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調査レポート
日本企業のイノベーション実態調査結果報告(2012年)
成長企業の創出に向けて
デロイト トーマツ コンサルティングでは2012年、日本企業335社に対して、以下3つを主要テーマとする、イノベーションの実態調査を実施した。 Theme1:「収益につながるイノベーション」を産み出せているか? Theme2:「世の中にとって新しい」イノベーションを産み出せているか? Theme3:なぜ日本企業はイノベーションを産み出し、成果に繋げられないのか? 本コラムでは、日米の定量データを比較すると共に、日本企業のイノベーションを産み出すための取り組み実態についての調査結果を紹介し、日本企業が抱えるイノベーション創出上の課題を明らかにしていく。
目次
- はじめに
- 「収益につながるイノベーション」を産み出せているか?
- 世の中にとって新しいイノベーションを産み出せているか?
- 革新的成果を上げている企業ほど持続的成長を実現できている傾向
- なぜ日本企業はイノベーションを産み出し、成果に繋げられないのか?
- 既存の枠組みを越えた新たなアイデア創出活動が行われていない
- 良質な新規事業を市場に投入するための磨き上げプロセスが不十分
- 新規事業がイベント化され、定常的なメカニズム化に至らず
- 知的財産の管理が目的化しており収益源化まで至らず
- おわりに
- コラム情報
はじめに
日本においてイノベーションと言うと、科学技術の観点での議論が喧しいが、そもそも実際に「収益につながるイノベーション」を日本企業はどの程度産み出せているのだろうか。
デロイト トーマツ コンサルティングでは2012年、日本企業335社に対して、以下3つを主要テーマとする、イノベーションの実態調査を実施した。
Theme1:「収益につながるイノベーション」を産み出せているか?
Theme2:「世の中にとって新しい」イノベーションを産み出せているか?
Theme3:なぜ日本企業はイノベーションを産み出し、成果に繋げられないのか?
本コラムでは、日米の定量データを比較すると共に、日本企業のイノベーションを産み出すための取り組み実態についての調査結果を紹介し、日本企業が抱えるイノベーション創出上の課題を明らかにしていく。
「収益につながるイノベーション」を産み出せているか?
日本企業が新規領域から産み出した成果の度合は米国に劣る
かつて日本はオートバイやウォークマン、卓上プリンターに代表される、世界に通用するイノベーションを産み出し、それらは日本経済の発展を支えてきた。しかしこの十数年、日本発の世界を席巻するようなイノベーションは産み出されておらず、薄型テレビを初めとするお家芸ともいえた家電製品においても新しい需要を創出するには至らず、アジア諸国との厳しい価格競争の中で敗陣をしいられている。一方、米国をみるとAppleのiPod、iPhoneやAmazonによる流通革命など、イノベーションと呼ばれる商品・サービスが産み出され、新たな市場が形成されている。
果たして、日本では本当にイノベーションが産み出されていないのであろうか。日米のイノベーションによる成果を創出された新規領域の売上割合として示したものが左のダウンロードファイルである。(図1)
直近事業年度の連結売上高について、過去3年内に市場に投入した新商品/サービス、新規事業(新規領域)の占める割合を示したものであるが、米国企業*1が11.9%に対し日本企業は6.6%と米国企業の約半分と劣っていることがわかった。本来、持続的成長をしていく為には両輪であるはずの「既存」「新規」のバランスが日本企業は米国に比べ「既存」に軸足を置いている傾向にあると言える。しかし、その軸足を置いている既存領域で世界規模の価格競争の波にさらされ、足元が磐石とはいえない状況に陥っていることを考えると、「既存」「新規」のバランスを最適な状態に見直していく(「新規」の割合を高める)ことが必要と考えられる。なお、参考までに中国における類似の調査結果では、中国企業*2が産み出す新規領域の割合は12.1%の米国と同レベルとなっている。
*1.「Business R&D and Innovation Survey 2009」(米国商務省国勢調査局および国立科学技術財団)より
*2.「第1回 全国工業企業イノベーション調査 2007」(中国国家統計局)より
図1:連結売上高に占める既存領域/新規領域の割合
世の中にとって新しいイノベーションを産み出せているか?
「世の中にとって新しい」革新領域からの成果が米国企業に大きく劣っている
イノベーションによる成果が米国に劣っていることは先に述べたとおりであるが、ではその質はどうであろうか。新規領域から産み出した成果が、「世の中にとって(自社/市場の双方にとって)新しい」領域(=革新領域)か否かを問うたところ、米国企業は約半数の51.5%が「世の中にとって新しい」と答えたのに対し、日本企業は11%と約5分の1の回答に留まった。(図2)
米国企業、中国企業調査においては、総売上高に占める各領域別の総計の比較により算出している。一方、本調査では大手企業の傾向を精査するために、回答企業の各領域割合の「平均値(全企業平均値)」を使用している。
*3. 「Business R&D and Innovation Survey 2009」(米国商務省国勢調査局および国立科学技術財団)より 上記はいずれも総売上高に占める各領域別の総計の比較により算出している。
図2:新規領域のうち「周辺領域」と「革新領域」の割合
革新的成果を上げている企業ほど持続的成長を実現できている傾向
日本企業の中でも「世の中にとって新しい」革新領域から産み出された売上高の割合が50%以上(米国企業平均と同レベル)の企業において、過去10年間の売上高成長率との相関をみると、82%もの企業が業界平均を上回る持続的成長を実現できていることも分かった。日本企業はもっと「世の中にとって新しい」かという目線から戦略を捉えなおすことで、持続的成長の実現に近づくことができるということに目を向けるべきではないだろうか。(図3)
なお、革新領域の位置づけについてはDeloitte7cellsSMというフレームワーク(図4)があるので参考にされたい。
図3:革新領域の売上割合上位企業と売上成長率との相関
図4:企業の成長源泉マップ(Deloitte 7cellsSM)
なぜ日本企業はイノベーションを産み出し、成果に繋げられないのか?
日本企業が今後より革新領域で成果をあげていくうえで、何が課題となっているのであろうか。ここでは、相対的に革新領域で成果をあげ、かつ業界平均を上回る持続的成長を遂げている企業を「成長企業」と定義し(前ページ図3)、それら「成長企業」の分析を通じて、日本企業が抱えるイノベーション創出における課題を明らかにしていく。
イノベーション人材のロールモデルの不在
「成長企業」では、「イノベーティブな組織」を目指すための取り組みとして、「社内環境整備」については「組織体制変革」や「外部人材の採用」など徐々にではあるが整備を進めている様子がうかがえる。しかしながら、トップやミドルなど組織の根幹にいる人材にロールモデルとなるようなイノベーション人材がおらず、また仮に個々人で革新的な取り組みを行っている人がいても、その人を積極的に評価するための人事評価制度も存在しないため巻き込みが加速しない傾向がある。その結果、新規事業の担当者としては、大海原に地図を持たずに独りで放り出されたような感覚に陥るのではないだろうか。(図5)
図5:革新領域を産み出せる「イノベーティブな組織」を目指すための取り組み
既存の枠組みを越えた新たなアイデア創出活動が行われていない
新しいアイデアの発掘/共有を促進する為の取り組みについて、「成長企業」のほうがそれ以外の企業に比べて全般的に取り組んでいる割合が高く、開きが大きい項目では20ポイント近くも活動量に差があることがわかる(図6)。しかしその活動に関しては「成長企業」であっても「既存の延長」での情報源に対しては積極的であるものの、「既存の枠組みを越える」アイデアの創出方法に対するアプローチは総じて低調である。更なる革新領域へ踏み出す為には、情報源についても既存の枠を超えていく活動が今後重要になってくるといえるだろう。実際、日本企業でもNTTグループによるgooラボやKDDIによる∞(無限)Laboなどオープンイノベーションを活用した取り組みを始めている企業も徐々にではあるが増え始めている。また、コンサルティングの場面でもこれまでの既存の延長線上ではない領域のコラボレーションを求める声が多くなってきているのも実感である。
図6:新しいアイデアの発掘/共有を促進するための現時点における取り組み
良質な新規事業を市場に投入するための磨き上げプロセスが不十分
「成長企業」は、アイデアを具体化していく過程で新規事業の投資評価・判断を有効かつ効率的に進めるために、新規領域固有の投資決定プロセスを約半数が採用している。
クレイトン・クリステンセン(ハーバードビジネススクール教授)著の「イノベーションのジレンマ*4」では次のように語られている。「既存の優良企業が、顧客のニーズに応えて従来製品の改良を進める持続的イノベーションのみに注力して革新性を失ってしまうと、全く新しい価値を産み出す革新性の高い破壊的イノベーションによって地位を失ってしまう」。
実際、「成長企業」は既存事業のみに注力しないよう、「会社としての新規事業の投資対象領域・テーマの事前設定 (50%)」を行い、「存在しない市場は分析できない」と言われ、既存事業との比較の中で新規事業の芽が潰されることがないよう「新規事業固有の投資判断基準の採用・運用(45%)」を行うなど、既存事業とは切り離した新規事業固有の仕組み整備により、「イノベーションのジレンマ」を回避しようとしている。
しかし、それもスクリーニングプロセスばかりに注力してしまうと、そのゲートを通過することが目的化してしまい、良質な新規事業を市場に投入するための短サイクルでの磨き上げが不十分となり、結果成功確率を下げることになりかねない。
*4. イノベーションのジレンマ(1997年刊)クレイトン・クリステンセン 著、玉田俊平太 監修/伊豆原弓 訳、株式会社翔泳社
図7:新規事業の投資評価・判断を有効かつ効率的に進めるための取り組み
新規事業がイベント化され、定常的なメカニズム化に至らず
新しいアイデアの種が見つかり、投資評価・判断をくぐりぬけた後、新規事業の立上げ、その後のモニタリングは円滑・効率的に進んでいるだろうか。「成長企業」では、「新規事業立ち上げサポート/アドバイスをミッションとする専門部署の設置(38%)」や「新規事業立ち上げにあたり共通して必要となる間接業務機能の提供(38%)」など新規事業の立上げに必要なサポートについては一定の対応がなされているものの、その後の「新規事業立ち上げへの参画を促進するような人事制度の導入(10%)」などのメカニズム化については全般的に10%程度の実施と低い。(図8)
日本企業において新規事業というものが、定常的なメカニズムの中から産み出されるのではなく、属人的なノウハウによって単発のイベントとしてまだまだ捉えられているとみることが出来る。
図8:新規事業の立上げ・モニタリングを円滑・効率的に進めるための取り組み
知的財産の管理が目的化しており収益源化まで至らず
新規領域を創出していくにあたって、全くのゼロから取り組むのではなく、既存の知的財産など活用できるものを効率的に活用していくということも一つの手段である。実際、「成長企業」も「保有知的財産の棚卸しと評価を実施している(61%)」というように保有知的財産の有効活用に向けてホットスタンバイ状態にしておくための取り組みは行っている。しかし、そこから一歩踏み込んで、保有知的財産を「収益源化」するための取り組み「新規収益源となる活用方法(ライセンス、スピンオフ、事業分離・売却等)を実行している(17%)」については、「成長企業」としてもまだまだ課題があるといえるだろう。(図9)
図9:知的財産活用の取り組みについて
おわりに
日本企業が革新領域で成果を産み出せない理由を個々に見てきたが、それらを総合的に捉えてみると次のような可能性が浮かび上がってくる。
•イノベーション人材のロールモデルがおらず、また育成活動も実施していないことで、新規事業担当者自身が動き方に戸惑い、闇雲に従来型の情報源に頼る
•「既存の延長」の情報からアイデア収集を行う為、イノベーション自体も起こらず、かろうじて既存の情報源から吸い上げた計画を、磨き上げが不十分なままスクリーニングしている
•磨き上げが不十分であるため、良質な新規事業とならず、また、新規事業の成功・失敗が“たまたま”で処理される為、ローンチされた新規事業の成功・失敗体験から学習しない
•過去の新規事業に対する取り組みから学ばないことで、ナレッジが属人化し、メカニズム化されないために組織に新規創出の風土が根付かない
•結果として、革新領域での継続的な成果が生まれず人材も育成されないため、また新たに新規事業担当となった人は闇雲に動く
個々の理由は小さくみえても、それらが組み合わさることで、革新領域での「成長」を妨げる悪循環のスパイラルに陥っていると想定される。日本企業はこれらのことに目を向け、10年後持続的成長を遂げられているよう、イノベーション創出に関する取り組みの抜本的な見直しが求められる。
(参考)
調査方法:郵送による調査票送付、Web回答もしくは郵送による調査票回収
調査対象企業:上場企業(時価総額50億円以上) :2,309社
非上場企業(単独売上高500億円以上) :726社
有効回答数:335社
調査実施期間:2012年7月-8月
コラム情報
著者:
デロイト トーマツ コンサルティング
マネジャー 福村 直哉
シニアコンサルタント 藤井 麻野
2013.01.28
上記の役職・内容等は、執筆時点のものになります。