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組織の成長とともに変わり続ける、経営管理基盤の“あるべき姿”

中堅・成長企業が必要な経営管理基盤を見定め、構築するための検討ポイント

2019年6月13日、freee株式会社・株式会社AIトラベル主催「バックオフィス クラウド活用セミナー」に、有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 田村 有が登壇、「中堅・成長企業における経営管理基盤構築のポイント」と題し、講演を行いました。本記事では、講演の内容を要約してご紹介します。

「経営管理基盤」とは何か

「経営管理基盤」とは具体的にどのようなものでしょうか。デロイト トーマツ グループでは、「ビジョン・ミッションや経営戦略の実現のために、経営資源を最適に配分するための仕組み」と定義しています。ここでは「組織」「業務・プロセス」「(人事や評価等)制度・システム」「ルール・規程」の4つを挙げています。

<経営管理基盤の定義>

経営管理基盤の定義
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一言で「経営管理基盤」と言っても、企業の成長ステージごとに必要とされる経営管理は異なり、成長ステージの進みに応じて高度化が必要です。組織の創業期においては、まずは経理、労務など、最低限の経営管理を整備することから始まり、企業が成長するにつれて、財務(資金繰り管理など)や法務の観点がより必要になります。その後、予算管理や経営分析を行うための仕組み、人事制度、IPOに向けた内部統制の構築など、さらに経営管理体制を高度化させていくのが一般的な経営管理の構築ステップではないでしょうか。

 

スタートアップ企業の経営管理基盤に見られる課題

スタートアップ企業における経営管理基盤に関して、2つの課題がよく見受けられます。第一に「経営管理基盤に対する投資の不足」です。経営者が経営管理の重要性を軽視している、または重要性は理解しているものの、十分にリソースが割かれていない状況となっている企業が多く、社内外の環境が変化し、事業や組織の規模が大きく成長しているにも関わらず、経営管理は創業当初からほとんど進化していないケースがよくあります。第二の課題は「経営管理における課題に対して場当たり的に対処が行われていること」です。特に経営管理基盤が成長ステージに鑑み最適化されていない場合、顕在化した課題に対して、体系的な対応を行うことが出来ず、個別・場当たり的に対処されることで、様々な制度や仕組みが部分最適化することがあります。

経営管理上の課題には、例えば以下のようなケースがよく見られます。

  • 組織に関する事象(例)
    ・組織の階層化に伴う、意思決定スピードの鈍化
    ・自社のビジョンやミッションに合わない人材増加による組織のカルチャー崩壊
  • 業務・プロセスに関する事象(例)
    ・業務が形式知化されない事により、業務が非効率化
    ・プロセス(業務プロセス、意思決定プロセスなど)を継続改善する仕組みがなく、業務が非効率化
  • 制度・システムに関する事象(例)
    ・各種制度(人事評価、目標管理など)が形骸化
    ・ITツール導入を急ぎ、最適なITインフラ構築に失敗
  • ルール・規程に関する事象(例)
    ・発生したインシデントに対し、反射的な「ルール作り」が横行し、不要にルールが乱立
    ・「本当に守るべきルール」が不明確となり、形骸化

上記は一例ですが、経営管理のインフラが整っていないまま事業や組織の規模が成長することにより、経営管理上の歪みが発生し、最も重要な事業の成長に悪影響を及ぼす事例が多く見られ、時には事業推進が妨げられ、企業価値の棄損に繋がるケースもあります。

<経営資源にもたらされる影響>

経営資源にもたらされる影響
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経営管理基盤の構築のために

このような課題が顕在化し、事業への影響が発生してしまう可能性を考慮した上で、どのように経営管理基盤を構築すべきでしょうか。経営管理基盤の構築においてポイントになるのは、以下の2つの点であると考えられます。

1. 経営管理基盤のあり方は、上位概念から落とし込む

第1に、ビジョン・ミッションや経営戦略を達成するための最適な経営管理基盤を構築するため、上位概念を具体化したうえで、基盤の要素がすべて整合するよう構築することが肝要です。

企業のビジョン・ミッション、経営戦略から、経営管理基盤のあるべき姿を整理し、それらの構成要素の相関を意識して構築する必要があります。特に、近年は「自立型組織」や「フラット型組織」など、いわゆる次世代型の組織の在り方が注目されており、企業が目指す組織の姿にも変化が起きています。しかし、力強いビジョンを掲げ、それを社員と共有するカルチャーを重視しているスタートアップ企業などにおいて、次世代型の組織を強く志向しているにも関わらず、ひとたび「管理」の話になると、旧来の制度や規程のひな形を参考に経営管理基盤を構築しているケースも意外と多いのが実情です。そのような組織を実現するためには、それに適した経営管理のあり方を模索する必要があるため、経営管理の難易度や、経営管理に対する投資の必要性はより高まっているのではないでしょうか。

<経営を構成する要素の全体像と、経営管理基盤構築の検討論点例>

経営を構成する要素の全体像と、経営管理基盤構築の検討論点例
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2. 経営管理は早く・小さく始めて、継続的に改善し続ける

第2のポイントとして、経営管理に割けるリソースに制約があるなか、上位概念との整合を確保したうえで、経営管理の構築を早く、小さくはじめて、自社の状況に合ったあり方を常に模索・改善することが重要です。

企業の成長ステージごとに必要とされる経営管理は異なりますが、成長スピードを考慮すると、「いま」に適した経営管理基盤が構築されている状態では不十分です。将来に必要とされる経営管理を想定し、”Think Big, Start Small”をコンセプトに全体設計を意識しながら先手を打って準備することが必要になります。構築開始するタイミングに、セオリーはありません。特にスタートアップにおける経営管理機能(コーポレート)は、人員などのリソースに制約がある中、日々の業務を遂行するのに精いっぱいな状態の企業も多いと思いますが、早い段階で、より全社的視点から経営管理をデザイン・構築する責任者を配置する、適宜専門家の助言を得る等、現実的な範囲で、早い段階から取り組むことが望ましいと考えられます。

<経営管理基盤を構築すべきタイミング>

経営管理基盤を構築すべきタイミング
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以上のことから、中長期的な事業や組織の規模の成長を支え、またそれを後押しすることができる経営管理基盤を構築するため、その場その場で「いま出来ること」に着実に取り組むことが効果的であると考えられます。

スタートアップ企業における経営管理基盤の構築は、後の企業の姿を見定めたものでなくてはなりません。事業の成長とともに、企業の規模がより大きくなり、またそれに伴い新たな経営管理上の論点が増え続けることを正しく認識し、どのような経営管理のインフラが必要かを先んじて検討していく必要があります。

デロイト トーマツ グループでは、シード期からレイター期までの経営管理基盤の構築(経営管理の全体設計、業務や意思決定・予算管理のプロセス、各種制度・仕組みの構築・高度化や、組織やカルチャーに適したルール・規程の整備支援など)をはじめとしたさまざまなサービスを提供しています。成長プロセスの中でのビジョンの見直しや事業戦略の策定・実行、組織・オペレーションの構築・改善などの経営課題への支援をご希望のご担当者様は、お問合せフォームよりご連絡ください。

講演者/執筆者プロフィール

田村 有 / 有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部

大学卒業後、コンサルティングファームにて、主に大手製造業や総合商社におけるグループ経営管理の高度化、海外企業の買収後の統合(PMI)支援などに従事。その後、有限責任監査法人トーマツにて、大手企業へのコンサルティングに加え、成長企業に対する経営管理や組織体制の構築、業務プロセス改善支援をハンズオンで行う等、スタートアップ支援にも携わる。

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