第6回 報酬委員会の独立性強化/コーポレートガバナンス・コード改訂の要点|D-nnovation Perspectives|Deloitte Japan ブックマークが追加されました
本稿は日経産業新聞に2021年8月25日~9月8日まで掲載された寄稿を一部改訂したものです。
役員が職責を果たし、中長期的な企業の成長に寄与するために、そのインセンティブを設計する役員報酬制度はコーポレートガバナンスを機能させる重要な要素である。
これまでコーポレートガバナンス・コードでは以下の指針が示されてきた。
(1)経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続きの開示(2)健全な企業家精神の発揮に資するインセンティブ付け(3)適切な会社業績の評価と経営陣幹部の人事への反映(4)任意の報酬委員会の活用(5)客観性・透明性ある報酬制度設計および報酬決定手続き――である。
コードで一貫して発信しているのは、明確なルールを定めて適切に開示している限り、インセンティブとなる変動報酬の割合を増やし全体の報酬水準を上げても問題がないというメッセージである。
2021年6月のコード改訂では、報酬委員会の独立性に言及した。具体的には(4)の「任意の」という文言が削除され「独立した」という文言が追加された。
当社調査でも年1~2回しか報酬委員会を開かない企業が44%もあり、経営トップが提示した案を追認するなど受動的な役割を担っていた報酬委員会も多かったと思われる。その点、この改訂には報酬委員会が役員報酬制度により能動的に関与していくべきだというメッセージが込められている。
特に2022年4月の東証再編で最上位となるプライム市場の上場会社では、報酬委員会の委員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、より客観性の高い報酬決定の在り方を求めている。
報酬委員会がより能動的に機能するためには、まず自社の報酬ポリシーが自社の中長期の成長や短期目標の達成に寄与する内容であるかを検証することが大切だ。その上で、その検証内容を踏まえて報酬構成と重要業績評価指標(KPI)の関係を見直したい。
報酬構成は変動報酬、特に株式報酬を増やすことでより成果に対する意識づけを高めることが望まれる。変動報酬と連動させるKPIは自社が重視している中期経営計画などで用いている経営指標とリンクさせることが好ましい。
また、統合報告書でESGに触れているようであれば、役員報酬の非財務指標のKPIに加えることを検討してもいい。なお、ESG評価については日本では役員報酬に反映している企業はまだわずかであるが、ESGの機運の高まりから今後は増えると推察される。
また、報酬が大きく増えた際の批判などに対するリスク対策も大切だ。経営を誤った際などに報酬を強制的に減額・返還できる「マルス条項」「クローバック条項」という制度があり、それを報酬引き上げのバーターとして報酬契約に盛り込むことも考えられる。
今回の改訂でコードが改めて報酬委員会に求めていることは、自社の報酬ポリシーに沿った報酬制度を構築し、その制度を適切に運用すること、さらにその内容を適切に開示することである。
日系大手シンクタンク、外資系人事コンサルティングファームを経て現職。ガバナンス領域(コーポレートガバナンス、役員報酬、役員指名、サクセッションプラン、報酬・指名委員会、組織(役割・権限)等の設計・運用)の専門家で本領域をリードしている。そのほか、M&A領域(人事DD、リテンションプラン設計、PMI支援)、グローバル人材マネジメント領域(人事戦略、人事制度構築、タレントマネジメント等)に強みを有する。国内案件に加え、中国、APAC、US、EMEA案件を多数担当し、2015-18年まで北京オフィスに駐在しており、海外のガバナンス、人材マネジメント領域にも精通している。 改正内閣府令が定める役員報酬開示ルールへの対応と開示の実務 掲載記事(日本経済新聞) ・報酬1億円以上の役員数、トップは日立 開示は最多316社 (2023年7月12日) 関連サービス ・ヒューマンキャピタル ・組織変革 >> オンラインフォームよりお問い合わせ