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リアル・タイム・ストラテジー

シナリオプランニングの先にあるAIとの協奏による新たな未来洞察と機動的な意思決定

不確実性が高まる世界で求められる新たな戦略立案アプローチと機動的な意思決定手法について、モニター デロイトが提唱する「リアル・タイム・ストラテジー」を紹介する。本稿は2022年6月30日に実施した『リアル・タイム・ストラテジーセミナー シナリオプランニングの先にあるAIとの協奏による新たな未来洞察と機動的な意思決定』の抄訳となる。

はじめに

モニター デロイト パートナー 中村 真司

COVID-19のパンデミック以降、あるいはそれ以前から、グローバリゼーションやデジタライゼーションの加速により社会や経済の不安定さは劇的に増している。こうした「不確実性」の高まる世界の中で、従来の戦略的アプローチの妥当性は失われ、寿命も短くなってきている。

これからの世界ではビジネスに関わる予想外の変化が突発したときに、長期的な目標を見据えながら戦略を動的に動かしていくことが必要になる。

モニター デロイトでは、自社の“大義”に当たる経営目標から事業領域、事業戦略、組織能力、マネジメントシステムまでの大きく5つの問いに対して適切な戦略立案を行う独自のフレームワーク(Strategic Choice Cascade)を基点に、先進のAI・アナリティクス技術を活用し、加速する不確実性に立ち向かっていく術を、業界のリーディングカンパニーとの実践を通じて日々磨いている。

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本稿では、上記を実現するために提唱する「リアル・タイム・ストラテジー」という手法を紹介する。なお、本手法に関してモニター デロイトが監訳した『リアル・タイム・ストラテジー AIと拓く動的経営戦略の可能性』を発刊しているので、より詳細な内容について関心のある読者は参照されたい。

『REAL TIME STRATEGY』原著者からのメッセージ

フロリアン クライン

本稿のテーマであるリアル・タイム・ストラテジーに関心を持っていただき感謝を申し上げたい。昨今のような不確実性の高い世界を乗り越えるための鍵となる3つのポイントを紹介する。

  1. 戦略的に未来を見通すこと
    この20年で経済・社会の市場は開かれ、より密接に繋がるようになった。ますます不安定になる世界で、私たちは自身で未来を見通す力を培わなければならない。
  2. AI、ビッグデータなどの新たなツールを手に入れたこと
    “人間の叡智”と“AIなどの技術”を組み合わせ駆使することで、自分たちの世界で何が起こるのかを見通すことができる。
  3. これらの新たなツールを実際に経営の現場で活用すること
    人間の叡智と技術を組み合わせ未来を見通す能力は、今後もますます向上し改善していかなければいけない。実際の経営現場で活用し、経営や組織の新たな論点を考える必要がある。

これらを念頭に本書籍を発刊した。経営の難局を乗り越えるために、リアル・タイム・ストラテジーをご活用いただきたい。

意思決定のための「メガトレンド洞察」と「シナリオプランニング」とは

モニター デロイト パートナー 三室 彩亜

不確実性の高い環境で経営する手法として、シナリオ・プランニングとともに挙げられるものに、メガトレンドを見て経営するというものがある。最初に、「メガトレンド洞察」と「シナリオ・プランニング」を概観しておきたい。

最初にこの2つの見方のおおもとにある、「不確実性」の正体をシナリオ・プランニングの起源である「戦争」という観点から説明する。

戦争は、世界的なサプライチェーンが存在しない限りは敵軍と自軍だけの問題だった。また地球の反対側の人々の意見は直接的な影響を及ぼしてこなかった。さらに社会課題を含む世界の難題は、人類全体に関わるトレードオフを含んでいる。

この例のように「不確実性」の正体は、世界が繋がることによる「接続性」、その繋がりが複層化することによる「複雑性」、それらが輸送やデジタルで進むことによる「速度」に分けることができる。

これら3つの要素から構成される「不確実性」に向き合って経営をしていくための手法として「メガトレンド洞察」と「シナリオ・プランニング」が存在する。

メガトレンドとは、「現在から未来に向かう時間」ではなく「物事の大きな方向性や事象」を扱い、世界を大きく変える深層底流を捉えるための方法だ。モニター デロイトでは、要素間の接続性やそれが生み出す複雑性に着目し、独自のフレームワーク(EDGE・PRISMの観点から将来影響を与える要素を抽出、要素間の接続性・複雑性に着目したフレームワーク※1)を用いメガトレンドを洞察している。そのように掴んだメガトレンドを起点として、自社や自社産業の動向から、理念やビジョンを通じて、戦略を立てていく。


※1  
EDGE 経済(Economy)、人口動態(Demographics)、地球環境(Geo environment)、エネルギー(Energy)の4視点による定量データ
PRISM 政治(Politics)、宗教(Religion)、技術革新(Innovation)、社会動向(Social Movement)の4視点による定性データ


シナリオ・プランニングとは、戦略の前提となるメガトレンドの変化を動的に捉え、今後のより幅広い戦略オプションを予め定めておくアプローチである。

不確実性に対する向き合い方を比較したのが下記の表だ。

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リアル・タイム・ストラテジーがなぜ今必要か

モニター デロイト パートナー 中村 真司

先に述べた世界情勢の変化により、近年はより不確実性が高まっている。そのため、3-5年という中期の経営計画を立てるといった従来の経営手法は通用しなくなっており、より長期の戦略を見据えなければいけない状況だ。

このような予測困難な世界の中で鍵となるのは「不確実性を受け入れる」という姿勢をもつことだ。不確実性を受け入れ、複数の選択肢をもちながら最も合うシナリオを選んで自社が変化していくこと、機械の助けを借りながら各所に散在する課題に機敏に対応していくことが重要になっている。

ここからリアル・タイム・ストラテジーの要諦として、不確実性の高い世界でシナリオ・プランニングを実施し、勝ち残る経営のかじ取りをするための7つの原則を紹介する。

リアル・タイム・ストラテジー7つの要諦

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長期的な視点に立つ

従来の戦略は、計画の射程が近視眼的で短期的なものに制限されていた。一方で今後重要になるのは、10年先の目指すべき姿を見据え、そこから逆算して足元の戦略を立て実行するという、長期的な視点をもつことだ。企業を大きく変えるためには、根本的な問題に対処し、様々な困難やチャンスを認識しながら、10年先に向けて今取り組まなければいけないことに落とし込むことが必要となる。

アウトサイド・イン思考

従来は自組織に焦点を置いて検討を開始するということが一般的だったが、今後は外的な環境分析から検討を開始することが重要だ。そうすることで大きな視野に立って物事を検討し、組織に長期にわたって変革を起こしていくことが可能になる。

幅広いシナリオ

今後起こり得る確率の高いシナリオだけを前提とするのではなく、確率が低くとも組織に影響を与える可能性があるシナリオを幅広く検討することも重要だ。幅広く検討することで、潜在的に存在するリスクや機会を見つけ出すことができ、それによって事業環境の変化を察知し機敏に動くことができる。

全体的な視点を持つ

限られたトップの人々だけで戦略を策定するのではなく、少数意見を取り入れ様々な視点をもつことも重要だ。そうすることで新しいリスクや機会を見つけることができる。

不確実性を受け入れる

これまではリスクを恐れ変化や不確実性を否定するか、どんな可能性も逃さないほど幅広く取り入れるかの両極端な姿勢が主流だった。しかし、戦略を遂行する際には、不確実性があるという前提をもってないと、その後の機敏な動きができなくなる。また認知範囲を明確にするためにも不確実性を受け入れることが大切だ。

ズームアウト・ズームイン

最初に長期的なビジョンをもちズームアウトで将来像を描く。10-20年先の世界や経営環境を検討した上で、中間地点として3-5年単位の中期計画に落とし込む。そのため事業環境が変わった場合には、目指す姿を実現するために計画自体も変えなければいけない。長期と短期の計画を反復し、リアルタイムで観測し意思決定することが我々の提唱する「リアル・タイム・ストラテジー」だ。

機械の客観性と人間の直感の融合

これまでは複雑なアルゴリズムや機械を取り入れる価値を理解せず人間のみで検討していた。しかし、最終的な意思決定は人間が担いながらも、それを助けるために機械・AIを組み合わせていくことが重要だ。

リアル・タイム・ストラテジーの必要性

世界的な潮流として、今後もますます不確実性が増大していくことは明らかだ。このように先を見通すことが難しい世界で変化に直面した際には、将来の経営環境に最も合うシナリオを選択し、常に複数の選択肢をもち、機敏に環境変化に対応した意思決定を行っていく必要がある。

これまでは、シナリオの実現可能性をモニタリングすることは非常に難しかった。シナリオを構成する主要なドライバーは数十個あり、それに紐づくサブドライバーは数百個存在する。これらを全て人間の手で収集してモニタリングすることは現実的ではない。

そのため、従来は一度作ったシナリオは作りっぱなしで、実は特定のベースシナリオの世界しか見ておらず、柔軟に機敏に意思決定することができていなかった。

近年ではAIがシナリオをモニタリングすることができるようになり、ほぼリアルタイムで情報収集・分析しながら、最も実現しそうなシナリオを選択し、組織や戦略を変えていくことが可能となった。

リアル・タイム・ストラテジーを実現する「人間とAIの協奏」

モニター デロイト パートナー 吉沢 雄介

戦略的目標を達成する過程では「複雑性」と「適応性」が大きな壁となる。複雑性とは「他の要素に影響を受けて変化する状態、特定の要素の状態が別の要素で決まること」を指す。適応性とは「それまでに慎重に研究してきたシステムが要素や状態、相互の関連性も含めて全てそれまでと突然別のシステムに変化すること」を指す。

重要な点は「複雑性」の範囲は、AIや機械で定義できるものではなく、人間の叡智を使いながらシナリオ思考を用いて定めていくということだ。この範囲が定まると、いくつかのシナリオのどれが進行しているのか、どちらに向かいつつあるのかを技術を使って観測できるようになる。

つまり、AIに代表される技術だけで完結できるということではなく、これまでどおり我々人間がやるべきことが存在し、それにAIなどの技術を組み合わせていこうということだ。

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シナリオ思考におけるAI活用

次にシナリオ思考におけるAI活用の具体例を紹介する。シナリオ思考は「調査」「モデリング」「モニタリング」の3つに分けられる。この3つのステージ全てでデータとAIなどの技術を活用することが重要だ。具体的には、ドライバーの特定や他トピックとの繋がりを示唆することなど、調査段階からAIや技術を使ってファクトベースでシナリオを描く。この時に特定した方法論やデータの考え方がモデリングに繋がる。最後にシナリオの実現可能性の判断や、シナリオの健全さについてリアルタイムでモニタリングしていく。

シナリオ・プランニングにおけるテクノロジー活用の利点

シナリオ・プランニングにおいてテクノロジーを活用することで得られるメリットについて述べる。5つのメリットがあるが、人間の解釈や知恵と技術を合わせることで初めてこのメリットを享受できるということをご理解いただきたい。

ドライバーの特定

これまでのような人間の“経験や勘”による仮説だけではなく、“データやファクト”を使って未来を作り出すトレンドとドライバーの特定が可能となる。

ドライバーの評価

ドライバーの影響や不確実性を広い視野で理解することができるようになる。

シナリオ・プランニングシステム全体のスピードアップ

品質を損なうことなく、短期間で効果的なシナリオ・プランニングが可能となる。

ストーリーテリング

あるビジネスドライバーが変わっていく状態を時系列の動画にすることで、内容を凝縮してストーリーを伝え、その意味やインサイトをより確実に抽出できる。

シナリオ実現度・アップデート期の把握

リアルタイムでシナリオ実現可能性を把握し、可能性の高い指標を追跡することが可能となる。またシナリオをアップデートすべき時期の判断を可能にする。

AIを活用したシナリオ・プランニング例

実際に、AIを活用したシナリオ・プランニングの環境はすでに整っている。モニター デロイトではシナリオに影響するドライバーの動向をモニタリングするツールとして‘Gnosis, strategy‘を開発した。こちらのツールでは、ドライバーの特定、ビジネス環境を変化させる情報の調査と分析、その後の指標のモニタリングと妥当性の評価を行うことができる。

 

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AIとの協奏で環境に合った経営戦略を手に入れる

近年の変化する経営環境に合わせシナリオ・プランニングはもとより“リアル・タイム・ストラテジー”を活用するためには、DXの御旗の下に意思決定自体もトランスフォーメーションするとよいのではないかと考えている。現在はビジネスモデルや業務フローなどからデジタルトランスフォーメーションが検討されている。しかし、本当のトランスフォーメーションは物事の考え方や意思決定そのもののはずだ。つまり、意思決定そのものにもDXという考え方を適用することが重要である。

そしてこれからの経営戦略に向けて、まずは加速度的に拡大する不確実性を受け入れることが必要になる。その上で、AIと協奏して新たな未来洞察と機動的な意思決定を行う。確実な答えではなく、如何に事前に備えておくか、かつリアルタイムに時間を縮めていくかが今できる最善だと思われる。

まとめ

モニター デロイト パートナー 中村 真司

本稿では現代の戦略策定の難しさと、そのような世界で必要とされる経営手法について紹介をした。特に昨今はCOVID-19の影響もあり、ますます不確実性の高い世界となっている。このような状況では足元だけを見て経営するのではなく、長期的な視野をもち、物事を検討する必要性が高まっている。シナリオ・プランニングに加え、AIなどの技術を活用することが、情勢の変化に合わせた機敏な経営を可能とする。必ずしも全てAIが解決するわけでなく、AIを活用して人間の意思決定のレベルを上げ、スピードを早め、確実性を高めることが、世界の変化に適用し、国際的な競争力を付けていくことに繋がると考えている。

抄訳記事作成
モニター デロイト シニアコンサルタント 矢座 寛人
モニター デロイト シニアコンサルタント 廣瀨 翔也

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