Posted: 19 Mar. 2025 5 min. read

「ブルーエコノミー」海が舞台の産業革命

万博を機にビジネス機会を考える

海は持続可能なフロンティアであり、万博開催の今こそビジネスの新たなフィールドとして捉え直す良い機会である。ブルーエコノミーは、広範な産業の共通フィールドである海を舞台とした「持続的活用」への挑戦、すなわち「海の産業革命」だ。

大阪・関西万博が示すブルーエコノミーの可能性

海には、まだ見ぬ未来が広がっている――そんな想いを抱きながら、私たちはブルーエコノミーの可能性を探っている。

2025年の大阪・関西万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマのもと、持続可能な社会を構築するための革新的な取り組みが紹介される。その中で、海洋の持続可能な活用を促進する「ブルーエコノミー」も大きな注目を集めている。万博では、常設されるパビリオン「BLUE OCEAN DOME」や日本経済新聞社・日経BP社が共催する「NIKKEI ブルーオーシャンフォーラム」による国際シンポジウムなどを通じ、海洋資源の活用と保全のバランスを探るさまざまな議論が展開される予定だ。

日本は広大な排他的経済水域(EEZ)を有する世界第6位の海洋大国だ。しかし、これまでその潜在力は十分に生かされてこなかった。気候変動や漁業資源の枯渇など、海を取り巻く課題は多いが、その一方で新たなビジネスチャンスも広がっている。ブルーエコノミーは、この海洋の可能性を生かし、持続可能な産業構造を生み出す鍵となる。

 

今こそ、海をビジネスの新たなフィールドとして捉え直すべき

現在、ブルーエコノミーの市場規模は270兆円に達し、2030年には500兆円に成長すると言われている。水産業、エネルギー、海藻・鉱物資源、物流、観光と、あらゆる分野が海を舞台に新たな価値を生み出している。

  • 水産業・養殖業の革新:気候変動による漁場の変化に対応したスマート漁業などの開発が進んでいる。
  • 海洋再生可能エネルギー:洋上風力発電や潮力・波力発電など、海洋を活用したエネルギー産業が成長している。
  • 海藻・鉱物資源の活用:海藻を活用したバイオマス燃料や、深海鉱物資源の探査・採掘といった分野も注目を集めている。
  • 海上輸送の高度化・脱炭素化と港湾DX:自律航行船の開発や代替燃料船の開発・投入、港湾のデジタル化による物流の効率化が進められている。

こうした取り組みを通じ、ブルーエコノミーは海洋資源を「持続可能に活用するもの」へと変えようとしている。

 

海は持続可能なフロンティア

地域の視点で見てもブルーエコノミーは大きな可能性を秘めている。北海道白糠町では、気候変動による海水温の上昇などにより従来の漁獲の中心であった秋ジャケやシシャモが減少する一方でブリの漁獲が急激に増えていた。しかし当地にブリの加工所はなく、地域は漁獲の変化への判断・対応を求められていた。この現状に対してセンサーを用いて海水温をはじめとする海洋環境の変化を見える化し、実態を把握・確認。これらデータを活用し現在の環境にあわせた事業として、ホタテの増養殖として稚貝放流を開始している。同町では漁獲量の増えたブリを「極寒ブリ」としてブランド化するなどもしている。海を「見える化」することで、そこから地域で新たに何ができるかを考え、価値を創り出している。

静岡市では、一般財団法人マリンオープンイノベーション機構、静岡市、静岡県が中心となって「駿河湾BX(ブルートランスフォーメーション)拠点化推進プロジェクト」が動いている。企業・教育機関・研究機関の広範な参画を通じ、海洋データの解析や観光資源の開発など複数の海洋開発テーマを推進することで、駿河湾を巨大な「イノベーションフィールド」へと昇華し、地域経済の活性化を図ろうとしている。

こうした変化の中で、水産業の発展に加え、エネルギー、物流、観光と連携した新しい産業クラスターの形成が求められている。ブルーエコノミーの本質は「産業の融合」であり、海を舞台にした総合的な価値創造こそが、未来の成長戦略となる。

 

産業をつなぐオーケストレーターとして

海洋産業は多くの異業種が交錯する共通フィールドであり、多様なプレイヤーが関わることによる調整の難しさがある。漁業、エネルギー、物流……それぞれが異なるルールで動く世界であるがゆえに、連携には高いハードルがある。

その中で私たちは産業間の翻訳者として機能する「エコシステムオーケストレーター」として産業間の橋渡し役となり、官民連携、異業種間の調整、技術導入支援を進めている。デロイト トーマツは日本の全国に監査法人事務所を持っていることもあり、地域との関係性も深い。地元を理解した上での官民連携や異業種間の調整、技術導入支援などを包括的にサポートできるのが強みだ。

海洋データの活用を通じた新しいビジネスモデルの提案や、ブルーエコノミー関連のスタートアップ企業への支援など、産業横断的な取り組みを推進している。これにより、単なる事業の成長を超え、持続可能な経済圏の構築を目指している。

 

ブルーエコノミーの未来は、いま私たちの手の中にある

ブルーエコノミーの発展は、経済成長のみならず、気候変動への対応や資源の適正利用など、地球環境の持続可能性と直結しており、多くの社会的課題と密接に関わっている。

産業界・官公庁・学術機関が連携し、日本がブルーエコノミーモデルの確立で国際的なリーダーシップを発揮することが必要だ。2025年の大阪・関西万博は、その第一歩となる重要な契機となる。海の未来をどのように創るのか——それを決めるのは、今を生きる私たち自身だ。

 

参考: ブルーエコノミーに関する包括的サービス

プロフェッショナル

高柳 良和/Yoshikazu Takayanagi

高柳 良和/Yoshikazu Takayanagi

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

政府系金融機関にて大企業ファイナンス、中央省庁(出向)にて産業金融政策立案を経験し、現職。 Blue Economyや地域観光エコシステム形成などの産業アジェンダを、中央省庁・自治体と、共感・賛同する事業者との連携を通じて体現する「テーマ先導型官民連携」を推進。 官民連携を通じた地域産業変革、民間企業の事業推進を通じた地域課題解決(地域CSV推進)、官民連携の知見を活かした民間企業による政策渉外支援をリード。 >> オンラインフォームよりお問い合わせ