Posted: 17 Aug. 2023 3 min. read

人手不足時代の切り札:「アルムナイネットワーク」とは

「アルムナイ」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。

アルムナイ(alumni)とは、「卒業生」「同窓生」という意味で、人事領域では中途退職者を指す言葉として使われている。

海外の大手企業では以前からアルムナイネットワークをつくる企業があったが、最近、日本企業にも増えている*1。その活動内容は、専用サイトやSNSを通して最近の事業の状況を伝える、アルムナイに自由に投稿してもらう、外部非公開のレポートを特別に共有する、アルムナイ同士や現役社員と交流できるイベントを開催する…等、様々だ。また、アルムナイネットワーク経由で採用につなげる企業も多い。

 

私は、アルムナイの活用は、終身雇用が変化し人手不足が進んでゆくこの時代において、個人と企業の双方にとってより必要性が高まってゆくと考える。

 

ある調査*2 によると、30代・40代の正社員の内、転職経験者は5~6割、20代でも4割弱にのぼる。また、半数以上(55%)の人が「今後転職したい」と考えており、会社を辞めて複数の企業を渡り歩くことは今や普通の時代になってきている。

そこで、個人にとって、アルムナイネットワークに入ることは人脈が広がることに加えて、同じ企業出身者のネットワークがあることで、共通言語で会話ができて心理的距離が近く相談しやすいので、再雇用を含めてキャリアの選択肢を広げやすいというメリットがある。

 

他方、企業にとって、アルムナイ活用は人事戦略とビジネス拡大の両面でメリットが見込める。

まず人事戦略において、人手不足下で優秀な人材を採用するうえで、アルムナイの再雇用の場合、通常の中途採用と比べると再雇用後のミスマッチが少なく、採用コストと時間を抑えられる利点がある。更に、その企業の内と外の両方の世界を経験しているので、多様な視点をもたらす即戦力として期待できる。例えば、ある金融機関では、「出戻り行員」が核になり、新たな融資手法を確立するというケースが出ているという。

加えて事業面においては、アルムナイのネットワークがビジネスで協業を生み出すきっかけになる。ある企業では、新規事業開発にアルムナイの声を取り入れたり、繁忙期にアルムナイの勤務先に業務を委託して人手不足を解消したりする等、実際の事業拡大においてメリットも生まれている。

 

一方で、アルムナイ活用を妨げる課題として大きく影響するのが「会社の辞め方」にある。会社を離れる際に双方の信頼関係を損ねる「辞め方」をするとその後の関係は続きにくい。

そこで、個人と企業のそれぞれが、会社を「辞める」ことを「終わり」と捉えず、将来に異なる形で付き合う「始まり」と捉えることで、双方にメリットをもたらす「好循環」に繋がる。

これからは、会社を離れても個人が企業と良好な関係を保つことで、社会全体として「ヒトの好循環」を生み出し、日本経済の成長に繋がることを期待する。

※本稿は、2023年8月4日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。

 

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松江 英夫/Hideo Matsue

松江 英夫/Hideo Matsue

デロイト トーマツ グループ CETL(Chief Executive Thought Leader)、デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表

デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)