Posted: 23 May 2024

データと生成AIを経営に生かす秘訣とは?

データブリックスとデロイト トーマツが提言

生成AIの急速な普及とともに、現場の業務効率化だけでなく、経営判断や事業戦略の策定にも生かそうとする機運が高まっている。データと生成AIを経営に生かすための秘訣は何か? 

データブリックス・ジャパンの笹 俊文代表取締役社長と、デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員の中山 嘉春、Deloitte AI Institute所長の神津 友武に聞いた。



データが統合されてこそ生成AIは生きてくる
 

──生成AIは瞬く間に世界中で普及し、日本でも数多くの企業が業務に活用するための実証実験を進めています。データブリックスでは、生成AIを活用したデータインテリジェンスプラットフォームを提供しているとのことですが、データブリックスの概要と各国における生成AIの活用状況についてお聞かせいただけますか。

 データブリックスは2013年に米国サンフランシスコで創業した「データとAI」の企業です。データレイクとデータウェアハウスの特長を兼ね備えたクラウド型のデータプラットフォームと、最先端のAIおよび生成AIを掛け合わせることで、データ利活用のスピードと精度を高めるソリューションを提供しています。

今年で創業11年になりますが、生成AI関連のソリューションを提供するようになったのはここ1、2年なので、まずは従来から利用されている「予測型AI」の利用状況からお話しします。

予測型AIのユースケースは広範囲にわたりますが、中でも代表的なユースケースが需要予測です。例えば、当社の重要なお客様の1社である米国スターバックス社は、天候の変化や店舗数の増加、食品ロスの増減といった様々なデータを掛け合わせて、AIに需要を予測させています。

近年、こうした需要予測のためのパラメーターは加速度的に増えており、膨大なデータをいかに早く収集し、タイムリーに分析するかが問われるようになっています。

データブリックス・ジャパン株式会社
代表取締役社長
笹 俊文 氏

エンタープライズテクノロジー領域にて、20年超のリーダーシップの経験を有する。データブリックス入社以前は、セールスフォース・ジャパンに10年以上勤務し、デジタルマーケティングビジネスユニットの専務執行役員兼ジェネラルマネージャーを務める。

──つまり、圧倒的なスピードとボリュームに耐えられるデータとAIのプラットフォームが求められているのですね。一方で、ここ最近注目されている生成AIの活用状況についてはいかがでしょうか。

 顧客体験を高めるため、オンラインでのお客様からの問い合わせに自動応対するチャットボットを開発したり、コールセンターが受けたご意見やご要望を生成AIに要約させたりする実験を行っている企業が多いようですね。

社内規約などを生成AIに読み込ませ、自然言語で問い合わせると、必要な情報を呼び出してくれるといった仕組みを試している事例も多数あります。今後、様々な業務に生成AIが組み込まれていくのではないでしょうか。
 

──デロイト トーマツも、数多くの日本企業の生成AI活用を支援しているそうですが、各社の取り組みにはどのような傾向がありますか。

神津 当社では毎年、日本企業を対象とするサーベイを行っているのですが、最新の調査では、活用の目的として「業務改善」「コスト削減」「新規事業開発」がトップ3に挙がりました。実際に我々が受けるご相談でも、業務改善やコスト削減を目的とするものが多いですね。
 

──日本企業の生成AI活用を支援する中で、見えてきた課題は何でしょうか。

神津 1つは、活用の前提となるデータ統合が十分できていない企業が多いことですね。

米国企業の場合、社内のIT部門が全社のデータ管理を行うので、統合された状態になっていることが多いのですが、大半の日本企業はデータ管理を外部ベンダーに依存し、なおかつ部門ごとにシステムやデータベースがバラバラなので、うまく統合されないのです。

海外の子会社なども含め、グループ全体のデータを1つにまとめ上げないことには、生成AIが対応できる範囲も制限されてしまいます。

そうした中でも、いち早くデータ統合を進め、生成AI活用のための環境を整えている企業もあります。最近では、1つの生成AIが言語、音声、画像などの異なるデータを同時に処理する「マルチモーダル」がトレンドになっていますが、そうした最新技術を積極的に採り入れ始める動きも見られます。

生成AI活用のトレンドは国によっても異なりますが、今後は日本独自の使い方も生まれてくるのではないでしょうか。

例えば、製造業が設計データを生成AIに読み込ませて、斬新な新製品のひな形を生み出させるといった使い道も考えられるはずです。日本の企業しか持たないデータを積極的に活用することが、競争力に結びつくかもしれません。
 

──日本企業の生成AI活用における課題は何だと思いますか。

中山 神津が指摘したように、生成AIが読み取るデータが十分に整備されていないことが大きな課題の1つです。

データ統合が進まないのは、粒度やフォーマットの不統一など、データそのものが「きれいな状態」になっていないことが主な要因です。そもそも、必要なデータがどこにあるのか、信用の置けるデータなのか、といった所在や確からしさも十分把握できていない企業も少なくありません。

まずはこれらを整理し、必要なデータが、必要なときにすぐ取り出せる状態にすることが先決だと言えます。

「データの民主化」に必要な環境とは?
 

──社内における生成AI活用を促すためには、社員一人ひとりのスキルセットやマインドセットを高めることも大切なのではないかと思います。そのためには、社員教育や社員のリスキリングも必要となってくるのでしょうか。

中山 学びの場を設けることはもちろん重要ですが、それよりも、業務を行う上でAIとデータを使わないと仕事にならないという環境を整えるのが有効ではないでしょうか。

スプレッドシートを使って情報をまとめるという従来の仕事のやり方を、「AIとデータ」を使った仕事に置き換えてしまうのです。

「やらざるを得ない」となれば、おのずとそのやり方が身に付くものですし、以前のやり方に比べて効率的だということが実感できれば、もっとAIや生成AIを活用しようというマインドセットも備わるはずです。

もちろんこれは、現場の仕事だけでなく、経営の意思決定についても言えます。「AIとデータ」によって意思決定のための予測精度が上がれば、経営者はより積極的に活用しようと考えるでしょう。まずは、使ってみることが大切だと思います。

デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員
中山 嘉春

製造業・金融等の領域を中心にデータマネジメント、業務改革、全社システム化構想策定から業務・システム導入までの経験を持つ。近年はデータマネジメント、クラウド型プラットフォームを活用したオペレーションモデル改革の取り組みを行っている。

──社内のひと握りの専門家だけでなく、経営者を含むすべての社員がAIや生成AIを使いこなせるような環境づくりが望ましいわけですね。同じように、すべての社員が必要な社内データにアクセスできる「データの民主化」も重要だと言われますが、この点について笹社長はどうお考えですか。

 「データの民主化」は積極的に進めるべきだと思いますが、そのためには土台づくりが不可欠です。多くのデータは、会社のものであると同時にお客様の個人情報はお客様のものでもあるので、その利用には十分なガバナンスを利かせなければなりません。

一方で、社員が必要なデータは、いつでも自由に使えるようにしておかないと、データ利活用の気運は損なわれてしまいます。

この二律背反を解消するには、社内すべてのデータを統合した上で、「誰が、どのように使えるデータなのか?」ということをカタログ化するのが有効です。

さらに、全社のデータ利活用を横断的に管理する組織やルール作りも不可欠でしょう。欧米では、データに関してはCDO(最高データ責任者)、AIについてはCAIO(最高AI責任者)が全社のデータおよびAIのガバナンスと利活用を統括する管理体制が一般化しています。

必ずしもこれらの役職を置く必要はありませんが、厳格なガバナンスを利かせつつ、データやAIを使いたい社員には積極的に使ってもらうための組織作りやルール作りは欠かせません。

もちろん、誰が、どのデータやAIを利用したのかを把握するログ管理や監視の仕組みを整えることも重要です。
 

──とても示唆に富んだご指摘ですね。ところで、デロイト トーマツは、社内で「データの民主化」のための教育活動を行っているそうですね。

神津 「AIとデータ」を使った仕事のやり方について、基礎的なところから学んでいます。

具体的には、全社員に必須の研修として、データを加工し、ビジュアライズした上で、そこからインサイト(洞察)を導き出すというトレーニングを行っています。必要最低限のデータリテラシーとAIリテラシーを習得して、仕事に役立てることが狙いです。

また、デロイト トーマツは、京都大学や、西南学院大学(福岡市)などの大学にデータサイエンス講座を提供しています。

各大学の地元企業にデータを提供してもらい、どんな目的や切り口で分析するのかを考え、プレゼンまで行ってもらうという実践的な講座です。

データを利活用できる人材の裾野を広げ、日本社会や経済の発展に微力ながら貢献していきたいと考えています。

Deloitte AI Institute
所長
神津 友武

物理学の研究員などを経て、2002 年から有限責任監査法人トーマツ(現デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社)に勤務。現在は金融、エネルギー、製造、小売、医薬、公共等の領域で、デロイト トーマツ グループが提供する監査およびコンサルティングサービスへのアナリティクス活用を推進している。

──企業のデータやAIの利活用については、デロイト トーマツはどのような支援を行っているのでしょうか。

中山 データ利活用に関しては、まず、現状どれだけ利活用されているのか、ガバナンスはどの程度利いているのか、といったデータマネジメントのレベル診断から行わせていただくことが多いですね。その上で、データ利活用の目的を明確にしていただき、具体的なアプローチを提案します。

そもそも企業によっては、どこにどんなデータがあって、誰が管理しているのかということすら整理されていないことも珍しくありません。その場合は、社内すべてのデータの洗い出しからご支援することもあります。

日本でも、一部の企業ではCDOを任命して全社のデータを管理するといったマネジメント体制が確立されていますが、全般的に見ると、まだ経営層の意識が十分とは言えません。責任者を決めて、しっかりとデータマネジメントを行っていく体制作りが求められています。

データ利活用を方法論と技術で支援する
 

 管理体制が整わないのは、そもそもデータが部門ごと、業務ごとにバラバラに保存されているからです。これはある意味、仕方のないことかもしれません。

というのも、日本におけるシステム導入のトレンドは、1990年代にはERP、2000年代にはCRMと、時代ごとに移り変わってきたからです。

バックエンド業務を効率化するERPと、営業などフロントエンド業務に用いられるCRMと、同じ会社の中でも業務ごとに異なるシステムが乱立した結果、データもバラバラに保存せざるを得なくなってしまったのです。

それらをいかにつなげ、全社で一貫したデータマネジメント体制を確立できるかどうかが、データ利活用の成否を分けると言えます。

中山 デロイト トーマツは、そうした社内データの連携を実現する様々なソリューションも提案しています。もちろん、データブリックスもその1つです。
 

──データブリックスとデロイト トーマツは、それぞれの強みを融合させて企業のデータマネジメントを支援しているとうかがっています。両社の協業によって、どのような価値が提供できるのでしょうか。

 デロイト トーマツは、フロントエンドからバックエンドまで、あらゆる業務システムの導入に関する支援実績があり、それぞれの業務に関する卓越した知見もお持ちです。

一方でデータブリックスには、社内の様々な業務システムからデータを集め、最先端のAIと掛け合わせることでスピーディに解析できるソリューションがあります。

この両社のケーパビリティが融合することで、部門ごとだけでなく、全社におけるデータ利活用を最適化できるのが最も大きな価値だと言えます。

さらに、デロイト トーマツは企業の人材教育や育成に関する支援も行っておられます。データリテラシーやAIリテラシーを備えた人材が育てば、いずれ利活用のためのアプリケーションを内製化できるようにもなるのではないでしょうか。
 

──企業がデータブリックスを導入するメリットは何だと思われますか。

中山 データ利活用のためのソリューションはいろいろありますが、データブリックスは分散しているデータをつなぎ、たまったデータをAIが分析し、ビジュアライズするまでを一気通貫で行うことができます。

将来の利活用を見据えてあらゆるデータをためておける点と、それをいつでも速やかにAIで分析できる点が、最大のメリットではないでしょうか。
 

──最後に、データやAIの利活用で課題を感じている経営者に、ひと言メッセージをお願いします。

 AIを使ったデータ利活用は、今後さらに進化を遂げていきます。それをタイムリーにキャッチアップするには、早く取り組み始めるに越したことはありません。当社とデロイト トーマツは、それをしっかり支援できるチームであると自負しています。

中山 社内にあるけど、活用し切れていない膨大なデータをいかに整理するか。その取り組みが、企業としての競争力に大きな影響を及ぼすと当社は考えます。

整理するための方法論はデロイト トーマツが、技術はデータブリックスが提供しますので、ぜひお気軽にご相談ください。

シンギュラリティが「IfからWhen」になる中で、AI/デジタルを前提とした新たな社会/産業構造の在り方、必要な政策づくり、コミュニティでの新価値創造モデルづくり、企業変革を推進します。

プロフェッショナル

中山 嘉春/Yoshiharu Nakayama

中山 嘉春/Yoshiharu Nakayama

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

製造業・金融機関を中心に財務・経理領域の業務変革や大規模グローバルシステム関連プロジェクトをリードし構想策定から業務・システム導入まで幅広い経験を持つ。近年はロボティックプロセスオートメーション(RPA)、クラウド型プラットフォームを活用したオペレーションモデル改革の取り組みを行なっており、多様な変化に応じた様々なニーズを持つクライアントへサービス提供をしている。 関連するサービス: ・エンタープライズテクノロジー・パフォーマンス   >> オンラインフォームよりお問い合わせ

神津 友武/Tomotake Kozu

神津 友武/Tomotake Kozu

デロイト トーマツ グループ パートナー

有限責任監査法人トーマツ パートナー。物理学の研究員、コンサルティング会社を経て、2002 年から有限責任監査法人トーマツに勤務。 金融機関、商社やエネルギー会社を中心にデリバティブ・証券化商品の時価評価、定量的リスク分析、株式価値評価等の領域で、数理統計分析を用いた会計監査補助業務とコンサルティング業務に多数従事。 現在は金融、エネルギー、製造、小売、医薬、公共等の領域で、デロイト トーマツ グループが提供する監査およびコンサルティングサービスへのアナリティクス活用を推進すると共に、データ分析基礎技術開発を行う研究開発部門をリードしている。 東京工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科技術経営専攻 客員准教授