Posted: 08 Jul. 2020 2 min. read

第8回 「戦わずに共生する」、中小部品メーカーの生存戦略

【シリーズ】続・モビリティー革命2030

今回は、前回取り上げた大手部品メーカーとは経営基盤も資本体力も異なる中小規模の自動車部品メーカーに焦点を当てる。

 

中小規模の部品メーカーや、生産技術面に重きを置く、いわゆる賃加工の事業者は、まさに今、事業継続の判断を迫られる岐路に立っている。

自動車メーカーや大手部品メーカーによるCASE領域への投資の加速に伴い、必然的に構成や原理に変化がない部品へのコストダウン圧力は上昇する。また内燃機関固有の部品を例にとると、EVを主とする電動化により、出荷量が2030年で1割前後減少する可能性があり、償却台数の減少は利益率の低下につながる。さらに新興国部品メーカーの台頭により日系メーカーの事業環境はさらに悪化するだろう。

本稿は2020年6月4日に日経xTECHに掲載された「続・2030年モビリティー革命を読み解く」を一部改訂したものです。https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01278/00009

 

このような環境下で参考になるのは、日本同様に中小企業大国であるドイツの取組だろう。ドイツでは、地域の中小企業間で水平分業を行うことにより改善効率を最大化しつつ、大学・研究機関の基礎研究による理論に裏付けされた最先端技術の獲得を図っている。

✓製品の企画、開発

AIを活用した設計手法を共同で開発しAIマーケットプレイスとして参画企業で共有できる仕組み作り

✓製造領域

ファクトリーオートメーションやIoTの導入に向け、生産管理用ソフトウェアやエネルギー監視用システム、予測メンテナンス、予測品質、状態監視等のAIを活用したオートメーションプラットフォームの共同開発と共有

✓販売・サービス領域

製品とサービス一体での価値提供を前提に、顧客向けサービスプラットフォームを共同開発、共有するプロジェクトを推進

 

日本でも産学官連携は進んでいるものの、ドイツと比較するとデジタル化で圧倒的に後れを取っている。その理由として①資金や人的リソースの不足、②IT化に対する危機感の薄さ、③デジタル化を主導する地域リーダーの不在、が考えられる。中小規模の事業者は、自社の体制やリソース投入を主体的に見直し、企業が連携し合う“産業共生圏”の構築に向けて、地域産業全体で効率向上を図ることが必要だろう。

一方、デジタル技術の活用による事業効率化は極めて重要な課題であるものの、製造業である以上製品を作ることで付加価値を創出することが本来の生業だ。そこで、中小規模の事業者が新規事業を開発するのにあたり、Abroad(海外志向)、Birdview(俯瞰的思考)、Collaboration(異業種連携)の「ABC」で検討してはどうだろうか。

 

Abroad:海外志向

国内メーカーのみならず、海外メーカーへの部品提供にも目を向ける。ただし日系メーカーとは開発文化が大きく異なり、相手に合わせた柔軟な対応が必要だ。例えば中国メーカーは、インターフェースの先進性や開発スピード、スタイリングを追求する傾向が強く、欧州メーカーは、緻密な要求仕様とその守り切りが求められる。

Birdview:俯瞰的思考

新製品・サービスの開発に当たり、個々の自動車部品や技術ではなく、Out-Car領域まで含めた全体を俯瞰した上で検討する。あくまで自社保有技術の延長線上の開発とし、相乗効果が強く、効率の良い領域を狙うことにより、リスク軽減に効果的だ。

Collaboration:異業種連携

新事業開発において、地域単位の協調は有効だ。地域の課題や独自性を掛け合わせることにより、従来個社単独では実現しえなかった製品やサービスの創発につながる。

 

Post COVID-19の世界で新しい生活様式が定着すると、ヒトの移動や生活が変化し“暮らしの地域化”が進むだろう。同様に、産業も地域化が進み、地域に根差した複数の企業が相互補完的に生活サービスを支える存在になっていく。一方で、産業のオープン化、協調、地域共生といえども、自社生産技術の全てを公開したり、保有特許を無償供与することではない。自社の事業が存続し続けるためには、他に真似のできない技術を保有しておくことが必要だ。よって革新的な生産技術はクローズとし、他社と連携するインターフェースの部分はオープンとする、入念な線引きの検討が肝要となる。

他者の追従を許さない技術をクローズで磨き続けることこそが、中小規模の部品メーカーにとっての生存戦略ではないだろうか。

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