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上場オーナー等が資産管理会社株式を公益財団法人に寄附する場合のメリット

ファミリーコンサルティングニュースレター 2024年10月

上場オーナー等が公益財団法人に自社株式として資産管理会社株式を寄附する場合のメリット、そのメリットと後述する租税特別措置法40条の特例制度との関係について解説します。

はじめに

上場会社の役員、創業者又はそれぞれの一族(以下、「上場オーナー等」といいます)の保有する株式の承継プランの一環で、自社株式として上場会社株式を公益財団法人に寄附する事例が散見されます。また、上場会社株式を寄附財産とするのではなく、当該上場オーナー等により運営され、当該上場会社株式を保有している会社(以下、「資産管理会社」といいます)の株式が公益財団法人への寄附財産として選択されることも見受けられます。本稿では、上場オーナー等が公益財団法人に自社株式として資産管理会社株式を寄附する場合のメリット、そのメリットと後述する租税特別措置法40条の特例制度との関係について解説します。

上場オーナー等が資産管理会社株式を公益財団法人に寄附する場合のメリット [PDF, 906KB]

自社株式として資産管理会社株式を寄附する場合のメリット

上場オーナー等が公益財団法人に自社株式を寄附する場合、以下の2つの観点からは資産管理会社株式を寄附する方が有利になるものと考えられます。
 

1. 公益事業の財源安定化

上場会社株式からの配当は、当該上場会社の業績により変動することが考えられ、当該上場会社株式を寄附された公益財団法人で運営する公益事業における財源は不安定になります。これにより、いわゆる公益認定基準における収支相償(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下、「認定法」といいます)5六)と遊休財産規制(認定法5九)の充足に支障をきたすケースがあるものと考えられます。

■ 公益認定基準(認定法5)のうち収支相償と遊休財産規制

内容

(収支相償)その行う公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること

(遊休財産規制)その事業活動を行うに当たり、遊休財産額(認定法16②、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則(以下、「認定法施行規則」といいます)22)が1年分の公益目的事業費相当額(認定法16①、認定法施行規則21、内閣府「よくある質問(FAQ)」問Ⅴ―4―①参照)を超えないと見込まれるものであること

 

まず、収支相償は、原則として、公益目的事業について、収入と支出が均衡しているか、支出が超過していることを求めるもの(内閣府「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)」5(1)参照)であるところ、上記のような業績による配当額の変動に合わせて、公益財団法人で運営する公益事業を拡大又は縮小できるとは限らないからです。

次に、遊休財産規制は、上記の通り、遊休財産額が1年分の公益目的事業費相当額を超えないと見込まれるものであることとされており、遊休財産額とは、資産の額から負債及び控除対象財産(対応する負債を控除後)をそれぞれ控除した額とされます。ここで、寄附した株式もそこから生じる配当金(費消されなかった分)も資産として計上されますので、それぞれが控除対象財産に該当すればよいのですが、当該配当金に関しては、相当の期間に費消することができるものしか控除対象財産と見込まれません(認定法16②、認定法施行規則22)。

一方、資産管理会社株式からの配当は、保有する上場会社株式に財源は依拠するものの、資産管理会社自体の内部留保の活用等により、資産管理会社の判断で配当水準を決定できることから、当該上場会社の業績の影響を排除し安定したものとすることが可能と考えられます。したがって、当該資産管理会社株式を寄附された公益財団法人にとっては、運営する公益事業収入の安定化が期待できます。これは、上記における収支相償(認定法5六)と遊休財産規制(認定法5九)の各要件充足にも寄与するものと考えられます。
 

2. 上場オーナー等の議決権の維持

寄附対象が上場会社株式の場合、無議決権株式を発行したままの上場は審査が厳格であることや上場後に無議決権株式を導入している企業が乏しいことから、公益財団法人に寄付する株式を無議決権株式にすることにより、上場オーナー等の議決権を維持することは現実的ではないため、寄附により上場オーナー等の議決権割合は減少せざるをえなくなります。

寄附対象が資産管理会社株式の場合でも、公益財団法人の役員を上場オーナー等の親族等で固めることはできない(認定法5⑩、⑪)ことから、当該公益財団法人に議決権のある資産管理会社株式を保有させると、上場オーナー等の当該資産管理会社に対する議決権は減少します。ただし、資産管理会社において種類株式を導入することにより、寄附対象とする株式を無議決権化し、これを寄附することで、資産管理会社に対する上場オーナー等の議決権、さらに言えば資産管理会社を通じた上場会社に対する議決権を維持することが可能となります。

資産管理会社株式を寄附する場合のメリットと措置法40条の特例制度との関係

上場オーナー等が公益財団法人に資産管理会社株式を寄附した場合、所得税法上、原則として時価で譲渡したものとして上場オーナー等個人に譲渡所得税が課せられます(所法59①一)。しかし、一定の公益財団法人に対して行われる寄附で下記の要件(非課税要件)を満たすものとして、寄附の日から4カ月以内に承認申請書を提出し国税庁長官の承認を受けたときは所得税が非課税になる特例制度があります(措置法40①後段、措令25の17⑤。以下、「措置法40条の特例制度」といいます)。措置法40条の特例制度の適用を受けるためには、当該非課税要件(措令25の17⑤、「租税特別措置法第40条第1項後段の規定による譲渡所得等の非課税の取扱いについて」(以下、「措置法40条通達」といいます。))の全てを満たす必要がありますが、そのうち前述の「公益事業の財源安定化」は非課税要件のうち公益増進要件及び事業供用要件と関連し、「上場オーナー等の議決権の維持」は非課税要件のうち不当減少要件と関連します。

■ 非課税要件(措令25の17⑤)

内容

(公益増進要件)贈与又は遺贈が、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与すること

(事業供用要件)贈与又は遺贈に係る財産が、当該贈与又は遺贈の日から2年以内に当該贈与又は遺贈を受けた法人の公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みであること

(不当減少要件)贈与又は遺贈より、譲渡又は遺贈した者の所得税の負担を不当に減少させ、又は贈与又は遺贈した者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないこと

 

1. 「公益事業の財源安定化」と公益増進要件の関係

公益増進要件は、「公益目的事業の規模」、「公益の分配」、「事業の非営利性」及び「法令の遵守等」の4つの観点から判定するものとされています(措置法40条通達12)。このうち「公益目的事業の規模」と「事業の非営利性」の要件充足は、「公益事業の財源安定化」により左右されるものと考えられます。まず、「公益目的事業の規模」については、一般的に、多くの公益財団法人で公益目的事業とされる奨学金事業を例とすると、「30人以上の学生等に対して学資の支給若しくは貸与をし、又はこれらの者の修学を援助するための寄宿舎を設置運営する事業(措置法40条通達12(1)ト)」が、原則として、「公益目的事業の規模」の要件を充足するものとされていますが、配当等の財源が不安定になると、記載されている学生数を割り込むなど当該要件が充足されない可能性が考えられます。次に、「事業の非営利性」については、その公益の対価たる配当等がその公益財団法人の事業の遂行に直接必要な経費と比べて過大でない(措置法40条通達12(3))ことが要件充足にもとめられますが、こちらも配当等の財源が不安定となると、当該経費に比べて過大な配当等になるなど当該要件が充足されない可能性が考えられます。


2. 「公益事業の財源安定化」と事業供用要件の関係

上記の通り、寄附された財産は、公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みでないと事業供用要件を充足しませんが、株式は、その性質上、事業の用に直接供されるものではありません。そこで、寄附された株式(配当金などの果実が毎年定期的に生じない株式を除く)に関しては、各年の配当金などその財産から生ずる果実の全部が当該公益目的事業の用に供されるかどうかにより、当該財産が当該公益目的事業の用に直接供されるかどうかを判定することになっております(措置法40条通達13)。このため、前述の遊休財産規制や公益増進要件の「事業の非営利性」と同様に、配当額が多額となった場合に上記要件充足の障害となりえます。


3. 「上場オーナー等の議決権維持」と不当減少要件の関係

不当減少要件の1つとして、公益法人等が贈与又は遺贈により株式の取得をした場合には、その取得によりその公益法人等の有することとなるその株式の発行法人の株式がその発行済株式の総数の 2 分の 1 を超えることとならないことが求められています(措令25の17⑥五)。したがって、資産管理会社株式を公益財団法人に寄附し、措置法40条の適用を受けるためには、当該公益財団法人の資産管理会社株式に対する株式保有割合が最大50%になる範囲で行う必要があります。当該寄附株式数の制限は、議決権の有無は問われないため、仮に無議決権株式を寄附する場合においても発行済株式総数の50%を超える株式の寄附について措置法40条を適用することはできません(措置法40条通達19の2)。

まとめ

前述の通り、公益財団法人に自社株式を寄附し、措置法40条の特例制度が適用されれば、みなし譲渡益課税が非課税になるメリットだけでなく、その株式の所有権は当該公益財団法人に移転し、上場オーナー等の財産ではなくなりますので、以後上場オーナー等の相続発生時において当該株式に関する相続税が発生しないメリットもあります。

一方、公益財団法人解散時の残余財産の帰属先が、国、地方公共団体、他の公益法人に限られる(法令3①二)ため、寄附した株式の取り戻しができないデメリットがあり、さらに、措置法40条の特例制度は手続きが複雑かつ、通常、その承認まで長期に及ぶため税務専門家の関与が不可欠となります。

また、2024年5月14日衆議院本会議にて「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が原案どおり可決・成立し、5月22日に公布された改正認定法は、2025年4月に施行される予定です。当該改正認定法では、前述の収支相償や遊休財産規制の内容も変更が予定されていることから、その影響を注視するとともに、上場オーナー等が公益財団法人に自社株式を寄附する場合には、株式の種類、株式数及びその配当額等を事前に把握したうえで、計画的に実行されることが肝要であると考えられます。

※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。

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