第4回:社会実装の成功確率の向上を成し遂げるための技術インテリジェンスの活用方法 ブックマークが追加されました
本連載の第3回においては、主に官公庁における特許情報の活用方策の例を紹介したが、本稿においては、民間企業における技術インテリジェンスを活用した技術戦略の立案例について述べる。前回の連載において解説したように、特許は権利であると共に、技術情報を蓄積したデータベースでもあり、特許情報では国プロ等の助成を受けていない企業内の研究開発含めて、より解像度を高めたミクロ情報の探索が可能であるため、その点を中心に紹介する。
GXの領域で新規事業領域への参入を検討する場合、既存の製品・システムやサービスの延長に留まらず、そもそもどの領域を重点化するかといった検討が重要になる。そして、GX領域の場合、補助金や規制といった政策動向に応じて、推奨される技術とそうでない技術が変わることから、政府や(例えばIEA等)国際機関のレポート、或いは政府系機関によるR&D投資の分析といったものを通じ、「今後来る技術」を見極める必要がある。
上記の検討は言うまでもなく重要なプロセスであるが、同検討はあくまでも企業外の外部環境調査であり、当該検討結果で魅力的な領域は、同じく他社にとっても魅力的な領域となる。したがって、重点化する技術領域において、自社と競合他社はどのような技術を現在保有していて、どの内容ならば競合他社に勝てるのか、また自社で賄えない技術を誰と連携して補うのか、そもそも回避できない他社特許はないか、といった点について検討する必要がある。
上記の検討を行うべく、技術インテリジェンスよる分析を行うのが有効となる。そこで、以下、分析の例について幾つか紹介する。
図 1 新規事業領域参入検討手順(抜粋)
通常、特許分析の場合、分析軸(例:技術課題、特徴)を予め定め、それに属する特許を抽出して集計するという進め方をすることが多い。但し、件数が多くなった場合、その手法を取りにくく、また事前に設定した分析軸以外は抽出できないといった点がある。
その様な場合、競合企業間で特定技術に対して、どのような技術の群(クラスター)を有していて、かつ、そのクラスターがどのような技術要素から構成されているかを機械的に判別することは有用である。図 2においては、二次電池メーカー同士の特許の技術要素の関連性について、テキストマイニングを用いてクラスター分解した結果を(抜粋して)示している。A社とB社を比較した際、(B社では一連の関連性をもって示されているか否かの差異はあるものの)いずれも二次電池自体と無線給電や充電に関するクラスターを有している点で共通している。しかし、B社がニッケル化合物やスクラップからの原料抽出といった廃棄物からの再利用にまつわるクラスターが存在するのに対し、A社では存在しないといった違いが顕在化している。
実際、ビジネス上の動きを追跡すると、B社が海外においてスクラップとバッテリー廃棄物を処理する前処理工場を設立する動きをみせているといった事実が存在していた。また、後日談として、A社がバッテリーの二次利用技術を有する企業とのオープンイノベーションを進めることにしたという事実が公開された。このように、競合企業間の技術群や要素を比較することで、具体的に自他社が備えている技術(その結果、補わなければならない技術)を可視化することができる。
図 2 二次電池メーカー同士の特許の技術群の比較
(上記のように、分析を行った結果)不足していることが判明した技術については、自社で開発するか、外部から補う必要がある。例えば、上記の例ではA社にとって、バッテリーのリサイクルに関する技術が不足していることになる。
表 1には、特許情報からバッテリーのリサイクル技術を有する企業を抽出したリスト(抜粋)にして示している。この様にすることで、何が不足しているか判明した後、誰と連携して補うことが可能か探索することが可能である。
表 1 バッテリーリサイクルに関する技術保有者(抜粋)
上記のように連携候補先をリストアップした後は、技術力、営業力、行政機関とのリレーション、知名度等を鑑みながら候補先をスクリーニングしていく。具体的な方法はここでは割愛するが、候補先と連携する際には、相手方にとっての連携のメリットも示す必要があることに留意が必要である。
なお、ここで紹介した手法はあくまでも一例であり、他の利用法も可能である。特許情報の活用を、既存の検討と上手く併用することで大幅な時間の探索やこれまで得られなかった気付きに繋げることが可能である。次回は、カーボンニュートラル実現に向けて必要となる革新的な技術の社会実装に向けたアプローチの方向性と、その検討や連携先探索に有用な技術データベースの概要及び活用方法について説明する。
【主筆】杉山 貴志/Takashi Sugiyama
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 サステナビリティーユニット シニアマネジャー 弁理士・中小企業診断士
大手電機メーカーの知的財産権管理部門において、再エネに関する知財活動の立ち上げを牽引するなど、10年以上民間企業において、知財や事業開発の最前線に立つ。現企業に入社後は環境分野の技術開発の成果について社会実装を推進すべく、50社以上の事業化PJを対象に、ヒアリング調査・分析を実施。(一社)日本知的財産協会における国際委員会でWGリーダーを務めた経験を有するなど、環境技術の事業開発、技術インテリジェンス解析、知財戦略に精通。
【主筆】中山 貴雄/Takao Nakayama
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 サステナビリティーユニット シニアコンサルタント
東京大学において材料工学を専攻し、異種材料間接合における界面形成に関する研究に従事。入社後は、モビリティ分野と材料分野を中心に、中央省庁や地方自治体向けの動向調査や中長期視点でのロードマップ検討、CO2 削減効果の定量分析に関わる。
森 啓文/Keibun Mori
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 サステナビリティーユニット ディレクター
ワシントン大学公共政策大学院において、環境税等のグリーン税制の影響分析やエネルギー需要のシミュレーションについて研究。諸外国における地球温暖化対策施策に精通するとともに、中央省庁における事業企画・立案や中長期ビジョンの検討、技術開発動向の調査、新技術の実用化支援などに従事。