「少女達が未来を変えていく」 そのために、私達ができること〜ルーム・トゥ・リードとデロイト デジタルが挑む、不平等のない世界の実現 ブックマークが追加されました
世界では、文化的偏見や性差別、経済的格差などといった社会的問題によって子どもたちが満足に教育を受けられていないという現状があります。そのような中、認定NPO法人ルーム・トゥ・リード・ジャパンは、「子どもの教育が世界を変える」という信念のもと、非識字やジェンダーの不平等のない世界を実現するために活動しています。Deloitte Digitalではこれまでデジタルを駆使した社会課題解決の一環としてプロボノによるサポートをはじめ、さまざまな活動をご一緒し、2023年からはさらなる連携に向けアライアンスを締結しています。
10月12日には国際ガールズ・デーを記念し「Animation Night with Changemakers 〜多様性とジェンダー平等を考える〜」をDeloitte Tohmatsu Innovation Parkで開催しました。イベントでは、ルーム・トゥ・リードCEOのギータ・ムラリ博士が来日し、活動の報告とともに、NYトライベッカフェスティバル公式セレクション作品として選定された「She Creates Change(少⼥達が未来を変えていく)」のうち一部の動画を上映(日本での正式リリースは2024年3月)。その後ギータ氏と、Deloitte Digital パートナー 宮下 剛、教育ビジネスグループ マネージング ディレクター 川嶋 三香子の3名がパネルディスカッションに登壇し、ジェンダー平等とダイバーシティ、今後のデジタルやAI活用の可能性をテーマに対談を行いました。今回は、パネルディスカッションの様子をお届けします。
宮下:「She Creates Change(少⼥達が未来を変えていく)」では、性別や肌の色、貧困といったさまざまな問題が取り上げられています。今回のテーマである多様性やジェンダー平等を考える上で、そのような問題が現実で起こっているということを、動画を通して改めて実感しました。
まず、1つ目のテーマである多様性という観点から伺います。こうした多様性に関する問題に対して、ルーム・トゥ・リードではどのような取り組みをされているのでしょうか。
ギータ:ルーム・トゥ・リードでは、性に関する差別を女子教育の継続を妨げる重要な課題として認識しています。世界には、文化的な偏見によって生理期間中の女子生徒は自宅待機を余儀なくされ、学校への通学も許されないような地域があります。そうした問題に対し、私たちは「女子教育プログラム」を実施し、若い女性に文化的偏見や性差別に立ち向かうために必要な生活スキルを提供します。彼女たちはカリキュラムを通して、クリティカルシンキングや問題解決、コミュニケーションといったスキルを学ぶだけでなく、ルーム・トゥ・リードのメンターのサポートを受けて、学習を続けるための解決策を自ら見いだすことができるようになります。
宮下:ありがとうございます。川島さんは、ルーム・トゥ・リードの活動について、どのように感じましたか。
川島:私も日本というインフラが整った国に生まれ、性別による制約なく教育という素晴らしいギフトをもらったお陰で、今もこうして自分の人生を自分で決めることができています。そのような経験から、性別によって教育を受ける権利を制約されてしまうことはあってはならないことだと思います。
自立して生きていくということは、意思決定や選択の連続です。そのために必要なスキルは、情報を集め、整理し、考えて、決断を下すこと。それを与えてくれるのが教育だと私は思います。そうした教育の場を提供するルーム・トゥ・リードの役割はとても重要だと思いますし、企業としても真剣に取り組まなければいけないことだと思います。
宮下:私たちも多様性が重要だということは頭では理解しているのですが、多様性を活かすことでどのようなことができるようになるのか、具体的に説明いただけますでしょうか?
川島:ビジネスの観点でいうと2つあります。1つは労働力。世界を見ると、何らかの理由でマーケットを離れたり、宗教上、政治的な理由で就業が制約されてしまう方がたくさんいらっしゃいます。こうした方々が適切な教育を受けて、仕事に就くこと、それによって購買力を持つということは、経済全般を見ても非常に大きなインパクトがあるのではないかと思います。
もう1つは視点です。多様性をかけ合わせることで新しいものが続々と生まれます。そして、より自分たちのニーズに合った商品やサービスが生まれやすくなるとも言われています。またリスク管理の観点でも、幅広いリスクを特定して手を打つことができるようになるなど、多様性を推進することはビジネスの成長につながる大きな可能性を秘めています。こうした理由から、女性の社会参加はただの感情論ではなく、企業や社会が戦略的に取り組んでいくべきテーマなのです。
ギータ:現在も文化的偏見や性差別、安全上の懸念などの問題によって、少女たちが教育を受ける機会を十分に確保できているとは言えません。驚くべきことに、世界中で約1億2,900万人の少女たちが学校に通っておらず、約1,000万人の少女たちが児童婚の危機にさらされています。女子教育は、国が経済を成長させるためにできる最良の投資です。さまざまな国で男子と同じ水準で女子教育が実施できていないことによって、毎年10億ドル以上を失っているとも言われています。特に低所得が続く国々では、100人の男子学生に対して、中等教育を修了できる女子学生は66人しかいません。
女子教育は単に経済的な投資としてだけではなく、尊厳や人権、そして集団としての力を確保することにもつながります。また性別に対する問題は、女性だけでなく、男性にとっても生きる上での制限となることを忘れてはいけません。私たちはジェンダーにとらわれず、女性も男性も同じ問題を持っていると認識して、共に解決策に取り組むことが重要だと考えています。
宮下:次は女子教育やライフスキル向上におけるデジタルの可能性についてもお聞きしたいと思います。世の中ではGenerative AIをはじめ、デジタル技術の積極的な活用が進んでいます。ルーム・トゥ・リードの中で、デジタル教育というものに対してどういった可能性を感じられるのか。またデジタル技術を活用している事例があれば教えてください。
ギータ:近年は世界的なパンデミックの影響で、少女たちが学校を中退するリスクが高まりました。ルーム・トゥ・リードは、このような状況下で学校とは常に確約されているものではないという考えのもと、より手厚いサポートが必要であると認識しています。今まで実施していたプログラムだけでなく、印刷物やラジオ、テレビ放送、携帯電話など、さまざまなメディアを通じたサポートを実施しています。
またデジタルチャネルは、教育とジェンダー平等の解決策を拡大する力を持っていると感じています。今回作成した「She Creates Change(少⼥達が未来を変えていく)」という動画も、世界中の少女や若い女性たちにジェンダー平等とライフスキルの向上を提供するきっかけとなることを期待しています。
一方で、デジタル技術やAIの活用には大きな課題もあります。私たちが支援する低所得コミュニティでは、インターネットが普及している地域であっても、それを利用できない方が多かったり、スマートフォンやパソコン普及率が低かったりと、技術と現場の受け入れ体制に大きな乖離が存在します。これに対してルーム・トゥ・リードでは、テレビやラジオによる支援活動を展開し、「リテラシークラウド」というデジタル図書館を立ち上げました。それでもインターネットなどを通して最新情報に触れられるのは、学校の教師やコミュニティに住む一部の人々です。彼らが教育の重要さを認識し、信頼できる情報を得て、子どもたちへ教育を提供することが大事だと思っています。
今後は情報を得られる子どもたちと得られない子どもたちの格差をなくしていきたいと思っています。また、AIをはじめとする先端技術をルーム・トゥ・リードの職員が駆使し、業務効率を上げることも、1人でも多くの子どもたちへ教育を届けるために重要なポイントだと思っています。
川島:デジタル技術を活用した女子教育には注目しています。例えばWeb会議システムを活用すれば、遠方の最先端の授業を受けることができます。他にもAIを活用して、自分の学習スタイルや進路に合わせたコンテンツを受け取ることで、一部の教育の代替をすることができるようになります。そうしたインフラが整えば、学校に通いづらいという人でも、十分な教育を受けられるようになるでしょう。
またデジタル技術を使いこなす、仕事にするという点でも、私は女子教育とデジタル技術は非常に相性が良いと考えています。IT企業を見ると男性社員が多かったり、日本の大学の理系学部の割合がほとんど男性だったりということを考えると、女子教育とデジタル技術は遠く離れた存在であると感じる方が多いかもしれません。しかし、小中学生に向けてプログラミングを教えると、意外にも女性の方が関心が高いことが多いんですね。
私自身テクノロジー分野に携わって20年になりますが、その中でできることに男女差はないことは実感していますし、テクノロジーの仕事は、時間や場所を選ばないようなポジションがたくさんあるので、女性が活躍しやすい領域でもあると思います。テクノロジーの可能性やリスクを考えると、女性だからこそいろいろなことに携わっていくべき領域だなと思っています。デロイト トーマツ コンサルティングではこうした考えのもとで、女子学生に限らず、学生向けにテクノロジーのワークショップを開いたり、地方自治体と共同で女性向けのデジタルのリスキリングプログラムを提供したりするなど、積極的な活動をしています。
宮下:デジタル技術やAIの活用が進んでいくと、おそらくテストで 100点を取ることと、60点を取ることの差はどんどん縮まって、正解を手に入れること自体は今まで以上に簡単になると思います。ただその正解を実現するために、何をすればいいかを考え、実行することや、実現するための仲間を作っていくことは、これからますます重要になるのではないでしょうか。
ちなみに、今回のイベント名称「国際ガールズイベント Animation Night with Change Makers ~多様性とジェンダー平等を考える~」も、実はChat GPTに考えてもらっていて、AIの可能性が大きく広がっていることを実感いたします。
宮下:今後もルーム・トゥ・リードが活動をしていく中で、乗り越えなければいけない課題と、それをどのように解決していくのかを教えてください。
ギータ:主に2つの課題があると考えています。1つ目は、質の高い教育をより多くの子どもたちに迅速に提供すること。これを実現するために教育を提供する環境とその他の外的要因、例えば気候変動、経済的独立、難民避難などがどのように教育提供を阻害するかという関連性を検証しています。また、学校以外の場所や難民キャンプなど、教育を受けることが難しい環境を改善し、子どもたちが教育にアクセスできるようにしています。
2つ目は、パートナーシップです。ルーム・トゥ・リードではあまりメジャーではない言語での出版物を多く作成しています。これらを他の団体や政府などと協力しながらもっと数を増やしていきたいと考えています。ルーム・トゥ・リードのコンテンツやベストプラクティスを政府と共有し、使えるようにすることも重要だと思っています。これにより政府が教育コンテンツなどを一から作り直すことなく、子どもたちへ教育を届けることができます。こうした活動を行う中で、私たちが対峙している課題はとても大きく、私たちだけの力では解決できません。パートナーシップを通じて、みんなで力を合わせて解決策を見つけていく必要があります。
宮下:これからは、さらに活動が加速していくような印象ですね。川島さんは今のお話をお聞きしてどう思いますか。
川島:私たちもいろいろな方と連携をしながら仕事をする機会がありますが、小さなプロジェクト単位で仕事をしがちになってしまいます。そこをもっと広げて、より多くの人にインパクトを及ぼしていく、残していくということはすごく重要だなと感じています。
宮下:私たちのコンサルティングの仕事は、よく企業のお医者様と例えられることがあります。しかし、昨今の課題が複雑化してきている中では、企業のお医者様から、社会のお医者様を目指していくべきなのかもしれません。例えば企業のどこかの1つの部門に対してアドバイスをするというところから、我々だけではなく、さまざまな企業の方々の皆さんと一緒に、より複雑な問題を解決していく。そういったところは、現在のルーム・トゥ・リードの活動と重なる部分があるのかもしれません。
その上で、改めてギータさんにお聞きしたいのは、このルーム・トゥ・リードの活動に私たちDeloitte Digital はどういったお役に立てるのでしょうか。
ギータ:限られた資源とリソースから最適解を導き、それを基にプロジェクトを進めていけるかということが重要です。そのために現在もコンサルティングファームと協力し、戦略立案や状況分析を支援いただいたり、彼らが持つ情報を共有いただいたりすることで、最善の決断を下すためのサポートを受けています。そうした知恵をお借りしながら、共同で作業を進めていただけると光栄です。
川島:私たちは、教育も含め、戦略の策定から実行支援まで幅広くご支援させていただいています。それに加えて、当社にはいろいろな知識や経験を持った人がいて、さまざま企業や専門家とのネットワークがあります。それらを調和して、よりよい解決策を導いていくということはコンサルティングファームにしかできないことだと感じています。
普段業務を進める際にも、目の前のお客さまだけでなく、その業界や、その先のお客さま、さらには社会というものが広がっています。今回ギータさんのお話をお聞きして、そういったことを意識して普段から仕事をすることは非常に重要なことだと強く感じました。
宮下:ルーム・トゥ・リードの活動をもっと多くの人に知っていただき、関心を持っていただく。そしてすでに寄付をいただいてる多くの方にも、もっと理解を深めていただく。こうした領域でも、まだまだ可能性があると感じています。例えば寄付者とのつながりを深める活動や、ウェブをもっと有効活用していくなど、ルーム・トゥ・リードの活動の輪を少しずつ広げていけるように、私たちも精一杯協力していきたいと感じています。本日はありがとうございました。
ルーム・トゥ・リードは、"子どもの教育が世界を変える"との信念に基づき2000年に設立され、非識字やジェンダー間の不平等のない世界を実現するために活動しています。私達は歴史的に低所得地域に住む子ども達が識字能力と読書習慣を身につけ、少女達が中等教育を修了し、人生の重要な決断をするためのスキルを身につけられるよう支援することで、この目標を達成しようとしています。政府やパートナー団体とも協力し、現在までに23カ国、182,000か所以上の地域で3,900万人以上の子ども達へ教育を届け、2025年までに4,000万人の支援を目標としています。
ウェブサイト:https://japan.roomtoread.org/
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外資系、総合系コンサルティングファームを経て現職。カスタマー&マーケティング領域を中心に戦略立案からオペレーション・組織変革、IT導入変革支援まで幅広い領域に従事し約30年の経験を有する。近年はデジタル、コンサルティング知見を活かしたスポーツビジネス、社会課題解決なども手掛ける。寄稿、講演等多数実施。 関連するサービス・インダストリー ・カスタマー・マーケティング ・広告・マーケティング・EC・ブランド >> オンラインフォームよりお問い合わせ
ITコンサルティングファーム、コミュニケーションコンサルティングファームを経て現職。20年以上にわたり、幅広い業界に対して、企業のIT・DX戦略、IT組織変革・人材戦略、ITガバナンスや、システム構想から実行支援といったさまざまなテクノロジー課題の解決支援に従事。グローバルレベルでのIT・業務変革に関する案件実績も豊富。また、テクノロジー領域におけるインサイトの発信や、CIO Programの企画・推進リードを担当 関連サービス ・テクノロジーストラテジー・トランスフォーメーション >> オンラインフォームよりお問い合わせ