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地方創生の核となる医療MaaSの可能性と課題

実証実験の事例紹介、および今後のサービス発展に向けたDeloitteからの提言

我が国では少子高齢化が進行している。高齢者の約8割が何らかの慢性疾患に罹患しており定期的な通院が必要であるが、免許返納や人口減少に伴う公共交通機関の撤退等により、医療機関へのアクセス性が低下しつつある。当社が千葉市や民間企業と共に実施する医療MaaS実証研究の概要とその結果を基に、医療MaaSがもつ新たな地方創生の可能性と、その実現に向けた論点を考察します。

『通院支援型』医療MaaSがもつ新たな地方創生の可能性

現在の我が国が世界でも類を見ないスピードで少子高齢化が進行していることは周知の事実である。75歳以上高齢者の約8割が何らかの慢性疾患に複数罹患しており定期的な通院が必要であるが、免許返納や特に地方における人口減少に伴う公共交通機関の撤退等により、適切な医療機関へのアクセス性が急速に低下しつつある。

特に高齢者の医療アクセス性低下は、自身の健康状態の悪化や地方自治体の医療・介護負担の増大に加え、高齢者の外出機会の減少による経済活動の停滞(税収の低下を含む)をもたらすことから、看過できない社会課題である。

患者の医療アクセス性を物理的に向上させる取り組みとして医療MaaSが注目されている。医療MaaSは移動主体(医師/患者/医療施設)によって次にあげる3つのパターンが存在するが、エリアの物理的特性や患者の移動困難さに応じてパターンを選択する必要がある。

①『在宅医療支援型』医療MaaS

医師がMobilityで患者の自宅へ移動することで医療アクセス性の向上を図る医療MaaS

②『通院支援型』医療MaaS

患者がMobilityで最適な医療機関へ移動することで医療アクセス性の向上を図る医療MaaS

③『中間型』医療MaaS

検査/治療機器をMobilityで患者近辺まで運ぶことで医療アクセス性の向上を図る医療MaaS

例えば、がん終末期で移動困難な患者には『在宅医療支援型』が適しているであろうし、広大なエリアに医療機関が一つしかないような医療過疎エリアで、患者が比較的健康に出歩くことが可能な場合は『中間型』が適しているであろう。単に患者に医療を提供するだけであれば上記タイプの医療MaaSで事足りるのかもしれないが、我々は通院に合わせて1日の用事を全てこなす高齢者の行動パターンに着目し、『通院支援型』医療MaaSを外出支援手段と位置付けることができれば、医療アクセス性だけでなく全般的なQOL向上、延いては地方経済の活性化を実現する手段となるのではないかと考える。

また、サービスを通じて入手されるデータは、医療だけでなく通院前後の行動/購買データも含まれため、慢性疾患に罹患する高齢者の行動をより高精度に分析することが可能となる。特に行政にとっては、糖尿病などの慢性疾患の重症化を予防するため、住民の層別化や効果的な介入施策の立案・実施に活用可能であるだけでなく、災害時に移動困難な高齢者を的確にフォローできることから、『通院支援型』医療MaaSは都市OSの中核を占める存在になることも期待できるであろう。

本書では、当社が千葉市や民間企業と共に実施する『通院支援型』医療MaaS実証研究の概要とその結果を基に、『通院支援型』医療MaaSがもつ新たな地方創生の可能性と、その実現に向けた論点を考察したい。

執筆者紹介

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

眞砂 和英

高橋 敦

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