AIと半導体の関係性 ブックマークが追加されました
昨今の生成AIブームにあるように、様々なシーンでAI(人工知能)が活用され、企業の競争力の源泉になりつつあります。我々は、日進月歩で発展していくAIについて、日々理解を深めていくことが求められます。
今回は、スマートフォンなどの電子機器や航空機に用いられ、現代社会において必須の存在である半導体について、本稿の前半はその概要、後半はAIとの関係性についてご紹介します。
半導体とはその名の通り、電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を持つ物質です。この性質を用いて、電流を制御する役割を果たします。コンピュータの頭脳と呼ばれるCPUやAIの学習に用いられるGPU、光センサーなどの各種素子は半導体から作られています。つまり、半導体はコンピューティングパワーの源泉という意味で、デジタル産業基盤の一端を担っており、また、生成AIや量子コンピュータ、AI学習向け大規模クラウドコンピュータ等の情報処理技術の発展もあり、相乗的に注目を集めています。
世界の各国も経済安全保障上の観点から、半導体関連(半導体および関連材料・装置)の生産基盤を囲い込むべく異次元の支援(補助金による大規模投資や減税)を行っています。例えば、アメリカでは「CHIPS法*1」と呼ばれる半導体支援法が成立し、5年間で計527億ドルの補助基金が提供されます。また、中国では「国家集積回路産業投資基金」を設置し、地方政府と合わせて10兆円以上*1にもなります。一方、日本でも半導体製造工場誘致の動きを活発化させており、台湾の大手半導体メーカーが熊本に建設中の半導体製造工場は2024年に稼働する見込み*1です。
「ChatGPT」等で有名な、近年発展が目覚ましい大規模言語モデルですが、①学習データサイズ②パラメータ数③計算量を増加させると、誤差がべき乗則に従って減少するという「スケーリング則*2」がよく知られています。このうち、③計算量について、膨大な計算量がAIの性能に寄与する、つまり半導体の質がAIの性能に直結します。
では、半導体の質とは具体的にどういう指標でしょうか。半導体の性能向上の方向性としては「微細化」や「高密度化」、チップレット等の「高度実装」による「高集積化」、「システム」や「設計」等の「最適化」、「素材進化」による抜本的な機能向上が挙げられます。これらは性能向上と同時にエネルギー効率も改善し、デジタル社会を推進する上でおのずと増加してしまう電力消費を抑え、GX(グリーントランスフォーメーション*3)の実現にも寄与します。
デジタル化の要請やAI技術の進歩もあり、その土台となる半導体は供給不足状態が続くと考えられます。現在は、生成AIを始めとしたAIサービスやTransformer*4等の画期的なAIモデルといった側面が注目されがちですが、半導体不足は、そうした技術の更なる性能向上や、サービスの横展開を阻害し、経済発展に対する足かせとなりうるのです。その他にも、デジタル社会において爆発的に増加しているデータに関する課題があります。データは「21世紀の石油」とも呼ばれ、あらゆる価値創出の源泉だと考えられていますが、その一方でデータ移送や保管にコストがかかることが知られています。そこで、「エッジコンピューティング・エッジAI」という、データをすべて保存するのではなく、IoT端末上でデータを処理する技術が一つの解決策になると考えられています。ここでも、半導体の性能によって、どこまで複雑な処理を低遅延で実行できるかが決まってきます。身の回りのIoT端末の処理性能を決定しているのはAIモデルではなく、実は半導体そのものの技術だったりするということがあり得るのです。現在注目が集まるAIだけではなく、その土台となる半導体にも目を向けることで、より正確に技術革新の潮流を見極めることができるかもしれません。
今回は、AI開発やその性能に直結する計算資源の根底にある半導体について、最近の新工場建設のニュースに触れつつ、基本的な内容をご紹介しました。デロイト トーマツでは、AI利活用に関する最新トレンドを現状分析するだけでなく、デロイト トーマツの多様な専門性、及びAIの普及に取り組むDeloitte AI Instituteが持つ最新の知見を結集し、最新技術から導かれる未来を提言しています。これからもAIの技術的課題やその対策を様々な研究機関と検討し、発信していきます。
*1 :「半導体・デジタル産業戦略」を改定しました(METI/経済産業省)
(資料:https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230606003/20230606003-1.pdf)
*2 :[2001.08361] Scaling Laws for Neural Language Models (arxiv.org)
*3 :経済産業省が設立を発表した「GXリーグ」では、「2050年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取組を経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けて、経済社会システム全体の変革」と定義されている。
中島 拓海
デロイト トーマツ コンサルティング ビジネスアナリスト
理学修士(素粒子物理学専攻)。大規模基幹システム刷新PJのPMO業務やDX戦略策定業務に従事。現在は、AI・機械学習をはじめとした先端技術のビジネス利活用を社内外に推進している。
著作物に、ハードウェア上での機械学習の高速処理に関する論文がある。『Fast muon tracking with machine learning implemented in FPGA - ScienceDirect』