都市が持つ機能の中でも、物流分野は重要な位置を占めている。昨今、環境規制の強化、労働力不足、都市部への人口集中、消費者ニーズの多様化、ECの普及、新技術(AI、IoT、ドローン、3Dプリンタ、自動運転、等)の登場などの世界的なメガトレンドが影響し、物流業界においても大きな変化が起こっている。
【Connected】モノの動き/状態の可視化
センサー機器(RFID・ウェアラブル端末等)の低価格化、AI技術の発展をトリガーとして、モノの動き/状態の可視化が進んでいる。例えば、米国の食品業界では、生産者、加工業者、流通業者、および小売業者をつなぐデータプラットフォームサービスに参加するプレイヤーが増えつつある。今後、各業界におけるモノの流れ全体の様々なデータが連携され、そのデータを利活用した多様なサービスが出てくるだろう。
【Autonomous/Automation】物流作業の自律化/自動化
労働力不足やロボティクス技術の発展をトリガーとして、倉庫や輸配送の物流作業において自動化が進んでいる。中国では、設備のメンテナンス要員3名以外は完全に無人の物流センターの構築や、自動運転技術を活用した配送サービスの実証実験を行っているプレイヤーも存在─する。今後、モノの流れに関連する作業の無人化対象の領域は広がっていくだろう。
【Sharing】物流アセット・リソースのシェアリング
消費者ニーズの多様化やECの普及をトリガーとして、業界・企業を超えた物流アセット(トラック、倉庫、等)およびリソース(ドライバー、作業員)のシェアリングが進んでいる。東南アジアにおいてはラストワンマイル輸送隙間時間を利用した一般市民が担うプラットフォームサービスも普及している。今後、物流関連のアセット/リソースの範疇に留まらず、ショッピングモールや街中の店舗スペース等、都市全体のアセット/リソースがモノを届けるための場所として共有化されていくだろう。
【Electric/Environment】電動化と環境負荷の軽減
環境規制の強化をトリガーとして、物流業界においても環境負荷の軽減への取り組みが進んでいる。欧州や米州では配送車輌としてFC(Fuel Cell:燃料電池)トラックの導入を開始した物流事業者も現れている。今後、配送車輌のみならず、物流センターの稼働に必要な電力供給等においてもCO2排出量ゼロ化の取り組みは進んでいくだろう。
物流業界に起こるメガトレンドを踏まえると、モノの流れは都市全体で可視化され、AI等新技術の発展により高度な需要予測が可能になることで、再配達に代表される非効率なモノの流れが消滅し、適切なコストで適時・的確にモノが最終消費者に届けられる時代が来るだろう。また、新たなモビリティが出現することで、ラストワンマイルの配送においてドローン、空飛ぶクルマ、カーシェア、公共交通機関(貨客混載型)の活用など、商品特性、地域特性、消費者ニーズに適した様々な輸配送手段が提供されていくと考えられる。さらに、3Dプリンタ等の技術が発展してくるとモノが使用・消費される地域でモノが作られ届けられ、生産地から消費地に輸送する無駄やサプライチェーン上の在庫がなくなっていく可能性もある。
このようなスマート物流の将来変化において、今後、多種多様なプレイヤーがスマート物流領域へ参入してくると考えられる。現在でも、自動化技術の進展や労働力不足を背景とした規制緩和を受け、物流業界への参入障壁は下がりつつあり、これを契機に、自動車メーカー、ロボットメーカー、総合商社、デベロッパー、EC事業者、情報通信事業者、スタートアップ企業等、物流領域に参入するプレイヤーが相次いでいる。また、業界毎、地域・都市毎に、各荷物の最適配送を実現するための指示・管理を担うロジスティクス・コントローラの覇権争いも水面下で始まっている。このように、様々なプレイヤーが協働/競争しながら社会全体、地域・都市全体のモノの流れが簡素化・最適化され、各地域・都市の多様なニーズを満たすサービスが提供されていくだろう。
既存物流事業者が将来のスマート物流領域で生き残っていくためには、他事業者との協業による物流サービスの高度化が不可欠である。そして、スマートシティ時代において最も重要なポイントは、これまでに蓄積してきた荷主業界・地域・都市の特性に応じた物流オペレーションノウハウを強みとしながら、社会・都市・荷主業界の課題・ニーズの変化を的確に捉え、それを解決できる主たるプレーヤーであり続けることである。