Posted: 01 Mar. 2024 3 min. read

アフリカ経済の展望とビジネス上の視点

アフリカへの成長期待から、今後のビジネスの拡大先として注目が集まっている。アフリカでは特に生産年齢人口が今後緩やかに成長し続ける見込みであり、とりわけ人口増を背景とした消費市場への注目度が高い。本稿では、アフリカのこれまでの経済発展と今後の経済成長の潜在力について、経済構造変化の観点から考察する。

 

アフリカのこれまでの経済発展

キャッチアップが起きないアフリカ

これまでのアフリカ(本稿ではサブサハラ・アフリカ)の経済成長を振り返ると、先進国へのキャッチアップが起きていないことが特筆される。標準的な経済成長理論(ソローモデル)では、所得水準の低い国はその成長速度が速く、所得向上が進むにつれてそのスピードが鈍化すること(収束あるいはキャッチアップ)が示唆されるが、実際に飛躍的な経済成長を遂げたアジアや先進国では、その傾向がみられる(図1、左)。他方アフリカでは、初期時点の所得水準が低く、その後も低成長に留まる国が多く、全体としてキャッチアップが起きていない。投資不足により資本蓄積が進まなかったことと、生産性の伸びが限定的だったことが主な背景である(図1、右)。

 

図1:収束(左)と成長会計(右)

データソース:Robert, et al (2015)内のPenn World Table 10.0

 

これを経済構造の変化という観点でみると、アフリカは産業別の雇用・付加価値ともに、農業部門からサービス部門へシフトし、製造業は全体に占めるシェアが低下した(図2)。経済構造の変化に伴い飛躍的な生産性向上が見られたアジアに対し、アフリカでは、工業化を伴わないサービス業への構造変化が、生産性の向上に寄与しなかったことが示唆される。

工業化は、豊富な雇用創出と高い生産性を同時に達成できる為、包括的で持続可能な経済成長を促す意味で経済発展への役割は大きい。とりわけ製造業は技術革新等を通じて先進国へのキャッチアップが起きやすく、アフリカとアジアの成長の差を生んだ主な要因といえる。

 

図2:アフリカとアジアの経済構造

データソース:Timmer and Vries(2015)

 

また、アフリカ経済構造の特徴として資源セクターへの依存の高さが挙げられる。アフリカ全体の資源品目の輸出は2021年時点で全体の6割を超え、長らく資源依存の構造に変化がない。資源セクターは、生産性が高いが雇用創出力が極めて乏しく、中間層や全体的な所得の底上げに寄与しにくい。また製造業のような貿易財部門の経済資源を吸収することで同部門の発展を阻害する“オランダ病”や、紛争の激化、放漫な財政運営といった負の側面も多い。この結果、アフリカでは資源の豊富さと経済成長が負の相関を持つ「資源の呪い」も確認される。

 

飛躍的な発展への鍵を握る、経済成長促進型の構造変化

では、工業化を伴わない資源・サービス業主導型の経済は、先進国へのキャッチアップを促すような持続可能で包括的な経済成長を達成することは難しいだろうか。ここではこの点を考えるべく、個別国に焦点を当て経済構造の変化をみていく。図3は、先行研究(脚注*1)に倣い、各業種の生産性と経済構造変化をプロット図にして示したものである(図の円の大きさは2010年時点の各業種の雇用シェアを示す)。全体的に右上がりの傾向が見られれば、経済構造が変化するにしたがって生産性が向上したということになるため、成長促進型(growth-enhancing)の経済構造変化が生じていると解釈できる。

非資源国のケニアやダイヤモンド産出国であるボツワナは、概ね各業種の生産性が全体の生産性を引き上げつつ、これらの幅広いセクターで雇用が創出されており、生産性の向上と雇用の創出が同時に達成される成長促進型の経済構造変化が見られた。他方、産油国であるナイジェリアは、鉱業(原油)部門の生産性は高いが雇用の創出が極めて乏しく、経済全体でみると農業部門から経済資源の移動が大して発生していない。資源国であり製造業も一定程度発展している南アフリカは、一部のサービス産業で生産性が高く労働人口の受け皿となっているが、製造業では就業人口のシェアが低下し、「脱工業化」がみられる。

 

図3:アフリカの経済構造変化

データソース:Timmer and Vries(2015)

 

 

経済成長におけるガバナンスとサービス産業の役割

上記の構造分析から、次の2点のインプリケーションが得られる。まず、資源依存国の長期的な成長を促す上では、政治的な安定性や、制度の質、法の支配、汚職の防止等といった強固なガバナンス体制が重要という点だ。典型的な資源の呪いの兆候がみられるナイジェリアに対し、ボツワナでは成長促進型(growth-enhancing)な経済構造変化が見られたが、それはボツワナが、強固なガバナンス体制の下で資源収入を適切に管理し、資源セクターから生産性の高いセクターや教育への投資を進めたためだと指摘されている(脚注*2)。

次に、サービス業の中でも生産性や雇用創出力に違いがあり、幅広い業種が成長すればサービス業自体も、経済成長における製造業の役割を担える可能性があるという点である。ケニアやボツワナは、サービス業の中でも製造業のような貿易財的な性質を持つ業種(宿泊やレストラン、運送業等)が発展し一定程度の雇用を創出しているほか、その他産業との結びつきが強く生産性が高い金融等の業種の発展もみられ、サービス主導で今後も高い生産性と雇用の創出を維持できる可能性が高い。

 

 

今後の展望とビジネス上の視点

ナイジェリア、南アフリカ、ケニアの3か国は特に経済規模の大きさ等から、ビジネス上の注目度も高い。他方で、これらの国が消費市場含め持続的に発展するには、低所得層の底上げと中間層の所得拡大が不可欠である。一部の産業に偏った経済成長では、中間層が拡大しない“Missing Middle”の状況に陥りやすく、より包括的な経済成長を遂げているかといった観点が重要といえる。アフリカ全体では資源の呪いといった資源依存ゆえの副作用がとりわけ強いが、国ごとにはケニアやボツワナのように、より生産性の高い多様なセクターが雇用を創出し、人口増を経済成長に効果的に繋げられる経済構造の変化が見られた国もあった。今後経済が持続的に発展するかどうかについては、成長余力や人口増といった点のみならず経済成長の中身も重要であり、アフリカ・ビジネスを考える上でも不可欠な視点となろう。

*1:McMillan, M,S and Rodrik, D (2011), “Globalization, Structural Change, and Productivity Growth”, National Bureau of Economic Research, Working Paper 17143.
*2:Iimi, A (2006) “Did Botswana Escape from the Resource Course”, IMF Working Paper, WP/06 138.

 

【主筆】

藤原 真名人/Fujiwara Manato
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社 
リスク管理戦略センター シニア・コンサルタント

大学院ではマクロ経済学や開発経済学を学び、修了後は途上国・新興国のマクロ経済調査やカントリーリスク分析等に従事。IMFの分析フレームワークや債務問題、途上国の債務の持続性分析等に精通。2023年より現職。グローバルな経済・政治情勢にかかわるストレス関連情報の提供やアジアのマクロ経済に係る情報提供サービス等に従事。

 

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勝藤 史郎/Shiro Katsufuji

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社 マネージングディレクター

リスク管理戦略センターのマネージングディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。 2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨーク駐在チーフエコノミストとして、米国経済調査予測、レポート執筆、講演等に従事。以前は国債・CPチーフトレーダー、ロンドン支店ディーリング企画業務等、マーケット業務に10年以上携わった。