調査レポート

デジタルコンテンツ消費体験とデバイスの変容

デロイト『Digital Consumer Trends 2022』日本版

COVID-19の影響による外出制限で2020年から“巣ごもり需要”が高まり、動画配信サービスをはじめとしたオンライン上で、映画やドラマなどを特に自宅で楽しむ人が飛躍的に増加した。また物理的な接触や交流が大きく制限されるため、リモートワークも急速に普及した。こうしたコロナ渦で変わった消費者行動は一過性である部分と定着する部分があり、来年以降も継続して観察する必要がある。本稿ではデジタルコンテンツの消費体験のデータを解釈し、シーンにより用いられるデバイスの動向を考察していく。


 

映像コンテンツの視聴はテレビデバイスに回帰している

別稿「スマートウォッチ/ヘルスケアバンドにより高まるデジタル健康意識」で述べたとおり、消費者は複数のデバイスを保有して用途やシーンに応じて使い分けている。本稿では行動制限が徐々に緩まりつつある2022年の消費者の行動や、用途ごとに選ばれるデバイスの変化を観察する。

「メディア行動時に好んで使用するデバイス」についての質問では、前年の調査では、消費者はあらゆることにおいて「スマートフォンを利用している」との回答が目立ったが、今年は多くの年代で「映画やテレビ番組、見逃し配信サービス」は「テレビ」を利用しているとの回答になり、テレビデバイスに回帰しているようだ。

デジタルコンテンツは有料動画配信サービスや広告付き動画配信サービスを通じて利用が堅調に伸びている。デジタルコンテンツは、小さなスマートフォンでなく、自宅にいる時間はゆったりとした居心地のよい空間で、テレビデバイスを通じて視聴したい消費者の嗜好が推察できる。また、良質な映像コンテンツが大画面で視聴できるコネクテッドTVの普及拡大による影響も考えられる。巣ごもり需要や東京五輪でのテレビ買い替え需要等もあり、コネクテッドTVが一定普及し、テレビでOTTサービス(NetflixやPrime Video、TVerなど)をシームレスに視聴できるようになった。スマートフォンからテレビにキャストする機能も一定浸透し、使い慣れたスマホからテレビへと連携が容易になり、テレビの活用の幅が広がりつつあることも一因と考えられる。実際、TVerのコネクテッドTVを用いた再生数は2022年には前年同月比の2倍1に伸長しており、今後も普及するとみられ、映画やドラマなどの視聴にはテレビの大きな画面で楽しむ行動は一定程度継続するのではないだろうか。

その一方で、18-24歳の世代においては、映画やテレビ番組といった比較的長い番組であっても、スマートフォンを利用して楽しむ傾向に変化はみられなかった。この世代は「スマホネイティブ」とも言われる世代であり、動画視聴についてもスマートフォン利用が心地良いと感じる世代である可能性も考えられ、25歳以上の層との間には消費嗜好の境目がある、との仮説が考えられる。その場合、今後スマホネイティブ世代が年齢を重ねた後も、スマートフォンベースでの利用体験を好む傾向は一定続く可能性も考えられる。今年のデータでは検証はできないが、今後検証する価値はあると考える。放送、動画業界、デバイスメーカーには、この世代の消費動向を踏まえた製品・サービス提供が求められるようになるだろう。(注)

(注)なお、デロイトではテレビやスマートフォンなど「スクリーン」利用の2030年までの中長期的な未来像をシナリオ形式で分析したレポート「Future of Screens」も発表している。併せて参考にしていただきたい

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そのほかの用途についても触れておきたい。「購買行動(ショッピングサイト閲覧、オンライン購入)」において、前年までは44歳以下がスマートフォン利用中心であったが、今回の調査結果では、45-54歳においても「スマートフォン」を利用するとの回答となっており、スマートフォン利用の年齢層が広がっていることが伺える。

またゲームにおいては、総じてスマートフォン偏重傾向にあるが、25-34歳においては「据え置き型ゲーム機」の利用が多い結果となった。2020年末以降、いまだに入手困難とされているPlayStation 52などの人気による牽引もあり、ソーシャルゲームよりもコンソールゲームへのハイエンドなゲーム体験が求められていることが伺える。

 

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VRヘッドセットの保有率に変化はないが、利用率が向上

ここまで用途別のデバイス利用の変化をみてきたが、前段で触れたゲームにおいても近年話題になっているメタバース関連のデバイスに着目したい。現時点においては、メタバースを高い没入感で楽しむことができるデバイスとして、VRヘッドセット(Meta Questなど)が挙げられるが、実際のところはどの程度市場に浸透しているだろうか。

「保有しているデバイス」について聞いたところ、「VRヘッドセット保有率」は前年に引き続き「3%」と変化がなかった。しかし、「毎日利用しているデバイス」についてVRヘッドセット保有者の回答は、前年は「22%」であったが、今年度は「30%」に増加しており、利用頻度が向上していることが伺える。これらは、コロナ禍での家時間の増加や、VRコンテンツの増加3等により、利用が増えたものと推察される。

 

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前述のとおり、VRヘッドセットの保有者割合に増加傾向はみられなかったが、そもそも「メタバース4」そのものの市場認知はどのくらいあるかみていきたい。「メタバースについて聞いたことがあるか」を尋ねた設問では、「メタバースを知っている」と答えた層は32%に留まり、半数以上がメタバースについて「何も知らない(36%)」または「聞いたことがない(18%)」と回答しており、メタバースの市場への浸透はまだ途上段階にありそうである。

 

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では次に、現在のメタバースにおける一般消費者の利用シーンとして最も多いとされるゲームに着目してみよう。「ゲームをする際に利用している端末」について聞いたところ、スマートフォン(61%)、ゲーム機(34%)、パソコン(28%)となっており、VRヘッドセットは「3%」にすぎず、図3で確認したデバイス保有率と同じ数値に留まっている。前述のとおり、一部コンソールゲームのハイエンドなゲーム体験への揺り戻しはあるものの、全世代においてソーシャルゲーム利用率が高い状況にある。これらを踏まえると、ゲームを楽しむという観点では、スマートフォンやゲーム機、PCで一定程度充足していることが伺え、「VRヘッドセット」を利用したゲーム体験も普及にはまだ遠い状況にあるといえる。
 

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最後に、VRヘッドセットを保有していない理由を探っていこう。なぜ「VRヘッドセットを保有していないか」を聞いたところ、上位3項目の回答は「VRに興味がない(39%)」、「VRヘッドセットが高価すぎる(21%)」、「VRについてあまり知らない(19%)」となっている。これらを踏まえると、VRヘッドセットを活用した体験価値が価格に見合っていないということが伺える。

 

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デジタルコンテンツ消費体験に最適なデバイスが選ばれるようになる

ここまで見てきたように、COVID-19を契機として、デバイスを通じたデジタルコンテンツ消費体験に変化がみられつつある。

映像視聴体験という観点では、従来は地上波をみるためのテレビという存在から、コネクテッドTVの普及拡大により、良質な映像コンテンツを大画面で視聴できるものへとかたちを変えつつある。今後もテレビを通じて動画コンテンツを視聴する人はさらに増加すると考えられ、消費者のテレビに対する行動も変容していくことが予想される。また、テレビがインターネットと接続されたことにより広告の在り方も変わっていくと考えられ、このような変化の予兆をいち早く捕捉し、順応できた企業が、テレビ画面を通したプロモーション施策をリードしていくと考えられる。今後も消費者動向を捉えるとともに、企業の動向についても注目していきたい。

また、メタバースにおける空間体験という観点においては、VRヘッドセット保有者の利用率は向上する傾向がみられたものの、普及にはまだ遠い状況にある。近年、メタバース市場への積極的な投資が目立ち、関連技術の発展による体験価値の向上や魅力的なコンテンツの開発などが進んでいる。ただし、近年の技術進歩により安価なVRヘッドセットが登場してきてはいるものの、メタバースが普及するには課題も多い。特にメタバース空間を体験するために使用するヘッドセットの課題をクリアすることがカギになるとされ、現状のデバイスでは大きくて重く使いづらい、VR酔い等の課題があり、長時間装着するには身体への負担も大きく、アーリーアダプタをはじめとした層の利用に留まっている状況である。

しかし逆にいえば、デバイスがサングラスのような重量とサイズ感に進化したとすれば、日常生活に溶け込み、日常のほぼすべての活動・時間においてデバイスを装着できるようになり、リアルとバーチャルが融合した世界が実現され、一気に普及すると考えることもできる。

技術進歩により特定のデバイスが消費者の利用シーンに適したかたちに進化を遂げ、ユーザーの日常に求められるようになると、利用シーンが増え一気に普及していくことが考えられる。デジタルコンテンツ消費体験に最適なデバイスが消費者から選ばれるようになるのである。今後、メタバース市場における新たなデバイスが登場することも予想されるため、継続して市場動向を捉えていきたい。

脚注
  1. 2022 年 3 月の動画再生数が 2 億 5 千万回/月を突破! コネクテッド TV の比率が初めて 25%を超え、全再生数の 4 分の 1 に, Tver, 2022/04/26:
  2. It's Going to Get Even Harder to Buy a PlayStation 5, Bloomberg, 2021/11/11:
  3. QUEST 2版『バイオハザード4』が「THE GAME AWARDS 2021」で「BEST VR/AR GAME」を受賞, oculus, 2021/12/9
    PlayStation 5で対応PS VRゲームをプレイ, SONY, 2022/12/8アクセス
  4. メタバースの定義は、様々な企業や有識者による定義が乱立しており、画一的な定義は存在していないが、多様な定義に共通して「バーチャル」が欠かせない要素になっている。(「メタバースは、インタラクティブかつ没入型で、ユーザーが自己表現と喜びをもたらす方法でブランドとの交流、ユーザー同士の自由な交流を実現するデジタル化された広大な共同スペース」(Epic)、「メタバースは、インタラクティブかつ没入型で、コラボレーション可能な、3D の仮想共有世界」(NVIDIA)など

執筆者
 

高橋 正彬/Takahashi, Masaaki
デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー

大手電機メーカー等を経て現職。電機・通信・メディア企業を中心に、主に新規事業開発・サービス企画、業務改革、経営管理、デジタル変革など幅広いプロジェクトに参画。戦略策定から事業立ち上げ、テクノロジー導入までEnd to Endでの実行支援の実績を有する。
 

 

大池 徹/Toru Oike
デロイト トーマツ コンサルティング コンサルタント

新聞社での営業・企画職を経て現職。通信・広告代理店・半導体業界を中心に、ベンチマーク動向調査やシステム構想の策定といった調査~構想フェーズから、システムの導入推進支援、マーケティングコンテンツ作成支援の実行フェーズまで、幅広い領域のコンサルティングに従事。

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