Posted: 20 Jan. 2022 2 min. read

家電メーカー、設計からエコ重視――社会課題解決、外部とも連携

【シリーズ】サステナビリティ経営新トレンド

家庭内に様々な最新のテクノロジーをもたらしてきた家電業界は、近年のサステナビリティ意識の向上により新たな局面に立たされている。

主軸はもちろん、環境負荷低減のため、二酸化炭素(CO2)の排出量削減や資源効率性の向上への要求が日に日に強まっていることへの対応だ。一方で、社会課題の解決への貢献というポジティブな側面も現れてきた。家電業界が現在向き合っているサステナビリティ対応にはこの両側面のトレンドがある。
まず、前者の環境負荷低減については、気候変動対策と循環型経済(サーキュラーエコノミー)を両輪で行うことで、経済発展を妨げずに実現可能との考え方が先進国で一般的になっている。加えて、気候変動への対策はエネルギー部門だけでなく、製造部門でも同時並行で行う考え方が広がっている。


家電業界はかねて、家電リサイクル法などを通じてリサイクルを進めてきた。昨今はより上流での対応として、製品の省エネルギーなど環境に配慮した設計「エコデザイン」が注目されている。家電メーカーにとってはビジネスモデルを転換しながら新たに競争優位を作り出す機会になっている。
エネルギーを使用する製品に対して、エネルギーや資源効率のよい製品の消費者への提供を求める「エコデザイン指令」は2005年、欧州連合(EU)が発効した。要求範囲や水準は、発効後も高まっている。
そうした流れに先んじるように、オランダのフィリップスは1990年代前半から重量、リサイクル・廃棄、エネルギー消費量など具体的な項目を定めエコデザインに取り組んでいる。昨今、携帯電話業界ではオランダのFairphone(フェアフォン)が、消費者が自身で簡単に修理できるモジュール式携帯として話題を集めた。その思想は徐々に一般化しつつある。
2021年にはドイツテレコムなど欧州の大手通信会社が、韓国・サムスン電子など12社の携帯電話メーカーの端末を「耐久性」「修理可能性」「リサイクル可能性」「資源効率性」「気候効率性」というサステナビリティに関わる5つの観点で格付けした。消費者の購入検討の材料に利用できるようにするものだ。


一方、社会課題解決の側面では、家電業界ならではのエンドユーザーとの距離の近さを生かして、環境以外の分野でも生活者の抱える社会課題を捉えており、それらを源泉とした新たなイノベーション機会を模索する動きが出てきている。
そうした中で家庭内のデータを収集する動きは加速している。米ワールプールはレシピサービスのヤムリーを買収し、韓国・LGエレクトロニクスは自社の調理家電にサイドシェフなどスタートアップ企業のアプリを連携している。同様にスウェーデンの家電メーカー、エレクトロラックスは英国のスタートアップ、スマーターの冷蔵庫取り付け型のカメラを活用した商品を開発し、フードロス解決につながる付加価値を軸にビジネス展開を進めている。家電メーカーはこれまで、自動化により生活者を家事から解放してきた。ベビーテックやフェムテックなど女性の社会進出をより後押しする領域にも注目が集まる。昨今の共働き世帯の拡大も捉えて、育児の効率化や女性の健康課題の解決に挑戦している。
家電メーカーが、社会に存在する課題を家庭の単位で捉え直すことによる貢献機会はますます拡大が見込まれる。それとともに、大手企業が、自社が保持していない強みを外部の新興企業と提携し迅速に取り込む動きは今後より必要になると想定される。

 

本稿は日経MJに2021年12 月17日掲載された寄稿を一部改訂したものです。

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