NTT版大規模言語モデルの登場で描く 企業と社会変革の新たなシナリオ ブックマークが追加されました
自国のデータを自国のインフラ、技術、人材で有効活用するソブリンAIやソブリンクラウドの構築に向け官民が動き始めている。そうした中で登場したNTTの大規模言語モデル(LLM)「tsuzumi(つづみ)」への期待が高まっている。国産LLMによって、企業や社会の変革をどう加速させていくか。NTTコミュニケーションズの福田 亜希子氏と荒川 大輝氏、そしてデロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)の首藤 佑樹と佐藤 通規の4人が、互いの展望を語り合いました。
NTTが独自開発した「tsuzumi」の商用サービスがスタートした。世界トップレベルの日本語性能を持ち、パラメーター数が少ない小型・軽量モデルであることから、柔軟に低コストでチューニングできる。待望の国産LLMの登場に対して、大きな反響が寄せられている。
福田 tsuzumiは2023年11月に商用化をアナウンスしたのですが、商用サービスを開始した24年3月までにおかげさまで500件を超える導入相談や問い合わせがありました。すでにPoC(概念実証)を実施しているケースもあります。
私たちNTTコミュニケーションズは、tsuzumiを活用したソリューションを提供しています。先進テクノロジーのトレンドでいうと、生成AIは過度な期待の時期を過ぎ、幻滅期に入ったとされていますが、企業レベルでは地に足の付いた議論が深まっています。生成AIを実装して、いかに価値を創出していくかを模索するタイミングに来ているのではないかというのが当社の実感です。
NTTコミュニケーションズ
執行役員
ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部長
福田 亜希子氏
首藤 同感です。企業の中で一部の人や部署が試験的に活用する動きが一巡し、生成AIの効用と限界、あるいはデータプライバシーやフェイク情報など対応しなければならない課題も見えてきたはずです。一時期の熱狂がクールダウンし、シビアにユースケースを探っている段階だと思います。
データそのものが資産であるという考え方が世界的に浸透して、ソブリンAIを各国が真剣に検討する段階に来ています。企業としても、さまざまなテクノロジーやソリューションを組み合わせながら、自社のAI基盤をいかに構築していくかが問われています。まさにそのタイミングでtsuzumiの商用化が始まりました。
国産であり、かつ業界・業務に特化した生成AIを構築しやすいtsuzumiへの期待が大きいことは納得できます。
デロイト トーマツ コンサルティング
Chief Growth Officer(戦略・イノベーション・アライアンス統括)
テクノロジー・メディア・通信 アジアパシフィックリーダー
執行役員
首藤 佑樹
佐藤 データを資産として有効活用していくために、これからは生成AIのエンジンそのものが産業界の基盤の一部になっていくと思います。その基盤を海外のプラットフォーマーに全て依存してしまうのは、経済安全保障の観点からも望ましくありません。データを守りながら自社の強みを伸ばしていく上で、NTTグループという強力なプレーヤーが国産LLMを世に送り出したのは、大変心強いことです。
福田 おっしゃるように、個人情報やIP(知的財産)を守りながら自社のデータを学習させ、特定の業務なり業界に特化したAIモデルをつくっていきたいという企業や自治体などから、とても強い関心が寄せられています。自社のデータを使わないと、自分たちの業務に役立つAIにはならないと考える企業・団体は予想以上に多いですね。
荒川 tsuzumiは業界・業務に特有の知識や言語表現に対応するチューニングを少ない追加学習で実現できます。結果的に学習コストも少なくて済みます。また、LLMの学習・運用ではデータセンターやGPU(画像処理半導体)が大量の電力を消費することが問題視されるようになっています。軽量で消費電力が少ないという点からも、tsuzumiへの関心が高まっています。
NTTコミュニケーションズ
ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部
ジェネレーティブAIタスクフォース長
荒川 大輝氏
DTCは、各インダストリーに特化したチームを擁し、深いドメイン知識をもとに業界・業種に固有のバリューチェーン、オペレーション、インフラなどのあり方を踏まえたクライアント支援を行っている。最近では、業界・業種特化型LLMのファインチューニングを支援するケースが増えており、NTTコミュニケーションズとのコラボレーションが加速しそうだ。
佐藤 御社では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)により社会的課題を解決し、企業や社会の持続的成長が達成された未来「Smart World(スマートワールド)」の実現を事業戦略の柱にしておられます。目指している方向性は私たちDTCと非常に近いので、両社の強みを生かすことで生成AIによって新たな価値を生み出していく機会が大きく広がると思います。
例えば、私たちの強みの一つは、新しく生み出される価値を定量化し、意思決定を支援できることです。生成AIという新しいテクノロジーにどれだけ投資すれば、どういう価値が生み出されるのか。それを定量化できないがゆえに大胆な投資に踏み切れず、PoC止まりになってしまうケースが少なくありません。
これは生成AIのケースではありませんが、DTCはNTTファシリティーズと共同で、省エネ建築物の新築・改修による効果を総合的に定量評価する指標を開発しました*。
* 省エネ建築物の新築・改修に取り組むメリットを総合評価する12の指標を共同開発
環境性能に優れた建物の費用対効果は、CO2(二酸化炭素)やエネルギーの削減量で評価されることが多いのですが、それだけだと効果が限定的なため、投資の意思決定がなかなか進まない現状があります。そこでNTTファシリティーズとDTCは両社の知見を生かして、エネルギー・光熱費削減に加えて、オフィス環境の改善による従業員の健康増進や知的生産性の向上、エンゲージメント向上に伴う離職率の低下などを総合評価する12の指標を定義しました。こうした新たな定量評価の手法を用いることで、脱炭素社会に向けた投資が促進され、スマートワールドの実現に近づくことが期待されます。
生成AIに関しても同じように費用対効果を定量評価するなどして、経営者の意思決定を支援していきたいと考えています。
デロイト トーマツ コンサルティング
アジアパシフィック 通信・メディア・エンターテイメント リーダー
執行役員
佐藤 通規
荒川 生成AIに限らず、テクノロジーの導入によってどうROI(投資対効果)を上げるかが、常に意思決定の大きなポイントになります。
福田と私が所属するスマートワールドビジネス部には、スマートシティやスマートヘルスケア、スマートモビリティなどを推進する6つのチームがあり、チーム横断で生成AIを活用するための機能としてジェネレーティブAIタスクフォースを設けています。
タスクフォースリーダーという立場上、私は生成AIの導入・活用を推進しなくてはならないのですが、お客様が解決すべき課題によっては生成AIではなく従来型の機械学習の方が適しているかもしれませんし、AIではなく別のアプリケーションを使った方がROIが高まることもあるでしょう。解決すべき課題に応じてテクノロジーをマッチングさせ、それを業務プロセスに無理なく組み込んでいく、あるいは仕組み全体をトータルで組み上げていくことが重要で、そうした点ではぜひ御社の知見をお借りしたいと思っています。
福田 消費財企業とDTCの協働で進められているGHG(温室効果ガス)排出量可視化に向けた企業横断の取り組みに、当社も参加しました。(消費財企業とDTCの)両社が共同で開発した製品ごとのカーボンフットプリントを算定するシステムをもとに、サプライチェーン全体でGHG排出量の可視化を進めようというこの取り組みは、非常に意義深いものです。
業界全体を俯瞰して共通の課題やペインポイントを特定し、テクノロジーを使って解決する仕組みを構築した上で、企業間のコラボレーションを促し、社会的なインパクトを大きくしていく。そこはまさに御社が得意とされるところだと思いますし、御社とのアライアンスによって技術に強い当社の力をより発揮できると期待しています。
AIの性能は学習させるデータによって左右される。質のいいデータによってAIを進化させ、より高度な社会的課題を解決する好循環をどう生み出すか。それには、AIが意思決定に自然と組み込まれた状況をつくり出した上で、企業間コラボレーションを加速させることがカギになるという点で、NTTコミュニケーションズとDTCの見解が一致した。
福田 データを起点に世の中の課題を解決していくのが、私たちが目指すスマートワールドの世界観です。生成AIが入ることで、これからデータの使いやすさや活用の幅がより広がります。その動きを加速させるには、エコシステムを形成して、業界横断で使っていただけるようにすることがカギになります。御社を通じてユーザー側から見た私たちへの技術的な要望も出していただけるとありがたいですし、ユーザー企業と当社が双方向で進化していける動きを模索したいと思っています。
荒川 AIモデルとさまざまなアプリケーション、それらをつなげるインテグレーションが三位一体となって業界の課題を解決できるようなソリューションをDTCと共創していきたいですね。それによって、スマートワールドの世界観に近づくことができるはずです。
佐藤 これからは、AIが人をサポートする存在に近づいていくと思います。業務プロセスのいろいろなところにAIが組み込まれていて、人が意識せずとも自然にAIと協働している状況を、経営層から現場までエンド・トゥ・エンドでつくっていくことが、チェンジマネジメントにつながります。それが実現できれば、質のいいデータが自然と集まるようになり、より高度な課題を解くことができます。その積み重ねの先に、スマートワールドが見えてくると思います。
首藤 昨今の技術の進化は急速ですので、私たちはそれを前提として企業の変革シナリオを描くことを求められています。最適な技術を最適なスピードでクライアントに届けるために、NTTコミュニケーションズをはじめとするアライアンス先との協働、共創を一層強固なものにしていかなければならないと自覚しています。
1社単独で世の中の課題を解決することはできませんし、顧客の期待にも応えられません。それは私たちもクライアント企業も同じです。特にデータを起点に社会的課題を解決していくには、企業内部のデータを統合するだけでなく、企業同士のデータを結び付けることで新たな価値を生み出していく必要があります。決して容易なことではありませんが、御社との協業を加速させながら、スマートワールドの実現に向け私たちも一緒にチャレンジを続けたいと思います。
NTTコミュニケーションズ
執行役員
ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部長
福田 亜希子氏
NTTコミュニケーションズ
ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部
ジェネレーティブAIタスクフォース長
荒川 大輝氏
デロイト トーマツ コンサルティング
Chief Growth Officer(戦略・イノベーション・アライアンス統括)
テクノロジー・メディア・通信 アジアパシフィックリーダー
執行役員
首藤 佑樹
デロイト トーマツ コンサルティング
アジアパシフィック 通信・メディア・エンターテイメント リーダー
執行役員
佐藤 通規
テクノロジー・メディア・通信インダストリー アジアパシフィックリーダー メディア/総合電機/半導体/システムインテグレータ/ソフトウェア等の業界を主に担当し、事業戦略策定、組織改革、デジタルトランスフォーメーション等のプロジェクト実績が豊富である。Deloitte USに4年間出向した経験があり、日系企業の支援をグローバルに行ってきた。 関連するサービス・インダストリー ・ テクノロジー・メディア・通信 ・ 電機・ハイテク >> オンラインフォームよりお問い合わせ
アジアパシフィック 通信・メディア・エンターテイメント リーダー 通信事業、ハイテク製造業、メディア事業を中心として、事業戦略、新規事業企画、デジタル化戦略、グローバル業務改革、M&A支援などのコンサルティングに数多く従事。特にデジタル化・5G/6G時代における競争戦略や、日本本社と海外拠点を連動させた、現場を動かす経営改革主導に実績がある。 関連するサービス・インダストリー ・通信・メディア・エンターテイメント ・電機・ハイテク ・Technology Fast 50 Japan >> オンラインフォームよりお問い合わせ