Posted: 14 May. 2020

スマートヘルスケアシティ

人々が健康に、幸せになるためのまちづくり

病気の治療から健康の維持へ

日本では、健康寿命が平均寿命よりも男性で8年、女性で12年短いという実態がある中、国家戦略の中でも「健康寿命」の重要性が謳われている。医療、ヘルスケアというと、ともすれば昔は病気を治すという視点から議論をされることが多かったが、昨今のヘルスケアの議論では、病気の予防や健康の維持、推進の重要性が謳われることも多くなり、健康というテーマが医療、介護、運動、日々の生活習慣や食生活などを幅広くとらえるようになってきている。

 

スマートヘルスケアシティとは

スマートシティ時代においては、ヘルスケアもさらに高度化、最適化することが期待されるが、それは都市がいったいどのような機能を持つことを意味するのだろうか。テクノロジーによる解決(例えば、生活データをセンサー等によって取得し、それを他のデータと突き合わせて、専門家やAIに共有し、問題の解決策になりそうな情報をプッシュしたりする)の仕組みを持った都市を想起するのが一般的かもしれない。
実際テクノロジーは重要なパートを担うと考えられるものの、テクノロジーだけで都市の健康課題を解決するには十分ではないのではないか。デロイト グローバルでは、スマートヘルスケアシティという用語を導入し、以下の5つの要素を挙げている。

  •  積極的な心身の健康管理を促進する
  •  コミュニティと住民の幸福に関する意識を向上させる
  •  デジタル技術と行動科学を活用する
  •  成果を改善するために、データを有効活用する
  •  革新的なエコシステムを創出する

このコンセプトを参考にしつつ、日本での実態を踏まえ、スマートヘルスケアシティ検討において見逃されがちなポイントについて以下の通り整理を行った。

 

「ヒト」起点の設計思想

人々がより健康に、幸せになる都市を目指す、と書くことは簡単であるが、実現には丁寧な検討が必要である。前提として、人々が意識的にせよ無意識にせよ行動変容を起こさない限りは、どのようなデータが取れようと、より健康になったり、より幸せになることは考えにくい。野菜が足りていません、と通知されても、野菜を食べなければ、当然健康にはならない。

そこで、重要になるのが「ヒト」起点の設計思想である。都市においては、健康に関心が高い人もいれば、低い人もいる。認知症の方もいれば、健康な30代の方、生活習慣病予備軍と診断された方、難病を患っている方もいる。一人ひとりの行動変容のトリガーやハードルが違う中、まずはどういった人を対象として、その人を想像したときに、どうすれば行動変容を促すことが出来るのか、という「ヒト」「ミクロ」の視点から真摯な議論を始めることが重要である。
そのためにはテクノロジーやデータを超えた幅広い仕掛けを考えると同時に設計することが重要であり、それはターゲットに合わせた形で、例えば以下を含むと考えられる。

  • 大義名分(対象とした人々がその都市での生活を通じてどうなる将来に向けて投資をしているのか)
  • 行動変容を可能にする手段の提供(例:通勤における、自動車の代替としての自転車や自転車専用道路)
  • 行動変容を促す仕掛け(例:経済的な動機付けの仕組み、ナッジ理論、保健師等によるアフターフォロー)
  • 継続的な取り組みを可能にする仕掛け(例:データ取得を個人個人にし続けてもらうための啓発やインセンティブ)
  • データを取得、共有、そして幅広く社会に有益な形になるように解析されるための社会的な仕組み

 

青写真の最終形を見据えた上でのスモールスタート

もちろん、狭い母集団で行動変容を起こすことがゴールではなく、まち全体の多くの人を健康にし、幸せにすることがゴールであるべきであり、そのために青写真と、一歩一歩進むためのロードマップを当初段階から描くことが重要である。これは技術面での拡張性という観点のみならず、参画するプレーヤーが将来の計画や希望を持つという面でも大切である。

 

各プレーヤーが無理なく続けることができる仕組み

こういった計画では多くのプレーヤーが参画することになるが、彼らが明日も明後日も頑張れる仕組みが必要である。そのためには、各プレーヤーにとって、一過性のものではない持続的なインセンティブ(財政面含む)が必要になる。住民には成果が実感できることが重要であり、行政であれば公衆衛生施策へ展開できるエビデンス、民間企業であれば、投資を正当化できるメリットを享受できていると考えられるか、等が例として考えられる。

 

健康と幸せを実感できる、スマートヘルスケアシティへ

スマートヘルスケアシティという言葉は、明るい未来を想像させる一方で、本当に人々が健康と幸せを実感できる「スマート」な都市を将来に残していくことができるかどうかが我々の世代に問われていることも事実である。大きい目標を見据えながらも、一人一人の健康へ向けた行動変容を促す仕組み(テクノロジーによるもの、よらないもの含め)や風土を持続的に創っていくこと、そのために各プレーヤーが専門性を活かしつつ連携していけるような自治体のマネジメントと民間の積極的な参画が一層重要になると考えられる。

※本稿は2019年10月に執筆しています

 

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執筆者

波江野 武/Takeshi Haeno

波江野 武/Takeshi Haeno

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 アソシエイトディレクター

日米欧現地でのヘルスケアビジネスの経験を基に、国内外のヘルスケア・医療に関する社会課題の解決とビジネス機会構築の双方を見据えた戦略構築・新規事業参入等のコンサルティングを、政府や幅広い業種の企業に提供。 カリフォルニア大学バークレー校経営学修士、公衆衛生学修士。元兵庫県立大学医療MBA非常勤講師。執筆講演等多数。