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SDGsを起点とした事業創造

骨太な新規事業創出のためのモニター デロイト流アプローチ

多くの企業が取り組み頓挫してきたSDGsを起点とした新規事業創出について、多様な業界の企業と共にSDGsを起点とした新規事業創出に取り組んできたモニター デロイトが培った検討アプローチを紹介。

はじめに

SDGs(Sustainable Development Goals)は2020年から「実行の10年」を迎えた。SDGsが採択された2015年当時、「SDGsは2030年までに12兆ドルの新しい事業機会を生み出す宝の山」、と様々なメディアで謳われ、様々な企業は期待感を胸に新規事業の取り組みに乗り出したが、思い描いた成果を得られず頓挫するケースが実態として少なくない。

モニター デロイトは、CSV(Creating Shared Value)の提唱者であるマイケル・ポーター教授らによって設立された戦略コンサルティングプラクティスであり、これまで多岐に渡る業種・業界の企業と共にSDGsを起点とした新規事業創出に取り組んできた。

本稿では、上記を通じてモニター デロイトが培ってきた検討アプローチを紹介する。尚、本検討アプローチは2018年に日本経済新聞社より上梓した「SDGsが問いかける経営の未来」や「研究開発リーダー 21年8月号」の「SDGsを起点とした事業創造」の内容を基に加筆修正したものである。事例等も交えた詳細な内容や、SDGsの本質的な読み解き方、その他経営変革のアプローチ等について関心がある読者は「SDGsが問いかける経営の未来」も参照されたい。

SDGsを起点とした事業創造のアプローチ

実際にSDGsを起点に新規事業を検討する中で、難しさとして挙げられるものは大きく3つある。

第一に、事業機会への読み替えだ。SDGsは2030年を見据えた「国際目標の集合体」であるため、いかに事業機会に読み替えられるかが最初のポイントとなる。

第二に、事業機会の優先順位付けだ。169にわたる詳細目標が含まれるSDGs全てを検討対象とするのは現実的でないため、効率性の観点から優先事業機会を絞り込み、効率的に検討を進めていくことが不可欠だ。

第三に、新規事業アイデアとしての新規性だ。これは新規事業検討全般で生じる難しさだが、SDGsから導出される事業機会のほとんどは多くの他社も取り組んでいる中で、「何か新しさを」と言う極めて抽象的な問いに向き合う上で、拠り所となる「型」を持つことが重要となる。

上記3つの難しさに対応する3つのステップと、抽出されたアイデアを検証する1ステップを加えた計4ステップから成るモニター デロイトのアプローチが図1だ。

 

SDGsを起点とした事業創造のアプローチ
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Step1:SDGs起点の事業機会発掘

Step1ではSDGsの詳細目標から事業機会を網羅的に抽出する。事業機会は言い換えれば“解けばカネになる課題”だ。つまり、詳細目標達成のボトルネックになる社会課題を抽出する。

これは、定量分析を通じて見えてくる。例えばSDG13「気候変動」では、いくつかの詳細目標をグルーピングする事で「気候変動・温暖化への適応」という社会課題に読み替えられる。そして、その社会課題の深刻度を、気候変動起因の自然災害の発生件数を軸に定量分析することで、特にゲリラ豪雨の被害がボトルネックである事が明らかになり、結果的に「ゲリラ豪雨の予測精度向上」という事業機会を抽出できる。
 

Step2:事業機会の優先順位付け

Step2では抽出された事業機会の優先順位を決める。優先順位付けの観点は「事業性」と「実現可能性」だ。

「事業性」は、当該事業機会が孕む社会課題がもたらしている経済損失額で評価する。いわゆる市場規模でなく経済損失額に注目するのは、現状顕在化していない市場(≒今後新たな技術/ビジネスモデルにより開拓され得る新市場)も含む潜在的なポテンシャルを考慮する為だ。

「実現可能性」は、自社のケイパビリティ(強み/アセット)との親和性で評価する。自社の主たるケイパビリティを整理した上で、それらが当該社会課題を解決する事業に活用でき得るか否かを定性面も含め評価する。ここで言うケイパビリティは、いわゆる技術等に加え、顧客接点や提携しているパートナー等の観点も含め幅広に捉える。
 

Step3:事業アイデア構築

Step3では特定された事業機会から、実際の事業アイデアを着想する。ここでは、更に詳細なステップとして、(ⅰ)「課題の深堀り」、(ⅱ)「既存の打ち手の限界の理解」、(ⅲ)「新たな打ち手の兆しを踏まえた事業アイデア化」の3ステップを捉える。先に述べた新規性の「型」にあたるのが(ii)と(iii)だ。それぞれ以下に詳細を示す。

まず(ⅰ)事業機会(=課題)の深堀りでは、その課題が「なぜ起きているか?」を問い、根本原因を明らかにする。ボトルネックとなっている原因が何かを明確に捉えることが事業アイデア構築の1st Stepとなる。

次に、(ⅱ)既存の打ち手の限界の理解では、(ⅰ)で捉えた課題の根本原因を解く為に、既に他社が試行している打ち手(=製品/サービス)とその限界(解決できていない課題)を明らかにする。例えば、品質や精度の不備、課題解決のスピード、価格の高さ等だ。限界を明らかにする為に、それらの観点を持ちながら、実際にその製品/サービスを活用している/していた顧客に対してヒアリングを行いその限界を明らかにする事も有効だ。現存する打ち手で超えられていない限界を知り、次の(ⅲ)に向けたヒントとしていく。

そして、(ⅲ)新たな打ち手の兆しを踏まえた事業アイデア化では、(ⅱ)で捉えた限界を打破しうる事業アイデアに、世界中で顕在化する新たなテクノロジー/ビジネスモデルの兆し(新しさ)と自社の強み(自社らしさ)を掛け合わせ、事業アイデアに仕立てる。

事業アイデアの新規性を導出する為に、モニター デロイトでは、国内外約120万社のスタートアップ企業の情報を有する独自のデータベース「Tech HarborTM」を活用している。そのデータベースを基に、新たなテクノロジー/ビジネスモデルを活用した課題解決を試行する企業を効率的に探索し、検討に活用している。
 

Step4:ビジネスモデル検証

Step4以降は、事業アイデアをビジネスモデルとして具体化するために、その有効性や実現可能性を検証していく。Step3までは机上の検討が主になるが、ここからは、実際にアーリーアダプター顧客を探索しながら精度を高めていくことが重要だ。

小さな失敗を是としながらトライ&エラーで効率的に解に近づくリーンスタートアップ的なアプローチが注目されて久しいが、ここでもやはりそのような思想が中心となる。

モニター デロイトが取り組む「企業の『SDGsに貢献しうる技術イノベーション力』評価への挑戦」

前述のアプローチの中でも、特にStep3の事業アイデア構築において新規性の源泉となる、新たなテクノロジーやビジネスモデルの兆しをいかに捉えるかは非常に重要だ。既に紹介したスタートアップ企業探索に加え、モニター デロイトでは特許技術にも注目し、「企業の『SDGsに貢献しうる技術イノベーション力』の評価への挑戦」という取り組みの中で、全世界の特許出願1,400万件を分析し、それぞれの特許がどのSDGsに貢献するかを可視化した。(分析の詳細なアプローチや結果は「企業の『SDGsに貢献しうる技術イノベーション力』評価への挑戦」に譲る)

例えば、SDG12「生産・消費」に関連する特許についてクラスタ分析を実施すると、「廃棄物の収集・運搬・処理の最適化システムに関する技術」や「食品廃棄物の処理装置に関する技術」といった技術クラスタが形成されることが分かる。これは言い換えれば技術投資が進んでいる領域だ。Step3で新しい技術の兆しを探索する際の足掛かりとして着目できる。逆に、技術クラスタの内訳を紐解いていくことで、既存の打ち手の限界を逆算的に特定していくこともできうるだろう。

おわりに

SDGsの時代において、顧客や投資家等ステークホルダーからの要請の高まりを背景に、社会価値と経済価値の両者を具備する事業を創り出していくことは今後更に重要性を増していく。そして、国連からも再三強調されているように、それを牽引する重要なドライバの一つは技術イノベーションになるだろう。

他方で、「研究開発部門の新規事業プレゼンは何度聞いても分からない」という経営者の声は後を絶たない。新規事業に対する考え方や創出のプロセスが共通言語化されておらず、各部門がそれぞれの言語でコミュニケーションを図ろうとする為だ。

「こうすれば絶対に新規事業が成功する」手法は存在しない。本稿で紹介したアプローチもその域を出ないかもしれない。しかし、実際にいくつかの企業では、本アプローチをきっかけに成果創出に繋がり、社内の共通プロセスとすることで再現性を伴う例も出始めている。

本稿の内容が検討の一助になることを願うと共に、引き続き多くの企業と大義ある事業創造に取り組んでいきたい。

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