調査レポート

スマートフォンにおけるサステナビリティとサーキュラーエコノミー

デロイト『Digital Consumer Trends 2022』日本版

近年、「サステナビリティ」に対する意識が世界各国で高まっている。「カーボンニュートラル」の実現、そして経済成長も目指すなかでのドライバーとして新たな経済システムである「サーキュラーエコノミー(資源循環)」に期待が集まっている。(図1)

多様化するデジタルデバイスにおいて、特にユーザ保有率が最も高く、買い替え頻度も高い製品のひとつであるスマートフォンに着目し、サーキュラーエコノミーについて消費者データを用いて考察する。スマートフォンは2022年に世界で45億台にのぼると試算され1、このCO2排出量の大半(83%)は14億台(2022年出荷予測)の新型スマートフォンの製造、出荷、利用によるものであり2、端末寿命の延命が排出量削減の鍵になる。また、使われなくなったスマートフォンを回収してレアメタル調達に対応するケースや、エシカルで環境に配慮したスマートフォンの登場(オランダのFair phone3)など、メーカーにおけるリサイクル、部品再利用の活性化もみられる。さらに欧州を中心に「修理する権利(Right to repair)」や「リペアスコアリングシステム」など、製品寿命を延ばす取り組みも進んでいる。本稿では日本と欧州諸国の消費者の動向を比較し、考察する。

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カーボンフットプリントへの消費者の関心は、日本ではまだ芽生えの段階

カーボンニュートラルへの関心が製造業を中心に高まっているが、ユーザの関心はどうだろうか。(図2)

「自社製品のカーボンフットプリントを企業が共有するべきか」の問いには、日本では約25%が「同意する」と回答した(「強く同意する(5%)」、「どちらかといえばそう思う(20%)」)。一方で、欧州諸国の消費者の約57%は「同意する」と回答しており、日本と比べて非常に高い。

また「価格が高くても、カーボンフットプリントが低い機器を買うか」の問いには、日本では約12%が「買う」と回答した(「強く同意する(2%)」、「どちらかといえばそう思う(10%)」)が、欧州諸国では約28%が「買う」と回答している。この結果から、カーボンフットプリントへの意識は欧州では高い一方で、日本での関心はまだ途上にあるといえる。(図3)
 

 

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スマートフォン中古市場への消費者の関心も、日本ではまだ芽生えの段階

次にサーキュラーエコノミーの観点で、中古スマートフォンの循環サイクルの動向を観察し消費者の関心を考察する。「現在のユーザ保有端末は新品か中古か」の問いには、日本では「中古品を保有している」と回答した人は5%しかおらず、欧州諸国の約14%と比べて大きく差が開いている。また、スマートフォン買い替え後に旧端末を流通させる意識を確認すべく、「自分のスマートフォンを売った場合の販売価格を把握しているか」との問いには、日本では「把握している」との回答は約11%であり、欧州諸国の約32%と比べて大きく差があった。

欧州ではiPhoneやAndroidなど携帯端末の中古品・整備品専門のマーケットプレイス(Back Market4など)が一定普及しており、消費者も旧端末を売る意識があることが伺える。一方日本においては、SIMフリーの普及は欧州と比べて遅く、キャリア各社が導入した使用済み端末の返却を条件に割賦残債を免除する「端末購入サポートプログラム」など、各種の規制も影響し、中古品市場はまだ途上段階にあるようだ。(図4、図5)
 

 

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中古スマートフォンの流通の起点は日本では通信キャリアの下取りが主流だが、欧州ではサードパーティが活躍

スマートフォンを買い替えた際、旧端末を予備として持ち続けるケースが日本、欧州ともに多数を占めている(約40%)が、予備として持つ以外の循環サイクルが回るケースを考察する。日本の消費者は、旧端末を「携帯電話会社に売却、下取り(18%)」に出すことがほとんどであり、囲い込みのためのキャリアの充実したサービスやメーカーの保証サービスが、回収の動きの多くを占めていることが伺える。

一方、欧州では「家族・友人に売却・譲渡(20%)」することが多く、エンドユーザー間での再利用の動きがみられる。また、前述のBack Marketにあたる「ネットのマーケットプレイスで売却(6%)」、「リサイクルの仕組みやサービスを利用して無料で利用(6%)」、「小売店に売却(2%)」も日本と比較して浸透しており、サーキュラーエコノミーの実践が進んでいる。欧州ではメーカーやキャリア以外の中古のプラットフォームや小売店、修理事業者など多様な3rdパーティが存在し、中古の市場のプレイヤーが出そろいつつあることが伺える。(図6、7)

なお、旧端末を予備として持つ日本の消費者の約34%が「個人情報が残っていた」ことを理由にしている。欧州諸国よりも約20%も高く、個人情報の取り扱いへの対応がわからない消費者も少なくないことが伺える。(図7右表)
 

 

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寿命と信頼性の不足を理由に、新品スマートフォンが購買されている

前述の通り、中古スマートフォンの流通はサーキュラーエコノミーに有効であるが、現時点では新品スマートフォンが多く購買されており、まだこれからといった状況にある。消費者が新しいスマーフォンを購入する理由は「寿命が長い(37%)」が最も多く、欧州においても同様に高い割合(24%)であった。そのほかは、日本では「中古/整備品の携帯電話への信頼度不足(26%)」、「新しい携帯電話がエキサイティングである(20%)」ことが挙げられた(図8)。

欧州も基本的に同じ傾向だが、3rdパーティ事業の普及や消費者の環境意識により、バッテリー交換と修理で端末を長く利用しようとする傾向にあり、バッテリー寿命を理由とした割合は日本と比べて低いようだ。また「中古/整備品の携帯電話に傷や瑕疵がある、信頼性が低い」と考える日本の消費者も多く(26%)、中古スマートフォンの流通には信頼性が一因となるだろう。

本調査では、新品スマートフォン購入理由を確認しているが、中古スマートフォンが普及しない理由を考察するにあたっては、同じスマートフォンを長く使い続けている消費者がいることにも目を向ける必要がある。スマートフォンの価格が上昇傾向5にあることに加え、消費者の経済的な事情もあり、買い替えサイクルは長期化傾向にある。実際、国内においても2022年に発売されたiPhone14 の販売の初速は2020年の「iPhone 12」比で約69%減6となっており、買い控えが見られる。

近年では機能面も技術的に安定し、多少古いスマートフォンでもおおよその機能が使えるため、本来は中古市場の追い風になっているはずだが、日本ではなかなか中古市場が普及していない。その一因として、日本で機種変更をする際は、携帯ショップや家電量販店で購入するという購買様式が長く定着していることに加え、図8の調査結果にもある通り、バッテリー持ちやOSサポート期間などを考慮すると、中古スマートフォンは結果的にコストパフォーマンスが良くないと思われている可能性があるだろう。

これらが中古スマートフォン市場普及の課題とした場合、個人同士による取引PF(メルカリなど)ではなく、長く利用に資する保証付きの中古PF(Back Marketなど)による新たな購買様式の定着が、中古市場普及の一因となるかもしれない。
 

 

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スマートフォンにおけるサーキュラーエコノミーに向けて

日本のスマートフォンのサーキュラーエコノミーは、消費者動向を見る限りでは途上段階にあるといえる。「サステナビリティ・サーキュラーエコノミーへの消費者感度の低さ」、「中古/整備品に対する消費者不安(バッテリーや中古品への信頼度)」、そして「個人情報への漠然とした不安から消費者が手元でスマートフォンを持ち続けている」ことが主な要因であった。また、国内のスマートフォンメーカーや部品・部材メーカーは新製品に注力しており、中古/整備済製品はビジネス上重要な位置づけではないとされがちであることも一因であろう。

社会の「持続可能性」に貢献し、顧客にとって価値があるとともに、企業にとっても調達課題を解決する経済的価値があることへ取り組むことが重要であり、下記3項目が重要なアジェンダになるのではないか。(図9)
 

 

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(1)【消費者視点】消費者ニーズに訴求した中古/整備品提供
国内では中古/整備済製品はビジネス上重要でなく捉えられがちだが、海外のスマートフォンメーカーにおいては、中古/整備品市場をビジネス目線で捉え、新規顧客層の獲得施策として位置づけている。前述のとおり、経済的な事情等もあり、新製品の買い控え傾向がみられるなかで、品質の良い中古/整備済製品が手ごろな価格で消費者に届けられるのであれば、中古/整備市場におけるビジネス機会もあると考えられる7

具体的には、スマートフォンメーカーや通信キャリアが中古/整備品を手掛け、検査等の付加価値を乗せ、買い替えようとする消費者に中古/整備品を販売し、収益を獲得することである。前述のとおり、中古スマートフォンに買い替えた場合、バッテリーの持ちや、OS対応期間などの懸念があり、結果的にコストパフォーマンスが悪いと考える消費者も少なくない。また、個人情報の取り扱いにも懸念を示す消費者もいる。そこで、中古品への保証を充実させて安心感を醸成させることや、バッテリー等の懸念点に対する積極的な情報開示、端末買取り事業者による端末のデータ消去を徹底し、信頼性をアピールすることで、中古品の流通に寄与できるのではないか。
 

(2)【事業者視点】サプライチェーン構築(保証体制、調達戦略など)、周辺事業への参入
事業者視点においては、保証体制や調達戦略等のサプライチェーン構築や、周辺事業への参入機会が考えられる。

まず製品保証についてだが、従来、製品の保証をメーカーが行うことを前提としてきたが、今後は自前主義から脱却した新たなビジネスモデルも必要ではないか。具体的には、新品はメーカーが保証し、中古品/整備品は他社連携やプラットフォーマーを活用することも考えられる。前述のとおり、サーキュラーエコノミーと中古市場は、今後も市場拡大傾向にあると考えられる。また近年、欧州では修理しやすい製品の生産をメーカーに義務付け、一部製品においてメーカー側の部品保有期間を7年まで延長する動きもあり8、メーカーにとっては部品在庫を抱えるコストが増えるだろう。

こうした状況を踏まえると、新品は従来通りメーカーが保証するが、すべて自前主義とはせずに、中古品/整備品はセカンド市場プラットフォーム(Back Marketなど)や認定リファービッシュ業者を活用して保証を付与することも検討すべきであろう。また、認定リファービッシュ業者に長期リペアパーツの保管を委ね、メーカー自社のオペレーションリスクを低減することも考えられる。

中古市場に対応するオペレーションコストが一定大きいことを踏まえた場合、中古/整備品のビジネスをスマートフォンメーカー・通信キャリア、販売店、最終消費者にとって、価値あるビジネスモデルに構築していくことがポイントになるのではないだろうか。

次に、調達戦略という観点では、リサイクルと部品の再利用により、安定して調達する体制・基盤を構築することも重要である。

スマートフォン生産には枯渇性資源と呼ばれる「レアメタル」が不可欠であり調達課題でもある。特にコバルトとニッケルなどは今後の需要増加が見込まれ、供給不足に陥る可能性があり、価格ボラティリティも高い9。そうした背景も一因として、Apple社ではサーキュラーエコノミーを推進しており、iPhoneを分解できるリサイクルロボットの活用を進め、再生素材の利用を推進しており、2021年のApple製品に使用された全素材のうち再生素材が約20%となっている10。また、回収した製品の一部の部品の再利用にも取り組んでいる。グローバル企業の動向もとらまえつつ、国内スマートフォンメーカーも素材や部品の安定調達に向けて、サーキュラーエコノミーに取り組むことも必要だと考える。

最後に、サーキュラーエコノミーが活性化するにあたり、関連事業者にとってもセカンド市場プラットフォームや認定リファービッシュ業者、スマートフォン保険等の周辺事業への参入余地もある。2021年にはセカンド市場プラットフォームにBack Marketが日本に進出するなど、3rd パーティの参入もみられ、市場拡大の兆しもみられ、今後の動向に注目したい。
 

(3)【日本・業界全体】日本および関連企業によるルール形成と国際標準化へ積極的に関与していくこと
ルール形成や国際標準化においては欧州が先行しており、サーキュラーエコノミーを世界でリードしている。材料調達や製造、物流、使用、回収、再利用といったサイクルにおける様々な企業が関わる情報プラットフォームにおいても欧州が推進している。海外勢に供給網のデータを押さえられると標準化の戦略においても先手を打たれ、日本の製造業やIT企業は国際競争で後手に回る可能性がある。日本の勝ち筋を見定めたうえで、グローバルプレーヤーとの連携も考慮に入れ、ルール形成に積極関与していく必要がある。

スマートフォンにおけるサステナビリティとサーキュラーエコノミーは日本ではまだ芽生えの段階にあるが、これから広がる市場であると考えられる。今後も消費者と市場動向を継続調査していく。
 

脚注
  1. Gartner, "Gartner forecasts global devices installed
    base to reach 6.2 billion units in 2021 ," press release, 2021/4/1
  2. International Data Corporation, “Smartphone
    shipments to grow 5.5% in 2021 driven by strong 5G push and pent-up demand,
    according to IDC .”, 2021/3/10
  3. 環境に優しいスマホ 「Fairphone 3+」⇒本体素材の40%が再生プラスチック, Huffpost, 2020/8/30
  4. Back Market - About Us , Back Market, 2022/12/1 アクセス
  5. 新型iPhone価格、10年で3倍「平均月収の6割」もするスマホになってしまったのか?,Business Journal, 2021/9/18
  6. iPhone 14の初速は前年比23%減、実売データで見えた円安・物価高の逆風, 日経クロステック, 2022/9/29
  7. 中古スマホ販売台数は過去最高の212万台, 株式会社MM総研, 2022/7/26
  8. EU における「修理する権利(Right to repair)」について, 西村あさひ法律事務所, 2021/8/4
  9. 2050年カーボンニュートラル社会実現に向けた鉱物資源政策, 資源エネルギー庁, 2021/2/15
  10. Apple、製品全体で再生素材の利用を拡大, Apple, 2022/4/19

執筆者
 

高橋 正彬/Masaaki Takahashi
デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー

大手電機メーカー等を経て現職。電機・通信・メディア企業を中心に、主に新規事業開発・サービス企画、業務改革、経営管理、デジタル変革など幅広いプロジェクトに参画。戦略策定から事業立ち上げ、テクノロジー導入までEnd to Endでの実行支援の実績を有する。

 

式見 浩/Hiroshi Shikimi
デロイト トーマツ コンサルティング シニアコンサルタント

精密機器メーカー、外資系コンサルティングファームを経て現職。製造、エネルギー、メディア企業における、業務/働き方改革、DX推進プロジェクトを中心に担当。生産性向上・高付加価値化に向けた業務改革として、フロントオフィスからバックオフィスにわたる包括的な変革支援の経験を有する。

 

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