Posted: 22 Jan. 2024 5 min. read

メタバース時代の必修科目 第二弾:モーションキャプチャー技術の基礎知識

バーチャル技術やAI技術の発展により、アバターやさらにその先のバーチャルヒューマンといったものが身近で当たり前に使われるようになりつつあります。本稿では、前回の第一弾:アバター制作手法に続き、作成したアバターを動かす、モーションキャプチャー技術の概要をご紹介します。

モーションキャプチャーの主な手法

モーションキャプチャーは、実際の人間=アクターの動きをデジタルデータとして捉え、アバターやキャラクターに適用する技術です。この手法は映画、ビデオゲーム、バーチャルリアリティなど、さまざまなメディアで活用されています。モーションキャプチャーには、いくつかの主要な手法があります。以下では、それぞれの手法とその特性について説明します。


 

1.  磁気式

磁気式のモーションキャプチャーは、磁場を利用して動きを捉える技術です。被験者には磁気センサーが装着され、これが特定の磁場内で動くときにデータが記録されます。この手法は非常に正確である一方、金属物や電波を発する機器によりデータが歪む可能性があります。
 

磁気センサーです。この機材では全身28か所に装着して、磁場の動きからモーションを記録します。


 

2.  光学式

光学モーションキャプチャーは、特殊なマーカーとカメラを使って動きを捉えます。被験者はマーカーを装着し、カメラがそれを追跡します。そして、それぞれのマーカーの位置を計算し、3D空間での動きを再現します。この手法は非常に正確で、大きなスペースでの動きを捉えることが可能ですが、設置とキャリブレーションには時間と専門的な知識が必要です。モーションキャプチャーとしての精度品質は最も高く、ハリウッド映画などでも採用されている手法です。



3.  慣性式

慣性式モーションキャプチャーは、加速度センサーやジャイロスコープなどの慣性センサーを利用して動きを捉える方法です。慣性モーションキャプチャーの大きな利点の一つは、その移動性と柔軟性です。カメラや特殊な設定を必要とせず、屋外や狭いスペースでも使用できます。また、複数の人物の動きを同時に捉えることも可能です。ただし、長時間の使用や高速の動きの場合には、"ドリフト"と呼ばれる誤差が発生する可能性があります。これは、時間の経過とともに小さな誤差が累積していき、結果として大きな誤差につながる現象です。

慣性モーションキャプチャーは、その便利さと低コストから、スポーツ分析、ヘルスケア、VR/AR、ゲーム開発など、多くの分野で活用されています。最近では、これらのシステムの精度も向上しており、一部のアプリケーションでは他の手法と比べても競争力を持つようになっています。デロイト トーマツ コンサルティングCEO佐瀬のアバターは、一部のモーションを慣性式モーションキャプチャーで作成しました。
 

磁気センサーの例です。この機材では全身6か所に装着して、慣性でモーションを記録します。

※この写真では頭部センサーは分かりやすいように前に持ってきていますが、正しくは前後逆です。


 

4.  AI推定

AI推定によるモーションキャプチャーは、深層学習などのAI技術を使用して、ビデオから動きを抽出する新しい手法です。この方法では、マーカーや特別なスーツを必要とせず、一般的なビデオカメラで撮影された映像から直接動きをキャプチャーします。AIは訓練データを使用して人間の動きを学習し、その知識を使って新しいビデオから動きを推定します。この手法は精度に課題がありましたが、AI技術の進歩によりかなり精度が高まってきています。身近なところでは、SNSのフィルターなどに使われています。

モーションキャプチャーは、アバターやキャラクターに自然な動きを与え、リアリティを高めるための強力なツールです。それぞれの手法にはメリットとデメリットがあり、プロジェクトの目的や必要な精度、予算などに応じて最適なものを選択することが重要です。高い品質が求められる場合は磁気式や光学式などの手法を、低コストで素早く実施する必要がある場合は慣性式やAI推定を利用すると良いでしょう。

デロイト トーマツでは、AI利活用に関する最新トレンドを現状分析するだけでなく、デロイト トーマツの多様な専門性、及びAIの普及に取り組むDeloitte AI Instituteが持つ最新の知見を結集し、最新技術から導かれる未来を提言しています。これからもAIやそれを取り巻く先端技術にまつわる技術的課題やその対策を様々な研究機関と検討し、発信していきます。

【執筆者】

デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー
稲葉 貴久

一般社団法人Metaverse Japan  Lab事務次長
日本バーチャルリアリティ学会認定上級バーチャルリアリティ技術者