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CIOに求められるアクション
組織変革を加速するサステナブルなテクノロジーアジェンダの推進
本稿では、気候変動対応やサステナビリティに関する投資家や顧客へのコミットメントを加速するために、テクノロジーがどのように役立つのか、そしてCIOがどのように変革をリードできるのかを考察する。
目次
- データと洞察により道を切り拓く
- テクノロジーを活用した意思決定
- クラウドに目を向ける
- 組織の境界を越えて、説明責任を持ったバリューチェーンを構築する
- 求められるアクション:テクノロジーを通じてサステナビリティの取り組みを加速する
環境、社会、ガバナンス(ESG)への取り組みに関して、企業は顧客、従業員、株主、政府、規制当局に対する説明責任をより強く求められるようになってきている。サステナビリティに対する消費者の要求の高まりは、幅広い業界において企業姿勢の変化を促している。
環境サステナビリティへの要求は特に高く、気候変動は多くの取締役会の重要アジェンダであり、消費者にも注目されている。最近のデロイト グローバルの調査によると、ブランドには世界をより良くする責任があると考える消費者は98%に上る。10人に4人がサステナブルな商品を購入したいと回答しており、消費財企業の担当役員の35%が、投資家や取締役会といったステークホルダーからの要求よりも、消費者の態度の方が企業をサステナビリティに向かわせる効果が高いと考えていることが分かった1。
このビジネス環境の変化に伴い、ネットゼロやカーボンネガティブといった環境サステナビリティ目標の実現に向け、CIOが変革を主導する機会と責任が拡大している。環境サステナビリティに関連するテクノロジーの展開を強力に推し進めることに加え、既存および新規のインフラやテクノロジーによる環境影響を積極的に最小化することがますます求められている。CIOによるサステナビリティアジェンダへの重要な貢献機会として、次の3領域が挙げられる。
1. 環境サステナビリティの測定と推進のための総合的な統合データ・インサイトプログラムの実現
2. サステナビリティを前提としたテクノロジー戦略の策定
3. バリューチェーンにおける透明性と説明責任の担保
しかし、環境問題への取り組みにおいて、テクノロジーは諸刃の剣になり得る。コネクテッドIoTセンサー、AI(Artificial Intelligence、人工知能)と高度なアナリティクス、ブロックチェーン対応テクノロジーといったテクノロジーやデジタル機能は、リアルタイムデータの収集とプロセス最適化による環境への負荷軽減に活用できる。一方で、先進テクノロジーに活用による電力消費の増大を指摘する専門家も多い。CIOは、これらのテクノロジーを利用するコストとメリットのバランスを取ることが求められる(図1)。
図1
これまで最高サステナビリティ責任者(CSO)やその他のリーダーが環境サステナビリティに関する取り組みを主導してきたが、その実現においてはCIOが不可欠となる。この複層的な課題に自分事として取り組むことが、自身と組織を差別化し、競争優位性を生み出すことに繋がり得ると、多くのCIOは気付いている。そのようなCIOは組織全体を巻き込むことで、テクノロジーをより全体感を持って展開し、事業部門による新規ソリューションの環境影響評価を支援する方法を模索している。
「多くの人がサステナビリティを他人事と考えている。CIOには、テクノロジーの力とリーダーシップを組み合わせて、サステナビリティだけではなく、ESGの3つの柱すべてに影響を与える大きな責任と素晴らしい機会がある」と、DelphixのCEOであり、SustainableIT.org(テクノロジーリーダーシップを通じたサステナビリティ推進に取り組むCIO達が率いる非営利組織)の創設者であるJediah Yuehは述べる。
「CIOは、テクノロジー領域とテクノロジーによる環境負荷に注目しているが、企業全体、あるいは業界全体のサステナビリティを向上させるために、テクノロジーをどう活用すべきかを考えるよう促している」
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<コラム>3種類の温室効果ガス排出量
温室効果ガス(Greenhouse Gas、GHG)の排出量は、算定・報告の国際的な基準であるGHGプロトコルに定義された3つのカテゴリー、すなわち 「スコープ」 に分類される2。
スコープ1: ボイラー、加熱炉や車両の燃料の燃焼など、組織が所有または管理する発生源からの直接的な排出。
スコープ2: 電力、蒸気、熱や冷却の購入などによる間接的な排出。排出自体は通常、組織外で発生するが、組織内のエネルギー使用に起因するため、組織のGHG排出量に算入する。
スコープ3: 組織による管理・所有の範囲外だが、バリューチェーンの影響を間接的に受ける資産から生じた排出。パートナー、ベンダー、サプライヤーなど、スコープ1または2に含まれないすべての排出を対象とする。
多くの場合、スコープ3は組織のGHG総排出量の80%に上る3。スコープ3排出のデータソースの特定と収集プロセスの定義は、CIOの重要な貢献機会の1つとなる。
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データと洞察により道を切り拓く
投資家、規制当局、顧客やサプライチェーンパートナーは、気候とサステナビリティに関する報告と成果の透明性を強く求めている。ビジネスリーダーも同様だ。彼らは、カーボンフットプリント、サプライチェーン最適化、グリーン収益のリアルタイム測定においてデータ品質と正確性を求めている。21カ国の経営層2,000人のうち、3分の1近くが、自社の環境影響を測定する難しさを大きな障壁だと考えている4。
Hewlett Packard Enterprise(HPE)のシニアバイスプレジデント兼CIOを務めるRashmi Kumarは、CIOがデータの品質、アクセシビリティとトレーサビリティの向上を支援できると考えている。「その実現において、私たちはCIOとして重要な役割を果たしている。IT部門はそのデータと洞察を組織全体に提供し、サステナブルな事業運営を支援する組織として存在感を発揮している」
しかし、これらの情報の取り纏めと公開には、さまざまな部門や個人が管理する複数のシステムからデータを収集する必要があり、サステナビリティに関する情報の調達、収集、検証、分析、報告に課題が生じる可能性がある。さらに、サステナビリティに関連する情報は、その他の財務情報やリスクが伴う取引のように内部統制の対象になっているわけではないケースが多い。
規制当局は、2050年までの「ネットゼロ」排出(温室効果ガスの排出を差し引きゼロにすること)への取り組みの一環として開示要件を拡大しており、CIOは、サステナビリティデータを他のリスク&コントロールの仕組みと同水準で提供するために社内プロセスを評価する必要がある。
サステナビリティ報告のための統合プラットフォームの構築は、組織がデータの調達、収集、検証を改善し、報告書の作成プロセスを迅速化することに役立つ。このようなサステナビリティデータ管理システムを構築するために、CIOにはサステナビリティデータの収集、集計、分析、報告や、パートナーとのコラボレーションを自動化するための新しいプロセス定義が必要になる可能性がある。
このように合理化された報告システムにより、経営層やシニアなリーダーが組織のサステナビリティ戦略を監視、策定、調整するためのインプットとなる情報を強化することができる。サステナビリティ報告の基準と枠組みの統一が進むにつれ、企業はテクノロジーによって非財務情報の透明性を高め、ステークホルダーとより明確に共有できるようになる5。テクノロジーはさらに、サステナビリティ目標の達成に必要なデータの収集を迅速化することができる。
テクノロジーを活用した意思決定
コンプライアンスや法規制への対応は、要件の一部に過ぎない。購入商品・サービスのサステナビリティやその他のESG特性に関するデータへの、消費者の要求はますます高まっている。例えば、ダイヤモンド品質の世界標準を制定している米国宝石学会(GIA: Gemological Institute of America)は、ブロックチェーンテクノロジーによりダイヤモンドの調達に関するデータを収集している。これは、ダイヤモンドの原産地や、購入による原産国への社会的・経済的な影響について、消費者が求める情報を提供するための重要な一歩である。
「ボツワナ、南アフリカ、ナミビアといった国々の社会的、環境的影響に関する多くの情報を収集している」と、GIAのシニアバイスプレジデント兼COOのPritesh Patelは語る。「ブロックチェーンプラットフォーム上で、ダイヤモンドの出自を追跡するためのパイロットプログラムに取り組んでいる」
ブロックチェーンは、採掘からダイヤモンド取引所、宝飾品メーカー、小売業者、消費者に至るまで、バリューチェーン全体の検証可能な追跡子を作成する。サプライチェーンを通じて蓄積される原産地データを持つダイヤモンドが多いほど、消費者は情報に基づく判断をより多く下すことができる。
最後に、多くの組織は現在の環境への影響をある程度可視化できているが、社内外のシステムを統合化し、廃棄物とカーボンフットプリントの削減を効果的に測定・監視しながら、潜在的な機会を明らかにすることは、CIOが貢献し得る重要な領域である。
「それが全体像になる。企業がサプライチェーンや財務、従業員をどのように管理しているかを考えると、そこにはすべてエンタープライズアプリケーションが介在している。企業は、すべての主要なプロセスや機能と同じように、テクノロジーを通じてサステナビリティを管理する必要がある」とYuehは説明した。
既存の炭素排出量測定の多くは、特定の技術の変更による影響を評価できるほど正確ではない。その場合、測定対象と炭素を容易に紐づけできる、カーボンプロキシ(測定に当たって炭素の代替になる要素)の利用は一つの選択肢となる。例えば、電気は、その生成に使用される化石燃料のカーボンプロキシである。したがって、電力利用を減らすことは、電力が排出する炭素を減らすことにつながる。
環境サステナビリティに関する意思決定を支援するためには、データや洞察を通じて事業部門と連携することが重要になる。具体的な方策は業界や組織によって異なるが、サステナビリティ目標のモニタリングと達成のため、事業部門や組織全体でのトレーニングが必要になる可能性がある。気候変動に対応するための変革を推進するCIOによる取り組みの一例として、HPEではサステナブルな材料やコンポーネントを調達し、サプライチェーンにおける廃棄物の削減機会を特定した。Kumarによると、HPEはサプライチェーンに含まれる300万件以上の資産を調査し、そのうちの90%を再販・再利用が可能だと判断した。
また、Western Digitalは世界各国に製品を出荷する中で、これまで相当量の炭素を排出してきた。多くのグローバル企業と同様に、同社のサプライチェーンもパンデミックによって混乱した。現在はサプライネットワークの再構築に取り組んでいるが、同時に環境サステナビリティを向上するためのテクノロジーも追加している。
CIOのJahid Khandakerは、「製品や出荷の管理、輸送手段の選択は、すべてサステナビリティに関わっている」と述べている。「私たちはリスク管理ツールを実装しており、そこに計画やアナリティクスの機能を上乗せしている。こうした予測的アナリティクスによって、サプライチェーンの予測可能性が向上し、混乱の減少や、最も燃費のよい最適ルートの特定が可能になっている」
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<コラム>業界を俯瞰する
気候変動の影響は、さまざまな業界に変化をもたらす触媒となっており、CIOは業界の枠を超えて、自社にとって有益になり得る他社の取り組みについて創造的に考える機会を得られている。情報交換を通じて、また、他業界で利用されているテクノロジーやソリューションを採用することで、CIOはその分野のリーダーとして、消費者や法規制の新たなニーズに対応するための組織変革を支援することができる。
サステナビリティは横断的であるが故に、業界の枠を超えて全体を俯瞰することで、その分野のリーダーになり得る機会が多い。「どの業界にも、コストと環境負荷の両面で非効率性を排除できる機会がある」 とYuehは述べる。統合システムはデータを収集し、集約・分析し、企業がエネルギー、食料、水資源、材料の無駄を削減できる領域を特定する。これは、たとえば以下の業界においてさまざまな適用が考えられる。
■農業および食品小売:
•衛星データとIoTセンサーを活用し、農業生産者による作物や水資源のモニタリングと最適化を支援し、農地の廃棄物を削減する。
•食品小売店の期限切れ在庫や傷んだ食品を特定する。小売店は、まだ食べられる食品を捨てるのではなく、データに基づいて消費期限の切れた商品を識別し、フードバンクに届けることで商品の寿命を延ばすことができる。
■金融サービス:
•小切手処理や紙面による手続きのデジタル化により、拠点間の物理的な移動を削減し、さらに効率化を図る。
■医療:
•遠隔医療は業界を変えつつあり、テクノロジーは在宅モニタリング、統合データや電子カルテの共有を通じて、医療へのアクセシビリティを向上させている。
■製造:
•データ分析により、非効率や問題個所の特定、最短輸送ルートの識別の他、オペレーションの清流化を図るための統合が可能になる。 リサイクル可能な原材料の特定、生産に伴う廃棄物の削減、交通量に基づくルートの最適化、排出量の削減を行う。
■業界横断:
•カーボンフットプリントに関する(透明性の高い)算出と報告。ほとんどの場合、これは、財務分析のために既に収集されている既存のデータインプットとインフラによって対応できる。電力使用効率、フロア面積、冷却装置、およびエネルギー源の炭素集約度を分析し、オンプレミスデータセンターの電力使用量を確認する。IT環境の電力定格、デバイス数、使用率など、負荷に影響する重要な仕様を特定する。
•ハイブリッドワークへの移行によるサステナビリティへの影響を理解する。組織の多くは、フルタイムで組織に出社する状態に戻ることを想定していない。これは、カーボンフットプリントを削減する機会になり得る。
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クラウドに目を向ける
CIOには、データの管理以外にも対処すべき課題がある。これには、多くの組織が投資する最大のテクノロジー分野の1つであるクラウドが含まれる。Huawei Technologies Swedenの研究者らは、クラウドコンピューティングの急速な成長に伴い、2030年までにデータセンターによる世界の電力消費が8%に達する可能性があると試算したが、このことはむしろコストよりもメリットの方が大きいという6。仮に企業がティアレベル1-3の旧来的なデータセンターを利用し続けると、消費電力は推定20%とはるかに高くなることが予測されている。
企業レベルで見た場合、オンサイトのデータセンターからクラウドに移行する企業は80%のエネルギー削減を達成している7。CIOが環境のサステナビリティに関する目標を達成するためには、クラウドへの移行、ネットゼロやカーボンニュートラルに取り組むプロバイダーの選択、および効率的な移行アプローチの採用が重要な考慮事項となる。
Western Digitalがクラウドファースト戦略を採用したことは、CIOがIT部門のサステナビリティ向上を目指していることの一例だ。クラウドオプションが使用できない場合は、コロケーションサイトを探す。基本的に、オンサイトデータセンターは第3の選択肢としか見なされない。CIOのKhandakerによると、同社は、社内に環境サステナビリティに関する組織を立ち上げる際に、このアプローチを正式な意思決定プロセスに取り込みたいと考えているという。データセンターをオンサイトに維持する場合は、自然な冷却メカニズムを備えたロケーションを検討し、ストレージや倉庫を低温に保つための設計に投資し、エネルギー効率を向上させるためにグリーンコーディングを行うことを考慮すべきだ。
環境への影響を低減するという具体的な目標を持って、革新的なテクノロジーを展開するための、的を絞ったアプローチを開発すべきである。
最初のステップは、自社のテクノロジー環境を検証し、エネルギーと電力の需要を削減する方法を特定することだ。クラウドへの移行やグリーンコーディング、5G、ブロックチェーン、VR(Virtual Reality、仮想現実)、IoTなどに関するテクノロジー投資の意思決定において、サステナビリティを不可欠な要素とすることで、CIOは、カーボンフットプリントや廃棄物を削減する取り組みを主導し、サステナビリティ戦略を加速できる。
CIOにとってのもう1つの機会は、プロセスのデジタル化など、サステナビリティに関する目標を推進するためのテクノロジーや戦略について、ビジネス担当者の理解が深まるよう支援することだ。さらに、ビッグデータ分析、高度なAI、IoT、エッジコンピューティング、ブロックチェーンと分散台帳、クラウドなど、今日のテクノロジーのほとんどには、低炭素システムに移行するためのアプリケーションが存在する。CIOが他の経営層と連携してこれらのテクノロジーを如何に活用するかが、組織のサステナビリティに関する課題を前進させるための鍵となり得る8。
その好例が、複数の組織が共同でカンザス州ウィチタに構築した、「スマートファクトリー」と呼ばれる没入型学習環境だ9。この施設には、ネットゼロ構築テクノロジー、スマートグリッドテクノロジー、その他のサステナビリティに関連する技術が組み込まれているため、ユーザーはさまざまな方法を試してデジタル変革を加速し、サステナブルなソリューションを開発できる。スマートファクトリーでは、データセンター、スマートグリッドや、デジタル決済システムといったサービス向けの低炭素テクノロジーの開発において、参加組織が顧客と連携することも可能である。
組織の境界を越えて、説明責任を持ったバリューチェーンを構築する
組織の直接的、または間接的なカーボンフットプリント(一般的にはスコープ1とスコープ2の排出量)を削減し測定するというCIOによる意思決定の影響は、方程式の一部にすぎない。57%のCXOが、自社ですでに気候に優しいテクノロジーを使用していると述べている(図2)。サステナビリティの課題に大きな影響を与えるには、CIOはバリューチェーンを通じて発生するスコープ3の排出量に取り組む必要がある。
図2
このため、CIOは自社のデータ交換に関する標準や慣行を見直す必要が出てくるだろう。誰をパートナーとするかだけでなく、パートナーにサステナビリティ対策の責任を持たせる方法も再検討すべきである。例えば、クラウドサービスへの投資を検討しているCIOは、プロバイダーのデータセンターのエネルギー種別と電力使用量を考慮する必要がある。クラウドプロバイダーを選ぶ際、企業は再生可能エネルギーを調達しているベンダーを優遇するべきだ。環境への影響に関する顧客の懸念に対応するために、提供サービスにこういった要素を追加するベンダーが増えている。
多くの組織が、環境サステナビリティへの取り組みを組織の境界の外まで拡げる機会を模索している。CXOの半数近く(46%)が、サプライヤーやビジネスパートナーに具体的なサステナビリティの基準を満たすことを求めていると回答した(図2)。企業の総排出量の80%はサプライチェーンに起因することから、CIOは自社のテクノロジー調達や調達戦略についても考慮する必要がある10。CIOは、サプライヤーと協力してスコープ3の排出量を抑えるだけでなく、実装から目線を上げて考え、この分野でより戦略的な役割を果たす必要がある。業界内の他の企業と競合しない領域において協力し、共通のサプライヤーから要求される情報を標準化する機会を検討すべきだ。CIOが主導する新たなパートナーシップやアクションは、よりシームレスな情報共有を可能にするだけでなく、利害関係者が求める透明性を提供し、エコシステム全体でより良い成果を上げることに繋がる。
KPIやレポーティング基準によってパートナーに働きかけるだけでなく、CIOにはサプライチェーン全体の運用を大きく変革する機会がある。「本当に変化を生み出したいのであれば、サプライヤーにサステナビリティの条件に合意するよう圧力をかけることではなく、サステナビリティの指標を四半期ごとに透明性をもって追跡し、共有させることだ。指標を共有する企業が増えるにつれ、指標と会計処理の標準化を実現することが重要になるだろう。その時が、本当のスタートだ」と、Yuehは言う。
たとえば、GIAは、バリューチェーンパートナーに環境関連のデータを要求した。「私たちはダイヤモンドの産地とサステナビリティについて、業界のさまざまなバリューチェーン関係者と協力し、多くの情報を収集している」とCOOのPatelは語った。「研磨されたダイヤモンドをオリジナルの原石に紐づけるために、独自の科学的プロセスを使用している。この情報は、購入時に当社のクラウドプラットフォームを通じて小売業者や消費者と共有される。テクノロジープラットフォームはAPIサービスを通じてGIAと接続し、認証されたダイヤモンドの原産地データを受け取る。これにより、GIAは正確で信頼できるサステナビリティデータを消費者に提供するという使命を果たすことができる」
求められるアクション:テクノロジーを通じてサステナビリティの取り組みを加速する
CIOがサステナビリティの指標や報告のためのデータを特定する適任者であることは間違いないが、CIO自身のテクノロジー戦略とリーダーシップによって、さらに大きな差を生み出す可能性もある。気候変動の専門家は、アウトプットの増加とテクノロジーへの依存度の高まりが、この分野のカーボンフットプリントを増大させていると警告している。オンタリオ州マクマスター大学の研究者らの調査によると、世界のカーボンフットプリントのうち、情報通信テクノロジーが占める割合は2007年の1.5%から2040年には14%近くまで増加する見通しだ11。そして、CIOはこの警告を機会として、自社のテクノロジーや変革プログラムが環境や気候に与える影響を示し、組織全体に責任を浸透させることで、サステナビリティに関するアジェンダを推進することができる。
図3
組織内の変革を推進するために、CIOが考えるべき問いは以下の通りだ。
• カーボンフットプリントを最も正確に評価するにはどうすればよいか。また、どのような変化がカーボンフットプリントの削減に最も効果があるか。
• カーボンクレジットを効果的に取引し、カーボンフットプリントを削減するには、どのようなツールが必要か。
• データ収集と分析を改善し、環境サステナビリティの透明性を向上するにはどうすればよいか。これらのシステムを最も効果的に実装するにはどうすればよいか。
• 環境サステナビリティに対する組織の取り組みを改善するために、他の経営層とどのように連携できるか。
• 従業員に自らの作業習慣の環境影響(特にテクノロジーの使用において)を理解させ、行動変化を促すにはどうすればよいか。
• 環境サステナビリティに関する目標を達成するために、どのようなテクノロジーが役立つか。また、その成果がコストに見合うかどうかをどう判断すればよいか。
• 環境サステナビリティの向上に継続的に取り組むために、サプライヤーや他の業界の参加者とどのようなパートナーシップを結ぶことができるか。
組織のためにこれらの問いに答えることができるテクノロジーリーダーは、デジタル変革の推進、データプラットフォームの強化、レポーティングテクノロジーの統合や、サステナビリティ課題に取り組むための革新的なソリューションの提供を通じて、サステナビリティに関するアジェンダの推進者として明確に存在感を示すことができる。組織のサステナビリティの優先事項を、データ、インフラストラクチャ、および新興テクノロジーに関する戦略的な選択を行うためのレンズとして使用することで、テクノロジーリーダーは変革を推進し、組織のカーボンフットプリントに影響を及ぼす立場になっていくだろう。
脚注
1.Barb Renner et al., 2022 consumer products industry outlook , Deloitte, accessed April 12, 2022.
2.Deloitte, “Scope 1, 2 and 3 emissions: What you need to know ,” accessed April 12, 2022.
3.Deloitte, “2021 Deloitte Renewable Energy Seminar ,” September 21, 2021.
4.Deloitte, Deloitte 2022 CxO sustainability report , accessed April 12, 2022.
5.Deloitte, “Globally consistent ESG reporting ,” accessed April 12, 2022.
6.Anders S. G. Andrae and Tomas Edler, “On global electricity usage of communication technology: Trends to 2030 ,” Challenges 6, no. 1 (2015): pp. 117–57.
7.Daniel Bizo, The carbon reduction opportunity of moving to Amazon Web Services , 451 Research, October 2019.
8.Scott Corwin and Derek M. Pankratz, Leading in a low-carbon future , Deloitte Insights, May 24, 2021.
9.The Smart Factory website .
10.Anya Khalamayzer, “Walmart’s plan to lift a gigaton of carbon from its supply chain ,” GreenBiz, April 19, 2017.
11.McMaster University, “Study shows smartphones harm the environment ,” February 28, 2018.
この記事はDeloitte US, “The disconnect disconnect”を日本語に翻訳したものです。
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