空飛ぶクルマで生まれる新モビリティ産業 ブックマークが追加されました
まもなく開幕する大阪・関西万博において、最も注目されるものの一つに空飛ぶクルマが挙げられます。万博において着目すべき点、空飛ぶクルマの産業としての意義、そして可能性について、デロイト トーマツにおける空飛ぶクルマの専門家、高橋祐児が解説します。
2025年の大阪・関西万博は、世界中の最先端技術が一堂に会する舞台となる。特に注目されるのが、各国の企業が開発する空飛ぶクルマの実機展示とデモ飛行だ。複数の企業の機体を一度に見られる機会は極めてまれであり、未来のモビリティを体感できるまたとないチャンスである。これらの展示は単なる技術ショーケースにとどまらず、空飛ぶクルマがどのように社会に組み込まれるのか、その可能性を垣間見る場でもある。
特に、日本国内外の主要プレイヤーが一堂に会することで、各社の技術や機体特性等の違いを比較できる点は非常に貴重だ。これにより、将来的なモビリティ社会の発展方向や、以降の政策や規制がどのように検討されるべきかを考察する機会ともなる。
空飛ぶクルマは、主に電動推進システムによる高い静音性や垂直離着陸性能等により、短中距離の迅速な移動が可能になると期待される新しいモビリティである。この特性により、都市部の交通渋滞を避けた移動や過疎地域での新たな移動手段として活用が期待されている。既存インフラに依存しないため、都市部では移動時間の短縮や物流の効率化、地方では医療アクセスの改善や生活圏の拡大が可能になる。
また、観光業や緊急医療搬送、島しょ部へのアクセス改善など、多岐にわたる社会課題の解決にも貢献する。例えば、医療機関への迅速な移動・搬送や、観光客の新たな移動手段としての可能性も広がっている。これにより、従来の交通手段では解決が難しかった課題に対する新しいアプローチが提供される。
さらに、空飛ぶクルマは新しいライフスタイルや楽しみを提供する可能性も秘めている。都市上空からの景観を楽しむ観光フライトや、レジャー用途としての利用など、移動手段としてだけでなく、娯楽やビジネスの新たなフィールドを開拓できる。このような新しいサービスが普及すれば、観光業やエンターテインメント産業にも大きな影響を与えるだろう。
空飛ぶクルマを新しいモビリティ産業として捉えると、この分野の難しさ、そして可能性を感じ取れるだろう。空飛ぶクルマは航空機業界だけでも、自動車業界だけでも実現できない。航空機の高度な技術、自動車の量産技術とコスト管理、電動推進技術、さらにはソフトウェアによる航空交通管理システムなど、多様な産業の知見が結集する必要がある。この技術と産業の融合は、新たな産業構造を生み出し、経済全体に波及効果をもたらす。
こうした産業の交差点に立つ空飛ぶクルマの開発には、異なる業界間での翻訳や調整を行う存在が不可欠であり、その役割がカギとなる。技術的な調整に加え、市場参入戦略の策定、官民連携等含むエコシステムの形成、ビジネスモデルの設計、オペレーションモデルの設計・構築、法規制への対応などが求められる。
デロイト トーマツは、産業コンサルティングで培った知見、再エネ・地方創生はじめさまさまに産業間連携を推進した経験を生かし、これらの課題に対して包括的なソリューションを提供できる。異なる業界の専門知識を組み合わせ、最適なソリューションを提案することで、空飛ぶクルマ産業の発展をサポートしている。
空飛ぶクルマを通じた産業の融合は、技術革新だけでなく、ビジネスモデルや社会構造に変革をもたらす可能性も秘めている。電動化と自律・自動化技術の融合により、効率的で環境負荷の少ないモビリティが実現される。また、IT技術の進化により、リアルタイムでの運航管理や最適な航路選定が可能となり、安全性と利便性の両立が図られる。
産業が交わることで生まれるシナジーは、新たな雇用の創出や経済成長の原動力となる。地域経済の活性化や新たな産業クラスターの形成が期待され、関連分野におけるスタートアップやベンチャー企業の成長も促進されるだろう。
デロイト トーマツには、産業横断的な知見とグローバルなネットワークがあり、この新たな産業の成長を包括的にサポートできる体制が整っている。空飛ぶクルマが社会に実装されるその日まで、企業や自治体と共に未来を形作る一助となることを目指している。
高橋 祐児/Takahashi, Yuji
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー
航空宇宙・防衛分野の民間企業・官公庁に対し事業戦略策定、業務改革支援等のさまざまな案件に従事。2017年頃より空飛ぶクルマ・ドローンの領域を中心に、新規事業戦略・参入戦略の策定、実証実験の企画・推進支援、地域での社会実装に向けた官民連携モデルの構築など、幅広いクライアントに対してプロジェクトを手がけている。
『METI Journal』(経済産業省運営ウェブマガジン、2019年4月掲載)、日経BP社『テクノロジー・ロードマップ 2023-2032 自動車・エネルギー編』(共著、2023年1月出版)、東洋経済新報社『SMART X SOCIETY:テクノロジーの実装で新たな社会を創造する』(共著、2023年5月出版)、その他、講演多数