Posted: 26 Apr. 2024 5 min. read

第3回:技術情報が蓄積されたデータベース「特許情報」の活用方法(官公庁向け)

Clean Techの注目領域と社会実装促進に関する手法の紹介

技術情報の塊である特許情報の活用可能性

Clean Techに欠かせないパワー半導体について前回で述べた。半導体産業は以前より特許の権利行使が多く行われる領域でもある。特に民間企業において事業化を目指す技術開発の場合には、参入障壁の確立、対外的アピール、協業先への交渉力獲得、クロスライセンスによる設計自由度確保等の目的で特許出願を行うのが通常である。

特許は権利である一方で、視点を変えると技術情報を蓄積したデータベースとも言える。特許の出願件数は世界知的所有権機関によると、世界全体で2022年単年でも345万件が出願されている。巨大な技術情報の塊となっている。技術への投資動向を把握するために補助金や国プロを調査することでマクロ情報の探索が可能であることはこれまで述べたが、特許情報ではそれとは無関係な企業内の研究開発含めて、より解像度を高めたミクロ情報の探索も可能である。

中央官庁、地方自治体、民間企業の主体別に、新規技術の企画~実装までのフェーズと、その中での実施内容例を記載した(図 1)。社会実装の実行主体である民間企業と、その支援を行う中央官庁や地方自治体ではアクションに差異はあるものの、企画、技術育成、実装と進むフェーズ毎に施策を検討していく点においては共通的に考えることができる。

図 1 各主体別のフェーズ別実施内容例


これらの主体のうち、本稿では中央官庁や地方自治体向けの特許分析の活用方法について具体的に説明する。活用方法はこれに限定するものではないが、我々が提供するサービスの中で比較的利用ニーズが多いものを中心にする。

 

国レベルの技術力比較 【適用例:中央官庁×企画フェーズ】

技術力比較は主体を企業とするのみならず、国単位で比較することも可能である。むしろ、国単位で比較する場合は件数が1万件を超えるため、もはや人の目による分析が困難になることから、特許情報を活用した機械的な判別が一層優位になる。

中央官庁において今後我が国が注力すべきテーマを探索する際に他国の技術力と比較したい場合に適している。または特定の技術テーマに対して、我が国が技術的にリードしているのか、それともビハインドの位置にあるのか、さらに他国では具体的にどんな技術に着目しているのかといった分析をしたい場合等にも適している。


 

地域に内在するシーズ・技術保有者の探索 【適用例:地方自治体×企画フェーズ】

続いて、地域に内在するシーズ・技術保有者を探索するといった使い方も可能である。図 2には2023年に新たに特許出願の公報が発行された北海道を拠点とする企業や研究機関と、同期間における特許出願の公報において対象とした技術における頻出語をそれぞれランキング形式で示した。発酵系の技術ワードが上位にあることが一つの特徴とも考えられる。今回は企業規模を特に考慮せず抽出しているが、例えば中小企業やスタートアップに対象を絞ることで、地場の産業育成を検討する際の核にすることもできる。ここでは、具体的な技術内容まで踏み込まないが、気になる頻出語(例えば、”二酸化炭素”)に対して、どのような技術が地域内でヒットしているのか分析することも可能である。

このような技術保有者の探索は、連携先探索にも共通する。また、新たな予算事業を企画する際に応募者が見込めるかどうかといったプレ調査にも使用できる。

図 2 北海道における出願数の多い企業・機関と対象技術ランキング

 

 

用途探索 【適用例:各主体×企画フェーズ】

新たな材料や部品に関する技術を開発した場合に従来と比較して優れていることが判明していても、顧客が誰になるのか、適切な製品やサービスが何なのか、そのような問題点を抱える声を耳にすることは多い。

最終的には顧客候補にサンプル提供を行うなど、意見や関心を聞く必要があるが、まずは候補となる製品やサービスのリストを作成する必要がある。その際、世の中で類似の技術がどのような使われ方をしているのか分析することが一つの出発点となりうる。図 3には一例としてセルロースナノファイバー(CNF)における適用技術に関連するワードをランキングにしたものを示す。これを起点として、気になる使い方の分析、自社技術との親和性、市場規模、競争環境等を加味して候補を絞り込んでいくことができる。

 

図 3 セルロースナノファイバーの適用技術に関連するワードランキング

 

ここで紹介した手法はあくまでも一例であり、他の利用法も可能である。特許情報の活用を、既存の検討と上手く併用することで大幅な時間の探索やこれまで得られなかった気付きに繋げることが可能である。

 

執筆者

【主筆】杉山 貴志/Takashi Sugiyama
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 サステナビリティーユニット マネジャー 弁理士・中小企業診断士

大手電機メーカーの知的財産権管理部門において、再エネに関する知財活動の立ち上げを牽引するなど、10年以上民間企業において、知財や事業開発の最前線に立つ。現企業に入社後は環境分野の技術開発の成果について社会実装を推進すべく、50社以上の事業化PJを対象に、ヒアリング調査・分析を実施。(一社)日本知的財産協会における国際委員会でWGリーダーを務めた経験を有するなど、環境技術の事業開発、知財戦略に精通。

 

森 啓文/Keibun Mori
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 サステナビリティーユニット ディレクター

ワシントン大学公共政策大学院において、環境税等のグリーン税制の影響分析やエネルギー需要のシミュレーションについて研究。諸外国における地球温暖化対策施策に精通するとともに、中央省庁における事業企画・立案や中長期ビジョンの検討、技術開発動向の調査、新技術の実用化支援などに従事。

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