【特別取材】スポーツの未来を変革する―ショートムービー「Relentless Challenger その挑戦が未来をつくる」で伝えたかったこと

  • Digital Business Modeling
2022/12/22

2022年デロイト トーマツ コンサルティング(以下DTC)に、スポーツ ビジネス グループ(以下SBG)が発足した。デジタルやテクノロジー、ビジネスのケイパビリティを駆使しながら、スポーツの未来を創ること、その先にはより良い社会に貢献をすることを目指している。

組織の発足にあたり、なぜ「スポーツビジネスに取り組むのか?」を伝えるためのショートムービー「Relentless Challenger その挑戦が未来をつくる」が公開された。このムービーは、デロイト デジタルのクリエイティブチームがプロデュースした作品でもある。SBG発足の背景やショートムービーの誕生エピソードを、制作に関わったスポーツ ビジネス グループ、デロイト デジタルメンバーに取材した。

まず、SBG発足の背景とはどのようなものなのか?同グループ専任で活動を推進するディレクターの森松 誠二が教えてくれた。

「スポーツに関わる取り組みは、これまでもグローバルのIOC(International Olympic Committee)のパートナーシップやデロイト トーマツ グループでのFC今治のパートナーシップ、Jリーグとのアライアンス、DTCにおける佐藤琢磨選手やBMXの競技支援など、グローバルやグループと連携しながら横断的な取り組みをしてきました。活動の成果も出始め、相談も増えてきた。こうした各組織と連携・活動の整合をとりながらスポーツの価値をより高めていくことを目指して、今回Sports Business Groupを発足しました」

森松はこれまでCXやCRMなどを専門分野としてきたが、そのノウハウを活かし「スポーツビジネス」という新しい道を切り拓こうとしている(関連コンテンツ:「観戦体験の向上によるファンエンゲージメントの強化

森松 誠二 | Mr. Seiji Morimatsu

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 Sports Business Groupディレクター

日本は内閣府が「日本再興戦略2016--第4次産業革命に向けて--」でスポーツの成長産業化として、スポーツ市場規模を2025年までに15兆円に拡大することを掲げているが、その進捗はなかなか見えづらく可視化は喫緊の課題でもある。

「私たちは既存にない領域のテーマとして、スポーツビジネスを見ています。この領域の事業性や新たなビジネスモデルの追求、そしてその検証をサポートしていきたい。単純にコンサルティングサービスを提供するというよりも、FC今治のケースと同じようにスポンサーシップ、パートナーシップを結んだ先と一緒にプロジェクトを組み、新しい価値を生み出せないかと考えています。デロイト トーマツ グループの様々な領域のプロフェッショナルが組み合わさることで、これまでにない価値が創出できると考えています(森松)」

ショートムービー「Relentless Challenger その挑戦が未来をつくる」がつくられるまで

スポーツビジネスにかける思いを同グループはショートムービーで発表。企画・制作はデロイト デジタルが担当した。クリエイティブディレクターは、二澤平 治仁だ。二澤平は、大手広告代理店を経て2021年8月よりデロイト デジタルに参画。これまでクリエイターとしてカンヌライオンズグランプリ、ACC賞ゴールド、クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリストなど国内外での受賞を多数している。ショートムービーの前に、二澤平になぜデロイトに参画したのかを聞くと、次のような答えが返ってきた。

二澤平 治仁 | Mr. Haruhito Nisawadaira

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Deloitte Digital クリエイティブディレクター/スペシャリストリード

「広告代理店におけるクリエイティブは、ある程度固まっている商品やサービスに対して、どのようにコミュニケーションしていくか、価値を知ってもらうかといったことが中心です。ある意味では、ターゲットに対して最後に「どう伝えるか」の部分。これももちろん刺激的ですが、俯瞰で見た時にもっと上流、戦略の部分で「そもそもどのように商品やサービスを作るべきか」から考えた方が最後のアウトプットも変わるのではと思い、デロイト デジタルへ参画しました(二澤平)」

森松も「これまでもクリエイティブのメンバーとのプロジェクトはありましたが、ゼロから一緒に創り上げていくという体験は私も初めてで。自分が考えていることを話すと、二澤平がこういうことですか?とアウトプットしてくれる。その内容が、示唆に富んでいてまたインプットしたくなる。気が付いたら1時間以上話し込んでしまうくらい何度も議論しましたね」と笑う。

二澤平は今回映像を作るにあたり、次のような方針を考えたという。
「スポーツ ビジネス グループの発足、組織としての活動を本格化するにあたり、「この組織が世の中にどんなアクションとインパクトを起こしていくのか」、まずはそれを広く知ってもらうことが大切だと思いました。組織の想いを言語化し、みんなが同じビジョンを描けるような映像を制作したいと考えました。

そのためには映像だけではなく、どのようなメッセージを伝えていくかということも重要です。議論を重ねていく中で、そのメッセージはコピーワークで作られた言葉ではなく、“本物であること”が大切だと思い始めました。アスリートたちの嘘偽りのない本物の言葉こそが、人の心の琴線に触れ、共感を生み出せるのではないかと考え、彼らの名言をひとつの大きなメッセージにするというコンセプトを立てました」

パーパスをいかに浸透させていくか

映像などで著名人の名言を用い、説得力を増やす手法は、誤解を恐れずにあえて言うとこれまでも用いられてきた手法だろう。しかし、名言の組み合わせはあまり聞いたことがない。実際にショートムービー「Relentless Challenger その挑戦が未来をつくる」を見れば、前者と後者に大きな違いがあることが分かる。

「アスリートの世界は、確約されたものはなにもありません。しかし、彼らはそれでも自分を信じて前を向く。その姿に、人は惹きつけられる。自分もやってみようと思える。一人ひとりが行動すれば、大きく時代も動くのではないでしょうか。アスリートに限らず、不確実な未来に向けて、誰かと繋がりながら、道を切り拓いていくイメージで、映像とメッセージを考えました(二澤平)」

作品は大きく2つのキーワードでまとめられていると、SBGとデロイト デジタル マーケティングリードを兼任し、今回の制作に携わった亀田 慶子は話す。亀田はデロイト トーマツ グループのブランド戦略を担当していたが、さらにスポーツに踏み込んで支援したいという思いからSBGへやってきた。

亀田 慶子 | Ms. Keiko Kameda

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Deloitte Digital マーケティングリード/スペシャリストリード

「1つは挑戦(チャレンジ)です。スポーツビジネスに対しての意思表明。スポーツではアスリートだけでなく、その周りの人たちもチャレンジをし続けていること、私たちもそうでありたいということ。もう1つは繋がり(コネクト)です。様々なコミュニティやステークホルダーと新たな価値を生み出し、共に未来を切り拓いてくことを目指していきたいと思います。今回たくさんのアスリートやスポーツに関わる方にご協力頂きましたが、制作のプロセスにおいてもそれが体現できたのではないかと思っています。

社内ではDTC所属のフェンシング サーブル 日本代表 徳南 堅太選手や元プロ野球選手でデロイト デジタルでコンサルタントをしている久古 健太郎も出演しているんですよ」

本作のプロダクションマネジメントを担ったデロイト デジタル スペシャリストリードの堀井 隼弥も「メッセージは私たちの言葉でもあるし、アスリートの言葉でもある。なぜこのようなメッセージを発信するのか?その表現のために、名言を二澤平も含めみんなで探しました」と語る。

堀井 隼弥 | Mr. Shunya Horii

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 Deloitte Digitalスペシャリストリード

本物の名言を組み合わせた文章なので、例えば1つの名言が使用できないとの全体の見直しが必要になる。一方で、単に読み心地のよい組み合わせでは、伝えたいメッセージにはなり得ない。スポーツ ビジネス グループの思いとアスリートの名言をコネクトすることは、そのこと自体もチャレンジだったろう。

堀井の前職は編集者だ。先のトレンドを示す編集の世界は、ともすれば感覚的なものになりがちだが、先を見通す上で、理由や根拠のようなしかるべきものがあるべきではないかと考え、コンサルタントに転じた。今回のメッセージおいても、インサイトにこだわり続けたという。

Sports × Digital、Sports × Creativeの可能性

今回の映像作品は、こうした様々なバックグラウンドや専門領域を持つメンバーのコラボレーションによって生まれたわけだが、実際に取り組んだ感想はどうだったのだろうか。森松が口を開く。

「各々の専門領域を掛け合わせることで、コンサルティングの選択肢が拡がると感じています。コンサルタントの得意領域は仕組み作りです。仕組みの上に乗るコンテンツまでは関与しないことも多い。今回、仕組み作りの段階からコンテンツをイメージして、クリエイターと伴走しながら作っていくアプローチで新しい思考法を得た気がします。この組み合わせならこれまでにない新しいサービスを提供できるでしょう」

二澤平も「戦略立案の段階から関わることで、クリエイティブの振り幅は圧倒的に広くなりました。最初の段階から関われるのは、思った以上に面白い」とうなずく。

実際に映像が公開されて、アスリートだけでなく関わっている人たちからもすでに共感の言葉が寄せられているという。堀井は「心を動かせたのは、良かったと感じています。こうやって心が動き、拡がりが起きて、リレーションがつながっていく--スライドや文字だけの表現では難しかったかもしれません。『マネーボール』という映画の中で『人はベースボールに夢を見る』という一節があるのですが、その言葉がすごく好きなんですよね。野球に限らず、人は、スポーツに夢を見ると思うのです。プロ選手にしろ、応援する地元のファンにしろ、クラブ活動に励む子供たちにしろ。その夢を見るサポートが、コンサルティングやクリエイティブの力を通じて実現できると素晴らしいなとも考えています」

本ショートムービーと同じように、スポーツ ビジネス グループでもデジタルやクリエイティブ要素を加えて新しいサービスを提供していくのかもしれない。最後に森松は、自身の決断を振り返りながら、これからの取り組みに意欲を見せた。

「自分自身、専門領域であるCXをさらに深めていくか、スポーツビジネスの立ち上げをやるか、悩みに悩んで、これまでの経験やノウハウをスポーツに注ぐ決心をしました。これまでFC今治の観戦体験調査なども行ってきましたが、観戦体験を向上させるにはガバナンスやマーケティングなど、一般企業が抱える同じ課題がスポーツにも山ほどある。映像にある彼らのように、私やチームもまた前に進んでいるのです」

Sports Business Group

取材・文/中村祐介(Mr. Yusuke Nakamura)
株式会社エヌプラス代表取締役。大手新聞社系出版社の記者職を経て現職。デジタル領域のビジネス開発、マーケティングが専門で、グローバル企業だけでなく全国各地の自治体もクライアントに持ちプロジェクトを推進。そのジャンルは企業のデジタル事業開発支援から、プロダクト/サービスデザイン、建築/町作りまで多岐にわたる。記者や編集者の顔も持ち、多くのメディア・書籍での執筆活動ほか、講演活動も行なう。

PROFESSIONAL

  • 森松 誠二/Seiji Morimatsu

    デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
    Sports Business Groupディレクター
    一般社団法人日本ハンドボールリーグDXアドバイザー

    コンサルティング会社数社を経て現職。一貫してCRM(Customer Relationship Management)およびCustomer Experience(CX)領域のプロジェクトを担当。現在は、HX(Human Experience)向上の視点からスポーツ業界(強化、リーグ、クラブなど)へのコンサルティングに従事。

    一般社団法人 日本ハンドボールリーグ DXアドバイザー
    公益財団法人 日本ハンドボール協会 戦略企画委員会委員
    Customer Experience Professional Association 会員
    日本モビリティ・マネジメント会議(JCOMM)会員
    JCoMaaS会員

    代表的なプロジェクト:

    • FC今治観戦体験向上プロジェクト(2019)
    • Jリーグ 観戦体験向上プロジェクト(2020-)
    • NF向け新規メンバーシップ戦略企画(2021)
    • NF向けビジョン策定プロジェクト(2020-21)
    • NF向け中期計画策定プロジェクト(2021-)
    • FC今治新規メンバーシッププログラム導入(2021-)
    • クラブチーム向けブランディング構築(2022-)

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