Posted: 21 Jan. 2022 3 min. read

「飛び恥」批判を機会に競争優位を狙う航空会社、バイオ燃料・鉄道とも連携

【シリーズ】サステナビリティ経営新トレンド

人の移動や貨物の輸送に関わる業界でも、SDGs(持続可能な開発目標)を追求する機運が盛り上がっている。今回は、気候変動の観点でフライトシェイム(飛び恥)の動きが盛り上がるなど、批判の目が向けられることが多い航空業界を起点として、企業がSDGsに取り組む意義を考えてみたい。

フライトシェイムはスウェーデンの活動家グレタ・トゥンベリ氏が2019年、ヨットで米ニューヨークに行き、飛行は可能な限り避けるべきであるという考えを宣伝したことで認知が広まった。実際、日本においても航空機は乗客1人当たりで鉄道移動に比べて5.7倍もの温暖化ガスを排出するとされている。

こうした動きは、環境意識の高い一部の人々に端を発するが、既に欧州においては一定の広がりを見せている。フライトシェイムも、それだけ見れば環境保護活動の一環にすぎないが、欧州が率先して推進している他のSDGsや脱炭素と同様に、したたかな競争戦略の一環として用いられているからだ。

例えばKLMオランダ航空は顧客に対して、飛行の代わりに電車に乗ることを提案するなど、「責任ある飛行機の利用」を求める。エールフランスは、旅客キロ当たりのCO2排出量を2030年までに05年比で半減させ、最終的に2050年までにカーボンニュートラルを目指すとした。

そのためにSAF(持続可能な航空燃料)の活用や、航空と鉄道チケットのデジタル統合など、航空と鉄道間の乗り継ぎの利便性を高めて、鉄道との連携・転換を促すなどしている。

こうした中、フランスで排出量を削減するために短距離のフライトを禁止する法案が可決されたほか、オーストリアでオーストリア航空に救済策を講じる際、ウィーン―ザルツブルグ間は鉄道で代替可能として廃止を求めるなど、ドラスチックなルールも策定され、耳目を集める。

注目すべきは、一見、自社の首を絞めるかに見えるフライトシェイムの世論やルールが、むしろ他社との差別化、自社の競争優位につながるものとなっていることである。

国内に目を向けると、全日本空輸は政府や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)など、様々な主体と協力してライフサイクルでCO2排出量を従来燃料より約80%削減できる航空燃料をSAFとして活用しようとしている。

2021年には他企業と産業横断的に協力してSAFの活用を進めるプログラムを立ち上げた。同社と連携するユーグレナも国際規格に適合したバイオジェット燃料を完成させており、21年6月に試験飛行に成功している。

競争優位の獲得に向け、日本においても航空会社と鉄道会社が連携してシームレスな接続を実現するなど、気候変動などの観点を織り込んだサービスの提供が進むことが考えられる。

トラック物流や海運、鉄道と、人やモノの移動・輸送に携わる業界は幅広い。トラック物流では、次世代トラックの導入や共同輸配送、貨客混載、鉄道各社では「SDGsトレイン」のような再生可能エネルギーによる列車運行など、それぞれが社会課題に向き合い、解決を模索している。

そして、気候変動だけでなく、様々な社会課題が顕在化してくる我が国において、社会や人々の生活を支えるインフラとなっているこうした業界が解決に貢献できる部分は大きく、期待は高まる。

 

本稿は日経MJに2021年1月7日に掲載された寄稿を一部改訂したものです。

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