である。インフレと経済・金融リスクのバランスの観点からは、米国についてはFRBが年内に利下げに転換する見通しを支持する材料が出そろいつつあると考える。ユーロ圏については引き続きECBのインフレ対応スタンスが相対的に長く継続する可能性が高そうだ。

 

執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクター

リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る

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