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下請法・贈賄防止・競争法のコンプライアンス対応強化
当局の調査の強化を受けて違反・摘発事案が多く発生している下請法やカルテル、世界各国で法執行の強化・制裁の高額化の傾向が見られる贈収賄防止法について、コンプライアンス対応強化のポイントを解説するとともに、デロイト トーマツが提供する主なサービスをご紹介します。
下請法違反防止に向けた対応のポイント
【下請法執行の強化】
2021年の内閣官房等による「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」の公表以降、下請法に基づく調査が強化され、製造業や卸・小売企業を中心に多くの企業が公正取引委員会から下請法勧告を受けています。違反事案としては「下請け代金の減額」や「返品」に関するものが多くなっています。また比較的少額の返品・減額・金型保管の要求などでも勧告を受けている企業があることから、他人事ではないとの課題意識の下、対応を行う必要があります。
【下請法対応の必要性・ポイント】
下請法違反が発覚すると、当局の調査対応ならびに是正対応に膨大な時間と資金が必要となることに加え、税制優遇措置からの除外やレピュテーションの悪化による利益率・競争力の低下へつながる恐れがあります。そのため、日ごろより下請法違反防止・管理体制強化にむけて、体制の整備や仕組みの検討・構築しておくことが重要となります。
しかし下請法そのものの解釈の難しさや親事業だけでなく下請け事業者にも染みつく上位下達の考え方、認識相違、実務慣行そのものが内包する問題などから、実務対応は容易ではありません。下請事業者との認識齟齬が生じるプロセス・業務等を特定し、実務上過度に保守的にならない対応や、対象となる取引や類型の明確化、外部へ説明可能な仕組みの構築が重要となります。
【下請法リスクアセスメント・高度化に向けたアプローチ例】
デロイト トーマツでは、下請法違反防止・管理体制強化に向け、まずは現行のビジネスプロセスや取引概要をふまえ下請法違反のリスクアセスメントを行い、課題を整理・特定したうえで、改善の方向性・ロードマップを策定し、実行するアプローチを推奨しています。
アセスメントは、下請法違反リスクの高い取引または部署を特定した上で、規程・マニュアルの閲覧、サンプル取引の帳票類・データの閲覧、ヒアリング等を通じて実施します。そしてアセスメントの結果をふまえて優先度の高い課題を特定し、改善の方向性や実行のロードマップを検討します。この際、通常の業務に支障が発生するような過度に保守的な施策とならないよう、公的発行資料(取引適正化ガイドライン)や他社事例をもとに検討を行うことがポイントです。
カルテル・談合防止に向けた対応のポイント
【カルテル・談合リスクの概要】
カルテルや談合は、多額の課徴金や刑事罰が科されるだけでなく、大きなレピュテーション棄損を及ぼす可能性のある影響の大きいリスクです。公正取引委員会は2023年12月に「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド」を公表しました。このガイドでは、公正取引委員会によるこれまでの調査・分析の結果をふまえ、カルテル・談合に関するコンプライアンスプログラムのあるべき姿が整理され、各企業が取り組んでいる事例が紹介されています。近年、公正取引委員会による独占禁止法に関するモニタリングや法施行が強化されていることもふまえると、これらガイドラインをもとに、企業として対応力を高めておくことが肝要です。
一方で、カルテル・談合が法令違反になる認識はあっても、具体的にどのような行為が該当するかの判断が難しいという声や、複数拠点がある中でどのように対策を進めるべきか悩ましいという意見も多く聞かれます。このような場合、まずは公的に発行されているガイドラインも参考に、各拠点の現状を踏まえたリスク評価を行い、優先度を定めたうえで、カルテル・談合リスクの点検を行うことが有用と考えられます。
【カルテル・談合に関する点検のアプローチ例】
デロイト トーマツでは、まず現行取引の実態や、過去に実施した調査・監査の結果等をもとに拠点のリスク評価を行い、それぞれの評価に応じた優先度を検討し、総点検計画や点検手続書を策定・作成するアプローチを推奨しています。
リスク評価の結果、一定程度のリスクが認められた拠点に対しては、実地調査にて実際の帳票の確認や担当者へのヒアリング等、より深い手続を行い、違反疑義の有無や違反防止体制の整備状況を確認します。
これら拠点への点検結果をふまえて、発見されたリスクに応じた対応方針を検討することで、カルテル・談合対策を強化するアプローチです。
贈収賄防止に向けた対応のポイント
贈収賄リスクは、摘発による罰金が巨額になるケースが多いことに加え、企業のレピュテーションや信用毀損を伴う恐れがある影響の大きいリスクである一方で、関連する世界各国の法規制の理解や対応に悩む企業も多いリスクのひとつです。
【贈収賄リスク対応のポイント】
贈収賄の発生を防止することが最も重要な対応ですが、万が一発生してしまった場合に備え、自社内で適切な「汚職・贈収賄リスク対応プログラム」を整備・運用・維持していることを、対外的に説明できるようにしておくことも重要とされています。
「汚職・贈収賄リスク対応プログラム」を適切に導入・維持するためには、グループ全体で統一されたポリシーに基づきPDCAサイクルを回し続けることが重要となります。贈収賄リスクは、各国において求められる対応が異なる面もあるため、PDCAサイクルの中で法的要求事項を把握し、現状の取り組みの課題特定や課題改善に繋げていくことが大きなポイントです。
既存の取り組みを評価する際には、米国司法省が公表している「米国海外腐敗行為防止法(FCPA)リソースガイド」に記載されている「効果的なコンプライアンスプログラムの特徴」を参考にすることも有用です。
【贈収賄対応の高度化に向けたプロジェクトアプローチ例】
デロイト トーマツでは、ビジネスや贈収賄リスク対策に関する現状把握・課題整理を行ったうえで、贈収賄に関する重要リスクシナリオを特定し、当該リスクを低減するための業務プロセスやルールを設計し、各種規程・マニュアルの整備・見直しを行うアプローチを推奨しています。
贈収賄対策においては、上長や法務・コンプライアンス部門におけるレビュー・承認と、その記録を残す仕組みも重要であるため、必要な場合はワークフローシステムの設計などにおける助言も可能です。
常盤 直希 / Naoki Tokiwa
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー ディレクター
一般事業会社を経て、有限責任監査法人トーマツに入社。リスクマネジメント、サプライチェーンリスク管理、内部統制の態勢構築・高度化、内部監査態勢整備、グループガバナンス設計などのアドバイザリーサービスに従事。特にサプライチェーンリスクの可視化等のサプライチェーン関連のプロジェクトを担当。
公認会計士
吉原 有理奈 / Yurina Yoshihara
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー シニアマネジャー
海外大学卒業後、有限責任監査法人トーマツに入社。リスクマネジメントやコンプライアンスの態勢構築・高度化、内部監査態勢整備、グループガバナンス設計などのアドバイザリーサービスに従事。特に企業グループにおけるコンプライアンスプログラムの設計・浸透プロジェクトを多く主導。主な著書に『リスクマネジメント 変化をとらえよ』(共著、日経BP)
英国勅許公認会計士
※所属などの情報は執筆当時のものです。