調査レポート

動画配信サービスの消費の変容

デロイト『Digital Consumer Trends 2022』日本版

有料動画配信サービス(Subscription Video On Demand:SVOD)の利用は成長鈍化

昨年(2021年)までの国内SVODの利用は増加傾向にあった。特にコロナ禍の巣ごもり需要を背景にして36%に伸長した。しかし今年(2022年)のSVOD利用率は38%となり伸びは鈍化した。欧州のSVOD利用率も同様に昨年からの伸びが鈍化している。なお、例年のことであるが日本のSVOD利用率は欧州と比べて非常に低い。(図1)

この停滞の要因は若年層に顕著に表れている。25歳以降の年代(55~64歳を除く)の利用率は今年も伸びているが、18~24歳の若年層では9ポイント低下しており全体の利用率を停滞させる要因となっている。(図2)

 

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注視すべき利用者の解約動向

昨年のレポート1で触れた通り、SVOD利用が増えていく中において、利用者の引き留めやさらなる取り込みに向けて注目すべきは「解約(Churn)」である。解約する理由には「一時的に/シーズン中に必要だった」(18%)、「私や家族が観たいものが何もなかった」(14%)、「私や家族が観たかったコンテンツを全て見た」(10%)が多く、コンテンツへの興味が継続と解約に影響している。(図3)

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なお、解約後に再契約する動機は「お気に入りの番組の新シーズンがリリースされたこと」(27%)が最も多く、消費者の解約と再契約はやはりコンテンツ次第であるようだ。(図4)

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SVOD事業者は解約を抑止しようとさまざまな施策を試みている。注意すべきは利用者の解約のユーザーエクスペリエンスは印象に大いに影響を与えることだ。解約を阻止しようとして解約しづらい手順にすると解約率を下げるどころか、解約の意思をかえって強めてしまい、再契約をされなくなると言われている。このような利用者の嗜好を踏まえて解約手続きを簡便にし、また解約後にもプロフィールやお気に入り情報を保持したまま再契約を可能としている事業者もいる。利用者の「解約」だけでなく「再契約」まで連ねて捉えてサービスを設計することが利用定着には欠かせないものと考えられる。

広告を受容する消費者にみる日本のメディア環境

昨年(2021年)の調査に続き、国内の消費者において「広告を視聴する形式での動画視聴の利用意向」は22%あり、広告を受け入れる姿勢は昨年(21%)よりほぼ横ばいであった。(注)
また、「わからない」と答えた人は昨年と比べて5ポイント低下しておりサービス普及に伴って認知も増え、AVOD(広告型動画配信サービス)や広告付きのSVODに関心が寄せられてきたと考えられる。(図5)
また、昨年と同様に、「広告を見る必要がないよう正規の金額を払う」意向を持つ消費者(17%)よりも広告を受容する消費者(22%)割合のほうがやや高い。日本では1953年にテレビ放送が始まり、2000年12月には無料衛星放送も始まり、長らく広告付きの無料放送が消費者に浸透している2。欧米のようなCATV等映像メディアに支払うことが少なかったことが、広告の受容性が高いこと、またSVOD利用率が低迷している背景にあると考えられる。

(注)ここでは本設問が「興味を持っている新しい動画ストリーミングサービスがあると想像」したうえでの回答を促すものであるものの、具体的なサービスを提示しておらず、既存のサービスを想定した回答がされる場合も多かったのではないかと推察される点に留意が必要である。仮に、キラーコンテンツなどユーザー視聴意欲を促進するような強みを持った新しいAVODサービスの登場を具体的に前提とした際には、より多くの回答者が利用意向を見せるかもしれない。話題性があり視聴者を惹きつけサービス利用に誘導することができるコンテンツをラインナップに揃えることで、AVODの利用が促進される可能性もある。

 

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サブスクリプションを支払う対象のサービスは若年層で変化した

前述の通り、今年の国内消費者調査では従来のSVOD利用率の成長は鈍化しつつある。この成長鈍化は18歳から24歳の消費者の減少に表れていた。(図6左部)一方動画配信サービス全般においては「広告を見る必要がないよう正規の金額を払う」意向のある消費者も18歳から24歳の消費者層であり、20%から28%に伸びている。(図6右部)18歳から24歳以下の若年層では従来のSVODを離れて、広告付きを含む動画配信サービスにサブスクリプション費用を払う意識が高まっていることが窺える。

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デジタル機器が身近にある環境で育ったデジタルネイティブとも呼ばれる若年層の間では、テレビ放送はかつてほど浸透していない。直近の利用率は減少しているとはいえ他の世代よりもSVOD利用率のボリュームが大きいのは、有料コンテンツを含む様々なメディアやゲームがある環境で育っていることが影響しているとも考えられる。

SVOD事業者は、若年層が熱狂するようなコンテンツを生み出せるか、またUXを向上させることができるかがさらなる普及に向けて肝要であろう。これに加え、広告に受容性がある消費者の嗜好も捉え、いくつかのSVOD事業者が広告をつけて低価格プランをSVODサービスに導入することも試行されている。国内においてもNETFLIXは2022年11月より同プランをUSで月額6.99ドル、日本では月額790円(税込)で追加した3。このプランの導入は、広告に受容性のある消費者も取り込めるかの試金石となりうる。コロナ禍の巣ごもり需要が一段落した中で、SVODの停滞の打破と広告への受容性が交じり合う様相に今後も注目していきたい。

有料サブスクリプションサービスの家族外でのアカウント共有

ところで、ここまで動画配信サービスの消費動向の変化を考察したが、有料サブスクリプションサービス事業者側のもう一つの課題である、アカウントの不適切利用についても今回調査対象とした。各社のサービスは、アカウントを家族内で共有することを許容することが多い。消費者にとっては家族それぞれが同一料金で見られるメリットがあるが、事業者にとっても契約の継続率の向上や視聴数を増やすための重要な戦略である。家族がそれぞれ異なるデバイスで異なるコンテンツを視聴する状況が想定されるため、アカウントやパスワードは招待メール等で簡単に共有ができる仕様になっている。一方、共有が簡単にできるゆえに家族以外の人とも共有できる状態となっている。

家族以外とアカウントを共有しているかどうかを尋ねた設問(図7)では、調査対象の欧州では平均が37%、日本では23%が共有していると答えている。欧州の方が日本よりも共有される割合が高い。日本国内では、年代別には18歳から24歳の層が34%、続いて25歳から34歳の層が31%となっており欧州の割合に近づいている。(図8)EUの動画配信サービスの高い利用率や、国内においても若年層ほど高い利用率を鑑みると、利用率とアカウントを家族外と共有する割合との相関も考えられるが、今回の結果からは特定できる状況にない。事業者にとって重要な課題であるこのテーマも継続して注目していきたい。

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会員数の増加を目指す各事業者にとっては、伸びを鈍化させる一つの要素として当課題を解決していく必要がある。直近では、米動画配信大手のNETFLIXが2023年初頭からアカウント共有の取り締まりを広範囲に展開することを明らかにする等、アカウント共有違反を防ぐ動きが徐々に広がっていくことが予想される。この動きの中で、有料サブスクリプションサービスの利用率が今後どうなっていくか注目していきたい。

脚注
  1. デロイト,『Digital Consumer Trends 2021』日本版, 2021/12:
  2. NHK, 「NHK放送史」,2022/12/8アクセス:   
  3. 米ネットフリックス、日本でも11月から広告付きプラン開始へ, 日経ビジネス, 2022/10/14

 

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