Posted: 17 Dec. 2021 2 min. read

食品メーカー、課題解決が「戦略」――動物福祉、環境・人権と並ぶ柱に

【シリーズ】サステナビリティ経営新トレンド

CSV(共通価値の創造)経営の祖であるスイス・ネスレ、社会課題解決の大義をてこに次々と市場のルールを作り変える英ユニリーバ――。世界の大手食品メーカーはいち早くサステナビリティを競争戦略の根幹に据え、社会変容の主翼を担ってきた。食品メーカーの競争原理に変化をもたらし得るカギは、3つあると筆者は考える。

1つ目は「サステナビリティの付加価値化」だ。持続可能な原料調達や環境に配慮した食品包装材への切り替えなど、サプライチェーン全体の変革がひときわ進展している。「エシカル消費」が注目を集める中、それらを最終消費者に付加価値として訴求し、市場における競争力へと転換する動きが加速している。

例えば、植物性油脂大手の不二製油は持続可能な調達を拡充する一方、大豆由来の代替肉の料理などを提供するレストランを開設。植物由来の素材の活用法について消費者と共創する場とし、市場の立ち上げにも注力する。

ネスレや米ペプシコなど海外食品メーカーは、2000年代から米ウォルマートと連携して商品の「サステナビリティ度」の可視化を進め、消費者の意識や行動の変容を促している。自ら購買要因に働きかけ、サステナビリティをコストから付加価値へ変える視点が一層求められる。

2つ目は「食システムの再構築」だ。グローバルの食市場が約10兆ドル(約1130兆円)に拡大する裏で、健康被害やサプライチェーン上の二酸化炭素(CO2)排出増、人権侵害、フードロスなどが生み出す経済損失は約12兆ドルと試算される。調達先との新たな関係構築や、都市型の農業・畜産業モデルの構築は食品メーカーにとっても重要なテーマだ。

特に、代替肉の動向は見逃せない。例えばユニリーバは、植物由来の代替肉や代替乳製品の売り上げを2027年までに10億ユーロ(約1280億円)に引き上げる戦略「Future Foods」を発表。消費者の健康改善とサプライチェーンでの環境負荷削減を進めながら、新市場を切り開く考えだ。

国内においても、例えば日清食品は再エネ導入などと併せて、生産の際の温室効果ガス排出量が牛肉より大幅に少ない大豆由来の代替肉の活用を模索する。食システムの再構築という一大機会に、自社の強みを生かしたイノベーションが今以上に求められる。

注目度が高まるテーマとして「アニマルウェルフェア(動物福祉)の進展」を3つ目に挙げる。牛、豚、鶏など家畜動物の福祉は、国内では環境や人権などの陰に隠れがちだ。一方、欧米の規制強化や機関投資家、消費者の関心の高まりに加え、新型コロナウイルス感染症が人獣共通感染症のリスクに改めて警鐘を鳴らしたことが、衛生的観点も含めた畜産現場の管理の在り方に注目を集めている。

例えばネスレやスウェーデンのイケアなどは、鶏かごに入れずに飼育する鶏が産んだ「ケージフリーエッグ」の調達に向けたグローバル基準の策定を進めながら、良質なサプライヤーを育成し、調達力の強化をしたたかに進める。

国内では、日本ハムが長期ビジョンの中で、環境、人権に並んでアニマルウェルフェアを明記。2030年度までに全農場で、妊娠した豚を狭小なスペースで飼育する「妊娠ストール」を廃止するなどの目標を掲げ注目を集める。

先行する環境や人権といったテーマのこれまでの経緯を振り返れば、今のうちから能動的に取り組むことが中長期の競争力を左右することは明白だ。食品メーカー各社はサステナビリティを「義務」ではなく「戦略」と捉え仕掛け続けている。
 

本稿は日経MJに2021年12 月3日掲載された寄稿を一部改訂したものです。

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