Posted: 13 Oct. 2021 3 min. read

第8回:持続可能性を成長の糧にも

シリーズ:コーポレートガバナンス・コード改訂の要点

本稿は日経産業新聞に2021年8月25日~9月8日まで掲載された寄稿を一部改訂したものです。

コーポレートガバナンス・コードではサステナビリティーについて2015年の同コード策定時から「適切に対応すべきだ」としていたが、2021年6月の改訂で記述を大きく拡充した。そこにはその理由が端的に示されている。

それは、サステナビリティーを巡る課題への対応は「リスクの減少のみならず、収益機会にもつながる重要な経営課題である」こと、また「中長期的な企業価値の向上」の観点で取り組むべきだといった点にある。サステナビリティーへの対応が単に社会的課題の解決に貢献することではなく、コードの目的である企業価値向上につながることを明示したものだ。

これらの改訂の背景には、昨今のESG投資の高まりがある。
リーマン・ショックのような金融危機を二度と起こさないという反省から、金融業界は半・四半期業績に左右される短期思考の投資から長期思考に基づくESG投資への転換を図った。日本でも公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年、ESG投資を求める国連の責任投資原則(PRI)へ署名し、ESG投資にかじを切った。

その結果、企業にはこれまで以上に中長期の視点からの経営が求められ、取締役会が果たす役割もこれに応じて変わってきた。すなわち、従来のようにCSR推進部などが担当者レベルで取り組むのではなく、ビジネスモデルを変えていくような経営レベルの視点が求められるようになったのである。

経営陣には中長期の時間軸で経済性のみならず環境・社会影響を含めたプラスのインパクトをもたらし、結果として自社の収益向上に寄与してくれる中長期的な企業価値向上のサイクルが求められる。そこでは社外取締役を中心とした監督機能も重視されている。

改訂コードでは、サステナビリティーの取り組みについて具体的に明記している。気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理などで、取締役会へ積極的な対応を求めている。

これらの課題への対応は短期的にはコストであり、企業としての対処が今年の業績にプラスに働くとは限らない。しかし、投資家や消費者、取引先さらには従業員の認識も大きく変化しており、今後の長期思考の経営スタイルでは欠かせない経営課題といえる。

そうしたことを踏まえ改訂コードでは、取締役会は自社のサステナビリティーを巡る取り組みについて基本的な方針を策定し、それらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深め、その内容を適切に開示すべきだとしている。

短期でも長期でもコストでしかない施策と、短期的にはコストでも中長期では企業価値に寄与する施策を見極め監督する取締役会の英知が求められるとともに、企業の開示情報から読み解く投資家の判断力が問われている。

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