Posted: 01 Jul. 2024 4 min. read

Web3「DeSci」(分散型科学)が変える科学の世界

ビジネスパーソンにとって注目すべき新たなトレンドが、Web3を活用し、学術研究分野の研究資金助成や情報共有を牽引するDeSci(ディサイ:分散型科学)だ。DeSciとは暗号資産にも使われるブロックチェーン技術を用いてDAO(分散型自律組織)を設立し、トークン発行によって投資家や企業から資金を募る仕組みで、海外では既に多くのプロジェクトが立ち上がっている。DeSciによって研究開発における資金調達の可能性が広がることは、ビジネスの新たな機会創出という観点からも重要である。

 


DeSci:分散型科学の新たな潮流

DeSci(Decentralized Science)は、ブロックチェーン技術を活用して科学研究の分散化と民主化を目指す新たな取り組みである。従来の中央集権的な研究資金調達モデルに代わり、DAO(分散型自律組織)を通じて、グローバルなコミュニティが研究プロジェクトの選定や資金提供を行う。

具体例としてCerebrum DAOは、脳の健康と神経変性疾患の予防に特化した研究を支援している。また、AthenaDAOは女性の健康に関する研究に焦点を当て、ValleyDAOは合成生物学の研究を支援している。各DAOは特定の分野に特化しつつも、透明性の高い資金調達と研究者コミュニティの構築に取り組む。

従来の製薬企業も、DeSciの動きに注目している。2023年1月には、ファイザーがVitaDAOに410万ドルを拠出し、長寿研究を支援した。企業にとっては、単なる出資だけでなく、DAOの運営に積極的に関与できるというメリットがある。

日本の研究者にとっても、DeSciは新たな資金調達の選択肢となり得る。資金不足は日本の科学基礎力低下の一因とされているが、DAOを通じた分散型資金調達は、この課題を解決する可能性がある。さらに、ブロックチェーンベースのオープンなプラットフォームにより、研究者間のコミュニケーションが活性化し、企業との連携も促進される。産学連携においても、DAOにビジネス関係者が参画することで、マーケットニーズに即した研究テーマの選定や新たな視点の導入が期待できる。

DeSciは科学研究の民主化と多様性の確保を目指す新しい試みであり、日本の研究開発にも大きな影響を与える可能性がある。

 

 

デロイト トーマツで取り組む「DeSci DAO」

私たちデロイト トーマツでも、各先端技術の応用研究者/エンジニアとコンサルタントのハイブリッド組織で現在DeSciのDAOの立ち上げに取り組んでいる。DAOの基盤となるプラットフォーム開発や提供を含めて推進中で、産官学のネットワークや多様なビジネスを熟知するコンサルタントが参画することにより、従来とは異なるコラボレーションの場を作り上げる。
 

 

資金調達は、取り組みに関与するスポンサー企業や投資家から募り、出資の見返りとして、実験データの受け取りやIPの取得、収益の分配を得られる仕組みを構想中だ。また、一般社団法人DeSci Japanとともに、日本におけるDeSciコミュニティ組織の立ち上げにも参画し、日本の科学研究の発展に貢献したいと考えている。

これまでイノベーションを促進するための有効な研究資金の配分方法については、「選択と集中」か「浅く広く」か、といった問いがアカデミアで繰り返し議論されてきた。しかし、2023年8月に筑波大学と弘前大学が発表した生命科学・医学分野における18万件以上の科研費と研究成果との関係の分析によれば、「高額な研究費を得るほどより多くの研究成果を創出できるが、5000万円以上の高額金額帯になると、研究成果の創出が横ばい状態に達し、特にノーベル賞級のトピック創出数は研究費受給前より減少すること、また、研究費を投資する側から投資総額に対しての研究成果創出効率を見ると、500万円以下の少額研究費を多くの研究者に配る方が、より高額な研究費を限られた研究領域の限られた人数の研究者に配るよりも効果的」という結果が出た。

つまり一つの研究に資金が集中しても、大きな成果を得られない可能性が高いということだ。それであれば研究内容をビジネスサイドの目線も入れて精査し、多くの研究者に資金調達の機会を生み出すことが求められてくるのではないか。この土台がDAOとなる。

良いことづくしのようなDAOだが、日本で進めるには法整備面での課題もある。DAOは株式会社よりも柔軟な組織体で、取締役や株主といった会社法の概念には当てはまらない。トークンも有価証券に該当する可能性があり、規制がかかる。もちろん改正への取り組みも活発化している。今年1月には政府のプロジェクトチームが「DAO ルールメイクに関する提言」をとりまとめ、金融大臣に申し入れも行った。法改正への準備は進んでいるが、最新動向を把握しながら先んじて進めるところは進め知見を蓄積していこうというのが、私たちの考えだ。

すでに研究開発の場で、公的資金に支えられた従来型の取り組みだけでなく、自らリソースを投入しリスクをとって事業を立ち上げる動きも出始めている。拡張してきた研究開発エコシステムに対応した仕組みとしてのDeSciはまさに今、日本で求められている。

 

執筆者

寺園 知広
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

金融機関・製造業をはじめ、様々な産業向けに先端技術の調査/探索・評価・ユースケース検討・ビジネス適用/実装などのコンサルティングを数多く手掛け、AI・量子技術・空間コンピューティング(メタバースなど)・web3/DAOなどの技術を幅広く担当している。大学などアカデミアを含めた産学官のテクノロジーエコシステム形成の経験も豊富。

 

山名 一史
デロイト トーマツ コンサルティング スペシャリストリード

デロイト トーマツの先端R&D統括チームの一員として、先端技術全般の調査、研究、開発、戦略策定などの案件を手がける。政府系シンクタンクや大学教員等を経て現職。経済学博士。

 

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寺園 知広/Tomohiro Terazono

寺園 知広/Tomohiro Terazono

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

デロイト トーマツ インスティテュート フェロー 金融機関・製造業をはじめ、様々な産業向けに先端技術の調査/探索・評価・ユースケース検討・ビジネス適用/実装などのコンサルティングを数多く手掛け、AI・量子技術・空間コンピューティング(メタバースなど)・web3/DAOなどの技術を幅広く担当している。大学などアカデミアを含めた産学官のテクノロジーエコシステム形成の経験も豊富。   >> オンラインフォームよりお問い合わせ