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【ビジネスパーソン必見!】生成AIがライフサイエンス業界にもたらす変化と必要な備え

デロイト トーマツ コンサルティングのライフサイエンス業界エキスパートが解説する最新の生成AI活用

このインタビューシリーズでは、デロイト トーマツ コンサルティングに所属する各業界・領域の専門家が、各業界・領域における最新のAI活用事例と生成AIに関するデロイト トーマツならではのソリューション提供につい解説していきます。 第ニ回は、LS&HC(ライフサイエンス&ヘルスケア)Division 磯上孝博、進藤誠元が、生成AIがライフサイエンス業界に与える影響、生成AIの導入や活用において必要な準備、障壁などを解説していきます。

1. 解説者紹介

磯上 孝博
デロイト トーマツ コンサルティング LS&HC Division 執行役員
医薬品および医療機器産業を中心に、SCM(サプライチェーンマネジメント)、調達、販売およびマーケティング、IT(デジタルを含む)戦略プロジェクトにおいて、15年以上のコンサルティング経験を有する

進藤 誠元
デロイト トーマツ コンサルティング LS&HC Divisionシニアマネジャー
アカデミア、前職において医療機器・医療用ロボットの技術開発、事業開発に従事。医療機器、Life science領域の企業でのイノベーション創出と成長実現に向けた、事業・組織・人材戦略の策定から実行支援まで幅広く支援を実施

2. ライフサイエンス業界における生成AIのニーズ

――ライフサイエンス業界において、生成AIに関するニーズはどのようなものが多いでしょうか

磯上:ライフサイエンス業界では、生成AIに限らず新しいものに対して積極的に取り組もうという姿勢があります。そのため、特定の業務のみへの活用ではなく、研究開発からMR業務まで幅広い業務領域で生成AI活用に向けた検討が進んでいます。

3. 生成AIがライフサイエンス業界にもたらす影響

――生成AIはライフサイエンス業界の構造をどのように変えていくと考えますか

磯上:ライフサイエンス業界は、企業と企業が競い合う“競争”から、企業と企業が連携・協力して共に闘っていく“共闘”へと変化すると考えています。これまで、企業は単独で良い製品の開発や効率性の向上に取り組むことが多かったかと思います。しかしながら、生成AIがもたらしうる変化に対し1社単独で戦うには限界がありますし、複数の企業が手を組んで共闘した方がより良いものを作っていくことができます。そのため、業界は各企業が互いに競い合っていた形から連携・協力してともに闘っていく形に変化していくのではないでしょうか。

進藤:企業としてはこれまでも共闘・共創の重要性は理解していたものの、データ統合やコラボレーション目的に対する共通認識の醸成などに課題があり実現が難しかったという背景があります。しかし、生成AIの登場により猶予がなくなり、早期に試行錯誤を重ねユースケースを作成できた企業だけが勝ち残れるという世界に変化しつつあります。企業の危機感が競争から共闘・共創への業界変化を加速させると考えます。

4. これまでのAIと生成AIの違い

――RPA等これまでのAIがライフサイエンス業界にもたらした変化と生成AIによってもたらされる変化は何が異なると考えますか

磯上:本質的には変わらないと思います。生成AI単体で新しい業務が生まれるのではなく、生成AIと既存の業務を組み合わせることで新たな業務が生まれます。生成AIを活用することで業務の効率化を進め、効率化によって創出された時間をより創造性の高い業務に充てるという仕組みは、RPAのような従来のAI活用と同様です。

進藤:これまでもAI、ビックデータといったバズワードが生まれるたびに大きな変化をもたらすのではないかという期待がありました。しかし、実際にはテクノロジーへの知見を持つ一部の人のみが利用するところで留まっていたため、その分影響も限定的でした。生成AIはテクノロジー知見が深くない一般人/一般社員でも活用できるため、裾野の広がり方やスピードが従来のAI、ビックデータ活用などとは異なるのではないでしょうか。

磯上:確かに、専門家にしか使えないテクノロジーではなく、誰にでも使用できるテクノロジーである点は生成AIとこれまでのAIとの大きな違いですね。

進藤:誰でも使用できるからこそ、各バリューチェーン上でどのように活用していくかは、クライアントに限らず我々コンサルタントにとっても手腕が試される部分です。

5. 生成AI導入や活用にあたって必要な準備・障壁

――ライフサイエンス業界の企業や組織は、生成AIの導入や活用にあたりどのような準備をする必要があると考えますか。また、業界ではどのような準備が実際にはじまっていますか

磯上:ライフサイエンス業界においては他業界以上に、規制やルールに従って生成AIを活用することが重要です。ライフサイエンス業界はお医者様のため、患者様のため、ひいては健康・命のための業界です。健康や命に係わる故に他の業界よりも明確な規制やルールのもと生成AIを活用していく必要があります。明確なエビデンスやルールに基づいて生成AIの使用ができているかが最も考慮するべき点です。規制や特許といった知識財産権を守りつつ、その範囲の中でどのように生成AIを活用していくかが重要です。

進藤:先ほど生成AIは誰にでも使用できるテクノロジーであるとお話した一方で、ライフサイエンス業界では、患者様の命や身体を傷つけることがあってはなりません。そのため、生成AIと人間の役割分担・線引きは他の業界よりもセンシティブです。センシティブだからこそ、1社だけで対応するのではなく、業界全体で対応していく必要があります。また、ライフサイエンス業界では、製品開発・販売は地域ごとではなくグローバル規模であることがほとんどです。そのために、生成AIによる多言語対応は、守りの活用でも攻めの活用でも進んでいくと思います。

――ライフサイエンス業界において、企業や組織は生成AIの導入においてどのような壁にあたると考えますか

磯上:生成AI活用にむけたガイドラインの制定が一つの壁になります。一度ガイドラインが制定されれば、そのガイドラインに従って活用は進んでいくかと思いますが、先ほどもお話した通り、ライフサイエンス業界は健康・命に係わる業界であるため、業界全体としてもガイドラインの制定には慎重です。

進藤:ライフサイエンス業界は社会的影響が大きいため、生成AIの導入も慎重に行う必要があります。一方で、生成AIの登場により世の中は急速に変化しています。ライフサイエンス業界においても、例外ではありません。生成AIの登場によって、これまで製薬や医療機器メーカーが盟主として単独で戦うことができた市場は、共創・共生の市場へと変化し従来とは異なる価値提供が求められるようになっています。ライフサイエンス業界はDXが遅れている業界といわれていますが、メーカーがこれからも盟主(エコシステムのプロデューサー) であり続けるためには、先進的なテクノロジーを提供している様々なプレイヤーと積極的に組み、価値提供できる存在に変わらなくてはなりません。

6. デロイト トーマツならではのご支援・クライアントへのメッセージ

――生成AIに関するクライアントからのニーズに対し、デロイト トーマツならではのソリューションや強みはありますか。また、現在、生成AIの導入・活用・規制などで悩まれているお客様にメッセージをお願いします

磯上:デロイト トーマツならではの強みは、業界、業務への知見です。生成AIの活用方法は、業界の技術・知見がないと考えることができません。さらに、先ほど申し上げた通り、ライフサイエンス業界は共創・共闘の産業構造に変化しており、コンソーシアム・産官学共同で取り組む重要性が高まっています。デロイト トーマツはプロデューサーのような立場で人と人とをつなげることができる点も強みです。

進藤:デロイト トーマツは国内に限らずグローバル規模で、人と人をつなげることができます。現在もデロイトUSと最新のユースケースを連携しクライアントに提供している状況です。そういったスピード感やグローバル規模での幅広い知見に対してもご期待いただければと思います。

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