Posted: 26 Oct. 2021 4 min. read

脱炭素社会の実現に向けた令和4年度の日本政府の予算動向

2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取組みが始動

2020年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」からわずか1年で菅政権は退陣したものの、後任となった岸田新総理も政策アジェンダとして「クリーン・エネルギー戦略」の策定を掲げており、またカーボンニュートラル宣言への支持も表明していることから、各省庁は制度改革や新事業の企画を引き続き強化していく構えだ。さらに、米国においても気候変動対策を重視するバイデン政権が国際的な気候変動対策の実施に本腰を入れていることから、令和4年度の予算に向けて、各省庁の動きは更に活発化していくとみられている。

カーボンニュートラルの実現に向けた取組みの特徴

こうした政府全体としての令和4年度予算の脱炭素化予算の概算要求の総額は約5,855億円となっている。その内訳をみると、既に実用化された機器・設備の導入を支援する補助金の総額は2,562億円程度である一方で、2050年カーボンニュートラル実現に向けて必要となる新たな技術の実用化事業にも総額約2,187億円と同程度の予算が確保されている。

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図 1 令和4年度概算要求の分野別動向

 

このように、一見多岐にわたる巨額予算だが、その中身を紐解いていくと、再エネ導入の最大化と、電動化社会の実現という2つのテーマが大きな柱であることがうかがわれる。前者については、洋上風力といった新たな電源の実用化に加え、太陽光や地熱の導入再加速に向けた施策が新たに打ち出されているほか、先端技術を組合わせて導入するゼロカーボンシティを先行的に構築していくための新たな交付金も創設が見込まれている。また、後者については、電気自動車の普及を後押しするための次世代蓄電池の開発や、電動化に伴って予想される電力需要の増加を抑制するための次世代パワー半導体などの実用化支援が強化されつつある。これらの2つの柱となるテーマに関して、それぞれ特に注目すべき事業について以下に紹介する。

注目すべき取組み①:(環境省/経済産業省)再エネポテンシャルの最大限利用に向けて

2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、まず再エネの主力電源化が必須となる。そのため、環境省では意欲的に脱炭素の取組みを行う地方公共団体等に対し、複数年度にわたって再エネ設備や付随する基盤インフラ設備、省CO2設備の導入を推進する新たな交付金を創設する予定である。大きな特徴としては、脱炭素化と同時に地域課題も解決する「脱炭素先行地域」を少なくとも100か所構築するべく、交付要件に一定地域内における民生部門の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロ達成を掲げている点が挙げられる。なお、本事業の予算要求額は200億円と非常に大きい額となっており、今後の動向も注視すべきと考えられる。

 

また、前述の太陽光発電は調整電源や蓄電池等が必要となるため、地熱発電のようにベースロード電源になり得る再エネの開発も重要である。我が国は世界第三位の地熱資源を誇っているもの、その多くが国立・国定公園内に存在していることや、温泉資源の枯渇に対する懸念があったことから、導入が進んでいなかった。2021年に環境省から提示された「地熱開発加速化プラン」においては、自然公園法や温泉法の運用見直しに取組み、2030年までに全国の地熱発電施設数を倍増させることが示されている。この流れを受け、経済産業省は資源量調査や発電効率増加に向けた技術開発支援を拡充する予定であり、また環境省は温泉事業者などの不安解消のためのモニタリング等の支援を行う見込みである。

注目すべき取組み②:(文部科学省/環境省)電動化のトレンドを踏まえた省エネ部素材の開発

電動化の加速に伴って予想される電力需要の増加を抑制するためには、あらゆる機器におけるエネルギー損失の抜本的な低減も重要となる。この鍵となる技術として、次世代半導体を活用したパワーエレクトロニクスに注目が集まっており、文部科学省が長年にわたり基礎研究を推進してきた。


図 2 GaNの特徴とGaNを活用したパワーエレクトロニクス機器の適用先イメージ


この成果を活用する形で、環境省は窒化ガリウム(GaN)を用いた半導体の実用化に向けた開発・実証を支援している。GaNを活用した青色発光ダイオードの開発に携わった日本人3名がノーベル物理学賞を受賞するなど、我が国が先行する新素材であり、デバイスの小型化や高周波化も可能となることから、幅広い分野における省エネ効果が見込まれている。レーザー加工機や直流グリッド、レーダーといった製品への搭載に向けた開発も着手されており、かつての半導体王国としての復権も期待されるところである。

政府予算の効果の最大化に向けて

日本政府による脱炭素社会の実現に向けた様々な取組みの効果を最大化していくためには、脱炭素技術だけでなくDX等の関連動向を精査しつつ、達成すべき未来ビジョンの具体化を図り、その実現にそれぞれの取組みがどのような貢献を果たしていくのか整理する必要がある。また、関連する企業や地方自治体、他省庁といった事業の実施に関わるステークホルダーの巻き込みや事前調整を行うとともに、CO2排出削減効果の定量化や費用対効果の算定、効果検証の体制を整備することで、科学的知見やエビデンスに基づく各種事業の優先順位付けや効果的な執行が可能となると考えられる。

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森 啓文/Keibun Mori

森 啓文/Keibun Mori

デロイト トーマツ グループ シニアマネジャー

ワシントン大学公共政策大学院において、環境税等のグリーン税制の影響分析やエネルギー需要のシミュレーションについて研究。諸外国における地球温暖化対策施策に精通するとともに、中央省庁における事業企画・立案や中長期ビジョンの検討、技術開発動向の調査、新技術の実用化支援などに従事。  

杉山 貴志/Takashi Sugiyama

杉山 貴志/Takashi Sugiyama

デロイト トーマツ グループ マネジャー

大手電機メーカーを経て現職。2010年からは弁理士としての資格も有する。前職では大手電機メーカーの知財部門に所属し、知財戦略策定、他社特許侵害調査、M&A後の再エネ分野での知財活動立上げを実施。入社後は、国プロのフォローアップ調査や知財マッチングをはじめとする新技術の実用化支援等に従事。環境×知財の領域に強みを有する。  

西尾 昌悟/Shogo Nishio

西尾 昌悟/Shogo Nishio

デロイト トーマツ グループ マネジャー

大学院時代には、ナノテクノロジー関連の研究に従事。入社後は、中央省庁向けのデータ分析や中長期視点での重点分野検討、技術開発・実証事業の立案支援・管理業務、EBPMに基づく事業立案スキームの構築支援等に関わっている。また、国家プロジェクトのデータベース化を通した技術動向調査を得意としており、特に大学院時代のバックグラウンドを活かし、次世代半導体等の開発動向に精通。