あらゆるものがデータとして分析できる時代|Deloitte AI Institute Spirits #7 ブックマークが追加されました
日進月歩で進化を続けるAI技術。その精度向上のスピードはすさまじく、現在では、AIが扱う対象も、シンプルな数値データ中心の世界から、自然言語テキスト、音声、高精度画像など、多種多様なデータに広がっています。あらゆるものがデータとして分析される時代の入り口に立つ我々は、これからのAIとどのように向き合っていけばよいのでしょうか。
デロイト トーマツ グループの Deloitte AI Institute には、人とAIが協調する社会「The Age of With」の実現に向けて、日夜精魂を傾けつづける先駆者たち「AI Spirits」が多数在籍しています。このインタビューシリーズでは、そんなデロイト トーマツの「AI Spirits」1人ひとりに焦点を当て、AI導入の最前線とその魅力についてお伝えします。
第7回は、データ分析・活用のスペシャリストとして高い技術スキルを持ち、製造業をはじめとした様々な企業に組織や社会全体を見据えたコンサルティング支援を行っているデロイト トーマツ コンサルティング合同会社 Advanced Artificial Intelligenceユニット シニアマネジャーの河原に話を聞きました。
― 自己紹介をお願いします。
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 Advanced Artificial Intelligenceユニットで顧客へのデータ利活用の支援をしています。Deloitte AI Instituteでは、海外のAIチームと連携して、グローバルな知見を取り込む活動を進めています。
― これまでの経歴を教えてください。
大学院では化学反応系の解析をしていました。複雑な化合物生成のプロセスを分析し、効率性を高めるために、大量のデータを使ってシミュレーションや統計解析を実施したり、情報量が多くなるような実験計画を立てていたりしました。卒業後は、そこで得た知見を実社会に生かそうと思い、産業機器メーカーに就職しました。当時は、ちょうどデータサイエンスに社会的な注目が集まりだした初期であり、その会社でも、データサイエンス部門の立ち上げや、データサイエンスに関わるサービスの開発や実証を担当しました。
その後、もっと幅広くデータを活用して様々なことに取り組みたいと考えるようになり、日系のコンサルティング企業に転職します。そちらでは製造業だけではなく、金融、商社、小売、運輸などの業界に対して、データを活用した業務改善の提案を行っていました。
― デロイト トーマツに転職した動機は何でしたか?
前職でコンサルティング業務に携わるなかで、データを最大限に活用していくには、その裏にある業務や、組織、戦略といったものが重要であることに気づかされました。これらを包括的に扱える企業がデロイト トーマツでした。当社には、技術の導入や業務改善をメインにしたプロジェクトだけでなく、事業や組織が抱える課題に立ち向かったり、さらに大きく業界や社会の課題に取り組んだりするようなプロジェクトが存在します。加えて、こうした活動を支援する組織があり、専門性を持った人材がいて、グローバルなネットワークから海外の知見を得られることも魅力でした。
― 専門分野は何ですか?
データ分析を中心としたデータ活用を専門としています。私が持つデータ利活用スキルには、業界横断的に使えるものとそれぞれの業界に特化したものの両方があります。
前者の業界横断的な部分としては、一般的な統計解析や機械学習だけでなく、最近の応用的なAIも利用して、データからインサイトを得ることを得意としています。また、その基盤となるシステム関連の案件も扱っています。
業界に特化した部分としては、例えば製造業では、サプライチェーンにおける需給予測やその研究開発を行った、生産設備における異常検知システムを開発した経験などがあります。
― 製造業でAIを活用する背景や動機にはどのようなものがありますか?
製造業においてAIを導入する動機としてまず挙げられるのが、AIを使えば現場から生まれてくる大量のデータが活用できるという点です。
次に、製造業、特に製造や調達の領域においては、まだまだデータ活用の余地が残されている点です。例えば工場では、生産設備から日々、生産に関するデータが生まれる一方、作業が属人化していて、それらのデータが活用しきれていない部分も多くあります。
また、部門外・社外の動向の把握にも役立つ点も挙げられます。原料や部品調達のサプライチェーン周辺では需要予測が重要になりますが、これも担当者の経験によるところが大きく、サプライヤーの動向や社会変化などを捉えきれていないケースがあります。
ただし、AIを導入すればいきなりすべてがうまくいくわけでもありません。トライアンドエラーで試しながら正解を見つけていく必要があります。特に、新しいことを始める場合は、何が正解なのかが明確でないこともあります。しかし、当たりをつけるのにデータを活用することができますし、それが本当に効果があったかどうかを検証する際も、データを統計的に分析することが重要になってきます。
― 効率化以外にもAIやデータ分析を活用できる場面はありますか?
日本の製造業はこれまで、コスト削減や品質向上を目指し、そこに向かって常に改善を繰り返すという部分に力を入れてきました。これはもちろん重要なことですが、現在ではそれに加えて、環境の変化を適切に捉えて、常に市場の求める製品・サービスをリリースしていく必要性が高まっています。新型コロナウイルス感染症で社会情勢は大きく変化しましたし、近年ではサステナビリティ、SDGs、カーボンニュートラル、気候変動への対応などの地球環境への配慮、さらに顧客中心主義もトレンドになっており、企業はこうした社会の動きをより高い解像度でビジネスに取り込んでいく必要があります。そういったところで、今後、よりデータの活用が求められると考えています。
また、昨今では多くの企業が経営アジェンダとしてDX推進を掲げていますが、DXの基盤構築が進み業務がデジタル化されていくと、新たなデータが次々と生まれていきます。これらのデータの分析にAIが活用できます。
ここで忘れてはいけないのは、AIを導入してデータを活用する場面では、技術以外の要素も重要となる点です。「データを分析して物事を判断する」というのは、ビジネスにおける意思決定の問題であり、組織文化にも密接に関わっています。AIによって得られた知見を受け入れ業務改善や新しい事業の設計につなげるには、AIに対するリテラシーやマインド、そして、それを支えるインフラや制度が必要になってきます。そのため一言にデータ活用・AI活用といっても、技術面、事業面、組織面で包括的に対応していく必要があります。
― AI活用における今後の展開としては、どのようなものに注目していますか?
まさにここ最近の動きとして、大規模言語モデルなどの大型のAIモデルが急速に普及しはじめています。これまでのAI活用というのは、大量のデータが存在するところにAIを導入し、そこから新たな知見を得る、高精度の予測を行うものが中心でした。しかし、最近の大型AIモデルは学習済みの状態で公開されており、誰でも簡単に、自然言語での問いかけなどに応じてテキストや画像などを生成できるのが特徴です。
これらの大型AIモデルは、今後、顧客からの問い合わせ対応、プログラミングコードの生成などの業務に急速に取り入れられていくと考えられます。製造業でもこうしたトレンドをキャッチアップし、自社の事業や業務にどのような影響があるのかを考えていくことが重要です。
― このような大型AIモデルが重要となってくるのはなぜですか?
ポイントは2つあると思っていまして、1つは技術の発展により高精度な出力が得られるようになったこと、もう1つは一般の人でも簡単に扱えるインターフェースが提供され、専門家でなくても、誰でも簡単にほしい結果が得られるようになったことです。これが社会に非常に大きなインパクトを与えていると考えています。
― 懸念すべきことはありますか?
これは大型AIモデルだけの話ではないのですが、AIモデルの生成に使用されるのが過去のデータであること、AIが出力する結果は確率的なものであり、必ずしも正しい情報であるとは限らないことは、常に念頭においておくべきでしょう。
また、AIには常に公平性や倫理性などの問題も付随しています。このような部分を意識して、「AIとの付き合い方」を十分に見極めていく必要があるかなと思っています。
尚、今後、社会へのAI導入がいっそう進むにあたって、2つのことが重要だと思っています。1つは、AIのさらなる精度向上を目指すとともに、ブラックボックスになりがちなAIの判断根拠を提示できるようにして、社会に受け入れられやすいAIを実現するという開発者、研究者側の取り組み、もう1つは、開発された後のAIやAIの出力結果をどう使うかという利用者側のあり方です。特に後者、利用者としてAIとどのように付き合っていくのかというのは、現段階ではとても重要です。
これに関連して、2022年末あたりから「プロンプトエンジニアリング」という分野が注目されています。大型言語モデルのような学習済みAIモデルに対する命令・問いかけの方法を変えるだけで結果が大きく異なってきます。誰でもがAIを扱える半面、簡単に悪用されうることが懸念されます。
― 他にもAI関係で注目している技術はありますか?
AIを使った先進的な取り組みにはいろいろなものがありますが、そのなかの1つに、マテリアルズ インフォマティクスというものがあります。AI、機械学習を活用して、目的の機能や物性を持つ化合物素材を効率的に探索するという試みです。現在、日進月歩で技術活用が進んでいます。
もともと化合物はデータとして扱いにくい部分があったのですが、化合物全体をネットワークとみることでデータ分析がしやすくなりました。例えば、ディープラーニングをネットワーク分析に適用したグラフニューラルネットワークという手法がありますが、マテリアルズ インフォマティクスでは、このグラフニューラルネットワークの様々な派生形が利用されています。実際の業務でも、最新の論文を参照しながらもクライアントにあわせてカスタマイズしたAIモデルを構築する機会がありました。
マテリアルズ インフォマティクスは、化学系・製薬系の企業にとって重要な技術です。これまで特定の物性・機能を持つ化合物がほしい場合、実験室で化合物の合成と物性・機能の確認を繰り返していました。しかしこの技術を使えば、化合物を合成する前に、化合物の組成からある程度、精度の高い見込みを立てることができます。ほしい化合物を短期間で、少ない実験回数で作ることができるため、企業からの関心は高く、既に多くの取り組みがなされています。
― また1つ、新たな分野でAIの活用が進んでいるのですね
データ分析に注目が集まった最初期には、扱うデータは主に数値データに限定されていましたが、今では大規模言語モデルでの自然言語、マテリアルズ インフォマティクスでの化合物データなど、ありとあらゆるものがデータとして扱えるようになってきています。そして、それを扱うAIも発展し、インフラのキャパシティも高まっています。あらゆる業務でデータやAIを活用できる時代がきているのです。
逆に、データやモデルをできるだけ軽量化していこうという動きも進んでいます。複雑なデータを扱うモデルではどうしても使用するメモリ量が大きくなってしまうので、これを簡略化して、例えばスマホのなかでも動作できるようにするなど、そういった方向の研究が進んでいます。今後、あらゆる業務にAIが導入されていけば、さらに大量のデータを扱う必要が生まれるため、こういったものも重要な技術になっていくかなと考えています。
― AI分野におけるデロイト トーマツの強みはどのようなものでしょうか?
デロイトには、AIによるデータ活用を支援するための十分なケイパビリティがあります。一言にデータ活用といっても、既存のデータを活用するのか、データ自体の取得のための枠組みから構築するのかで異なりますし、既存の事業を改善していくのか、新しい事業を作るのかなど、様々な方向が存在するなかで、顧客の課題やあるべき姿に対して多面的な支援が必要となります。特に業務面と組織面に加え、技術面でも詳細な支援が可能であることはデロイトの強みだと考えています。
データ分析の部分では、顧客の現在の運用状況や制限事項だけでなく、今後の運用方針や将来的な機能拡張を想定して、決め打ちではなく、社会情勢なども踏まえた上で柔軟に提案、設計、実装を行っています。状況によりシンプルな集計や統計解析と高度な統計モデリングを使い分けたり、将来的な顧客自身での実装も考えて機械学習フレームワークを活用したり、さらには自動で機械学習モデルを構築できるAutoMLツールを提供したり、顧客に寄り添った支援を目指しています。
さらに、データ分析や技術周辺だけで顧客の課題が解決できない場合には、取り組むべきテーマを一緒に考案し、リテラシー向上のための教育やナレッジ共有の仕組みを構築するなど、多面的なアプローチを実施できるのも、デロイトならではの強みだと思います。
― デロイト トーマツを職場として見ると、どのようなところが気に入っていますか?
いろんな専門性を持つ仲間がいることです。私の場合は、データ活用を推進するには技術だけではなく、業務・組織・戦略が重要だと考えて当社に転職したわけですが、実際に入社した結果、技術分野にもその他の分野にも、多様な専門家がいることに驚きました。事業戦略ならこの人、最新技術ならこの人など、個々の力がとても強いと感じています。
デロイト トーマツの最大の魅力は、そうしたスペシャリストたちと一緒にプロジェクトを進めていけることです。他にもグローバルネットワークがあり他の国のメンバーファームと連携できるのも魅力の1つです。
― 自分自身ではどのような分野の専門性を高めていきたいですか?
データ活用のスペシャリストとしての道を極めていきたいと考えています。そのために、技術的な専門性は高め続けたいと思っています。現在は、まさにデータ活用に関する技術発展と社会実装が進んでいるところで、非常に興味深く、学ぶべきところがたくさんあります。一方で、そのような技術だけでは社会・組織での継続的なデータ活用につながらないという面もあります。そのため、データを活用するための業務設計や事業戦略を考えたり、最終的にはデータドリブンな組織を実現するための力も磨いていきたいと思います。
今の自分の強みは技術的な部分なので、そこを自分のコアにしつつ、業務や組織に対する俯瞰的な視点を持ち、企業や社会全体での包括的なデータ活用を進められる人材を目指しています。
― 趣味や気分転換では何をされていますか?
幼い頃から将棋が好きでずっと指してきましたが、大学生の頃に機械学習を用いて成功した将棋のソフトが登場しましたが、こうした動きも興味深く見ています。
現在では、プロ棋士による対局の中継などでも1手ごとにAIによるスコア判定が表示されることで、一般の人がより楽しく将棋を観戦できるようになっています。将棋はご存知のとおり、2人で対戦し、最終的に相手の王を詰ませたら終わりというルールですが、終盤になるまでは、どちらが有利かどうか、素人ではなかなか見分けがつきません。形勢が拮抗していると、上級者でも判断が難しくなります。
ところがAIを使うと、70%対30%のように形勢がスコアで表示されます。そうすると観戦者たちも「負けているから応援しよう」「勝っているからそのまま間違えないでほしい」など熱が入ります。スコアを見れば形勢逆転した瞬間もすぐにわかります。AIによって将棋がより楽しめるようになったわけです。
将棋の世界にAIが入ってきた当初は、将棋界に悪影響を与えるのではないかと言われていましたが、実際にはAIの存在によって将棋界全体のレベルが高まった部分もあります。さらに、先ほどの観戦の楽しみを増やしてくれるなど、将棋では人とAIがよい具合に共存できているようです。そういった意味では、AI活用の理想的な形じゃないかなと思って見ています。
― 最後にメッセージをお願いします。
データやAIがますます重要となるなかで、私たちはクライアントや社会に対してインパクトがある貢献ができると信じています。なすべきことはたくさんあります。これからも私たちは各種の強みを発揮しつつ、未知の領域や自己の成長を楽しみ、多くの方々と連携してものごとを前に進めていく、みなさまとそんな組織をともに作りあげたいと思います。