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ユーザーインターフェースとしてのXRデバイス進化の方向性
VRデバイスがNextスマホとして着目を浴びてから数年が経過した。ARグラス・VRヘッドセットの出荷台数は約1000万台規模に到達し普及の兆しはあるものの、未だニッチの域を出ていない。現状はiPhone登場以前のスマホと同様に形状やUIも統一されておらず試行錯誤の段階であるが、水面下では様々な取り組みが始まっており、デバイス進化や半導体等関連する要素技術の進化の方向性について解説します。
XRデバイスの現状と課題
VRデバイスがNextスマホとして着目を浴びてから数年が経過した。ARおよびVRヘッドセットの世界出荷台数は2022年実績で880万台 、2023年には出荷台数が前年比14%増となると予想され 普及の兆しはあるものの、未だニッチの域を出ていないのが現状である。デロイトの消費者調査(Digital Consumer Trends 2022)では日本のVRデバイスの保有率は2022年時点で3%に留まる 。また、没入感の高さからユーザーの利用も負荷も大きく、アクティブベースでの利用率は更に低く、スマートフォンのような身近なユーザーデバイスになるにはまだ距離があるのが実情である。
メタバースのブーム化を機にサービスやPFが多く登場したが、デバイス視点ではスマホ・タブレット・PC等を含むマルチデバイス対応のサービスが大半を占め、VRデバイスが必須のサービスは少ない。VRデバイス非対応のサービスや対応メーカー・機種を限定したサービスも多いのが現状である。サービスプロバイダ視点では普及済みデバイスのユーザー基盤の大きさを優先してサービス開発を進める動きは自然な選択といえる。
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一方でメタバースの提供価値を引き出すためには、XRデバイスの普及は必要不可欠と考える。現状はiPhone登場以前のスマホと同様に形状やUIも統一されておらず試行錯誤の段階であるが、水面下では様々な取り組みが始まっており、ここではデバイスや関連技術の進化の方向性について触れていきたい。
デバイスの基本性能の向上とAR・VR技術の融合
現在のXRデバイスは年々進化を遂げているものの課題も多く、軽量化・小型化・高精度化・視野角の拡大等のデバイス基本性能の向上が不可欠な状況である。デバイス本体に加え、マイクロLED等の次世代ディスプレー・電池・半導体等の要素技術開発も進んでおり、海外ではこうしたハードウェア開発を進めるディープテックスタートアップも増加している。
また、VRとAR技術の融合も今後進んでいくと考えられる。現状のVRデバイスは没入感が高い一方で、外部視認性に乏しくユーザーの視覚・聴覚を占有する必要があり“ながら”利用ができない点が大きなボトルネックである。一方でスマートグラス等のARデバイスは没入感や実在感のような体験価値で劣り、相互の弱点を補完する技術開発が進められている。融合を実現する技術の一例として一例としてビデオパススルーが挙げられる。非透過ディスプレーと外部カメラを用いながら視野を確保し、現実の風景と仮想映像を合成する技術領域であり、Meta Quest Pro等のハイエンド機種への実装が進められている。こうしたユーザー体験と外部視認性を両立するデバイス開発が進められている。
低価格化と製品ラインナップの拡大
アーリーアダプターからマスユーザーへの普及にあたりキーとなるのが低価格化と製品ラインナップの増加である。低価格化についてはVR/ARデバイスともに過去数年間で価格低下が進み3-5万円程度の普及価格帯のデバイスが増加しつつある。スマホ普及時はiPhoneやGalaxyはじめとするハイエンドが先行しつつ、中国メーカーの低価格スマホが新興国における普及ドライバーとなった。XRデバイスも同様にハイエンド・ミドルエンド・ローエンドそれぞれの価格帯でのデバイスの展開が拡大していくことが期待される。
5感技術の進化
インターフェースの中長期的な進化の方向性として着目されているのが5感技術の進化である。XRデバイスは現状視覚(映像)中心の進化を遂げてきたが、メタバースにおける体験価値の向上には聴覚・触覚・嗅覚・味覚等の進化が重要となる。聴覚では映像と組み合わせて特定の音や臨場感を再現する立体音響技術が挙げられる。例えば音楽ライブにおいて特定のアーティストの声を拡大したり、舞台の裏側の音声を再現する等の映像・音声の組み合わせで臨場感を高めるユースケースが挙げられる。
また、音声関連では自然言語系の技術とデバイスの融合の取り組みも見られる。ARソフトウェアを開発する英Xrai Glassは、ARグラス向けに聴覚障がい者向けのリアルタイム会話文字起こし・翻訳 や、OpenAIのGPT-3を利用したAIバーチャルアシスタントを開発している 。触覚ではハプティクス等のセンシング技術やロボット等のHWと組み合わせて仮想空間内のデバイスを遠隔操作するユースケースが想定される。嗅覚・味覚では香り・味覚等の感性価値をセンサー・ディスプレー等のデジタル技術で再現するユースケースが模索されている。様々なアプローチが存在するが、五感インターフェースの進化や昨今注目を集めるGenerative AI(生成AI)をはじめとするテクノロジーを組み合わせたソリューション開発が今後の大きな方向性と見立てている。
半導体・要素技術の進化
また、これまでに見てきたような5感技術やAI技術との融合を実現するには特にメタバースの設置場所となるクラウド基盤で従来以上の強力なコンピューティング能力を必要とするようになる。メタバースが先進半導体の需要ドライバーとして非常に大きな注目を集めている所以であり、NVIDIAやINTELなど既存の半導体メーカーに加えGoogleやMicrosoftと言った企業も自社プラットフォームの付加価値を高める半導体の設計に参入していることから今後は各社から自社のメタバースの機能の最適化に特化したチップが次々と開発されていくだろう。またクラウド側だけではなくエッジ側のAR/VRデバイスにおいてもマイクロ有機ELやマイクロLEDなど従来とは別次元の高精彩を実現するディスプレイ用素子の需要が顕在化するなどメタバースのもたらす経済効果は計り知れない。
XRデバイスは複数技術との組み合わせが必要なため短期的には変化が見えにくいが、メタバースの本格普及に向けたキーとなる領域である。今後のデバイスや周辺技術の進化を注視しつつサービス開発や導入を進めることが肝要と考える。
Emerging Technology
デロイト トーマツ グループは、Web3、量子技術、5GといったEmerging
Technology(以下ET)について、各業界の支援実績等に基づく幅広い知見を有しています。また、グローバルを含むアカデミア・産業界・政府系機関との繋がりを有しており、ETの最新動向を踏まえた価値提供・創造が可能です。
児玉 英治/Eiji Kodama
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー
国内大手半導体メーカー、シンクタンクを経て現職。半導体・AIなどのテクノロジー企業を中心に、戦略策定から業務モデル変革、システム導入支援まで幅広い領域のプロジェクトに従事。
多数のグローバル案件への参画実績を持つ。
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