Posted: 29 Jan. 2025 9 min. read

FP&Aが保険業界にもたらす変革と未来

Anaplanとデロイト トーマツが保険業界向けラウンドテーブルを共催

保険業界で重要性を増すFP&Aの進化をテーマに、デロイト トーマツとAnaplanが保険業界の17社を招き、ラウンドテーブルを開催。FP&A(Financial Planning & Analysis)とは、単なる財務報告とは異なり、企業の業績目標の達成のために計画策定やモニタリング、業績予測や分析を通じて、経営の意思決定を支援するアウトプットを生み出し、企業価値向上に貢献する機能である。この記事では業界の課題と未来に向けた話で盛り上がった当日の様子をレポートする。

FP&A的な機能保持は参加企業の8割、しかしツールは表計算ソフトという現状

開会にあたり、有限責任監査法人トーマツの山本大が登壇。社会・経済環境の変化で保険業界において数字を管理できる体制構築の重要性を説き、今回ラウンドテーブルを共に主催するAnaplanとの当該分野における協業について話した。

Anaplanは意思決定を最適化するために設計されたクラウド型のプランニング及び分析プラットフォームを提供している。計画、予実管理、見込、予測、シミュレーションなど、企業内のあらゆるプランニング業務を効率化・高度化し、それらのプロセスとデータを連携させることで、経営意思決定の質・スピード・効率を向上させる「コネクテッドプランニング」を実現する。

デロイト トーマツはFP&A領域においてAnaplanの導入を支援し、既存のERPや経理財務システムと柔軟に連携させることで経理財務業務の高度化を実現している。

有限責任監査法人トーマツ 執行役 アシュアランス事業統括 / AP A&A Growth Leader 山本 大

続いて、同じくトーマツの戸田隆寛が登壇し、ラウンドテーブル参加者の事前アンケート結果について解説した。

まず、FP&Aの組織としての現状に関する問いに対する結果を挙げた。回答のうち37%が「独立したFP&A部門がホールディングスにあり、各事業会社にあるFP&A機能と密接に連携している」と答え、47%が「社内にある他事業部間(例、経営企画、主計、財務企画等)での連携によりなんとか運営している」と答えるように、8割がFP&A的な機能を保持していることが見えてきた。

図:アンケート結果の一部

一方でFP&A(計画策定やモニタリング、業績予測や分析)に用いるツールの現状についての問いでは、そのほとんどがExcelなどの表計算ソフトによるバケツリレーに留まっているという現実も浮き彫りになった。

また人材面では7割の参加企業が対応人材はすべて自社で保有としているものの、社内での人材育成プログラムがあるのは11%と少なかった。FP&Aは機能として存在するものの課題はツールと人材育成というのが現状といったところだ。

有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリー マネージングディレクター 戸田 隆寛

アンケートの結果を受けて、金融持株会社の立場で、Anaplanを活用したグループ・グローバルのプランニングプロセス高度化を指揮している企業のFP&A業務の責任者が、参加者の前で導入時の課題やこれまでの経験を述べた。

「FP&Aのプロセスを高度化するプロジェクトは2024年4月に立ち上がりました。CEOやCFOが損害率について聞いてきた時、データがすぐに出てこない現状があり、欲しいデータが直ちに分かるような体制はどうしたらいいのか? いろいろと検討した結果Anaplanのシステムが優れていると判断し、導入へ。導入支援には一番私どもの意をくんでくれたデロイトさんにお願いしました。いまは要件定義が終わり、これからシステムの個別開発に取りかかるタイミングです」

同氏はFP&A組織とはどういう役割を持つべきか、全体像を描くことが大切だと強調する。

「数字屋ではなく、各事業に寄り添い、同じ方向を向いて変革をサポートしていくこだわりを持って行きたい」
 

FP&Aではホールディングスと事業会社の連携が課題

今回のラウンドテーブルでは四つの円卓にわかれてテーマごとに議論が行われた。第一のテーマは【各社でのFP&Aの現状と課題】だ。話し合いが行われた後、各テーブルの代表者がどのような話し合いが行われたのかを全員に向けてシェアをした。

4つのテーブルにはデロイトとAnaplanの関係者も座る
 

あるテーブルでは「組織論の話が盛り上がりました。旧来型の経営企画部と比してFP&Aという組織が生まれた場合のメリット・デメリットを検討する必要がある、という観点で話しました。メリットとしては会社全体を横串で計画管理でき、統一感のあるプロセスが実現できる点。デメリットとしては、経営企画の戦略機能が引き剝がされてしまうと、会社の戦略や情報連携に課題が出てくるのでは」といった議論があった。

別のテーブルでは「『ホールディングスvs事業会社』で盛り上がった。ホールディングス側が事業会社側から数字をもらって分析しようとして集めても、前提条件が違っていたりすることもあります。同じ前提条件で数字をつくっていく方向へ変えていく必要性があるでしょう」といった課題が話し合われた。

テーブル内で活発に意見交換をし、それをシェアする参加者たち
 

次のテーマとして挙がったのが【これからのFP&A業務の展開】だ。二つのテーブルで話題になったのはKPIについてだ。「KPIが未達の場合の取り扱いについて、盛り上がりました。テーブルの中でもKPI未達の場合は達成へシフトする会社もあれば、なかなか難しいと諦める会社もありました。これをどうやって運営していくのかという難しさを全員が感じています」といったシェアが行われた。

KPIで盛り上がったというもう一つのテーブルでは「営業現場にどこまでKPIを落とすかという議論が活発になりました。営業の現場はどうしてもトップライン主義になるので、新規契約を重視する傾向にあります。ここにボトムラインの収益性や利益目標まで説明すべきか? 現場は混乱してしまうのではないか? という懸念の声があがりました」という。

今後の展開という意味で人材育成の話が中心となったテーブルもあり、「FP&Aで求められるのは管理会計なので、財務会計をやっている人とはプロファイルが違う。管理会計の人材育成が喫緊の課題です」と提起もなされた。
 

FP&A的な機能保持は参加企業の8割、AI活用により競争優位を生み出す組織づくり

休憩をはさみデロイト トーマツ コンサルティングで保険セクターのリーダーを務める福島渉が登壇。デロイトが「2025年保険業界のグローバル展望」についてそのポイントの解説をした。

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 保険セクターリーダー パートナー 福島 渉
 

「生成AIの台頭前はコストカットや労働力代替の論調が強かったのですが、現在は生産性向上=成長ドライバーという論調が強まっています。実際に世界のトップ保険会社群が公表する情報を見ていても、従業員の生成AI利活用促進に係るものが多く目につきます」

福島は「デロイト トーマツでは万能AIに社員が依存する組織ではなく、万能なAIと個性をもったAIが併存し、それぞれの業務で支援する状態が競争優位を生むと考えています」と続ける。万能なAIが昨今の生成AIだとすると、一人ひとりの目的にあったAIパートナー的な存在が個性をもったAIだ。

「例えばオリジナルデータを学習させておき、先月までの業績ポイントを教えてと聞いた場合、CEOとCFOでは求めるポイントは異なります。一人ひとりのニーズに沿ってアウトプットを出し分けるような存在が求められていく」
 

データ活用の高度化に加えて戦略などをプロンプトとして規定していく

こうした仕組みを構築し、組織として生かす場合に、企業内では多くのものが言語化されていないのが課題だと福島は指摘する。「従来のデータ活用の高度化に加え、戦略、方針、規律などをプロンプトとして規定できるレベルまで言語化することが重要になってきます」。

福島の話を終えて、テーブル内のテーマは【テクノロジー×FP&A】へと移る。あるテーブルからは「福島さんの話にもありましたが、集合知を集めて、いろいろな人が活用する場合、答えが均等になってしまうのが課題でした。一人ひとりに合わせた回答がだせるようにしていく仕組みは確かに必要でしょう」との声が挙がった。

他のテーブルでは「データ整備の重要性と難しさ」が話題になった。

「海外とのデータ連係が今でも表計算ソフトを使ったバケツリレーだが、これをリアルタイムにしていきたい。やはり深いインサイトを得るためには海外拠点からスピーディにデータをとらないといけない」と話す。

リアルタイム性を求めるとなると、従来アナログ的なバケツリレーのデータ管理では難しいという声も挙がった。
 

グローバル保険会社におけるFP&Aの定着とさらなる経営高度化

テーマの話し合いを終えた後、Anaplanのリージョナルバイスプレジデントの須釜 進司氏が登壇。FP&Aの機能・組織・役割があるグローバル保険企業をリストアップし、そのほとんどがAnaplanを導入していることを示した。

Anaplan Japan株式会社 リージョナルバイスプレジデント 須釜 進司氏
 

「おかげさまで、FP&AといえばAnaplanというご評価をいただいています。今回、ここでシェアしたいテーマとして世界の潮流がFP&Aの先にある“xP&A”へと移行している点に注目したいと思います。この”x”はextended、つまり”拡張”を意味します。FP&Aアプリケーションを財務経理部門だけでなく、主要なビジネス・ステークホルダーにまで拡張することで、戦略の実行と各組織の目標を達成するために必要なプロセス・結果・進捗状況を包括的に意思決定者へ提供するものです」

須釜氏は保険会社におけるxP&A領域を図で示す。

 

「事業費管理を例に取ると、経理財務部門が一般経費を所管する一方で、ITコストはIT部門が、要員や人的コストは人事部が所管していることが多く、コストの管轄が分かれているため、包括的な事業費管理が難しい場合が多いのではないでしょうか。このような状況において、事業計画の進捗や見込に基づき、事業費を統合的に把握し、経営資源を機動的に配分していくことが重要です。xP&Aソリューションに必要な要素としては、統合性が高く、構成可能でデータが調和されたベンダープラットフォーム、新興技術に対応できる柔軟性、そして水平方向の機能ソリューションと垂直方向の業界特化型ソリューションを含み対象市場のニーズに応える能力が挙げられます。私たちAnaplanのプラットフォームは、これらxP&Aの構成要素のすべてを実現できるという高い評価を外部調査機関からいただいています」

須釜氏の登壇でラウンドテーブルは終了となったが、参加者の多くは会場に残り、共に話し合った人たちとの会話を続けた。

今回の取り組みを企画立案した前出の戸田は「小さくお声がけをしたのですが、想像以上に反響があり欠席者もない会となった」と手応えを感じている。「課題感を共有し、そこから解決へ向けていく。その時にデロイトを思い出してくださったら」と続けた。

Anaplanの須釜氏は、デロイトとの協業について「グローバルのトレンドと個社ごとの課題、マクロとミクロの視点を兼ね備え、伴走型の支援が可能なデロイトと共に歩めることは非常に意義深い」と話す。

FP&Aの進化は保険業界における課題解決の鍵を握っている。デロイト トーマツとAnaplanはこのラウンドテーブルをきっかけに、さらなる連携と変革の取り組みが進展することを期待している。本ラウンドテーブルで共有された洞察が、FP&Aの次なるステージ、xP&Aへの実現に向けた第1歩にもつながるかもしれない。

 

デロイト トーマツ & Anaplan 次世代コネクティッドプランニング

プロフェッショナル

山本 大/Dai Yamamoto

山本 大/Dai Yamamoto

有限責任監査法人トーマツ パートナー

監査・保証業務に関連するアドバイザリー業務を含む、アシュアランス事業統括担当執行役。 会計・内部統制、内部監査、サステナビリティ開示関連、アドバイザリー業務をリード。 Chief Growth Officerとして、監査・保証業務及びそれに関連するアドバイザリー業務の成長戦略の策定・実行、インダストリー・セクター活動の促進を担当。 公認会計士

福島 渉/Wataru Fukushima

福島 渉/Wataru Fukushima

デロイト トーマツ グループ 保険セクター Leader │デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 保険 Unit Leader

保険業界において豊富な経験を有し、主に保険業界に対する戦略立案・実行支援を得意とする。近年では保険業界のイノベーション推進に注力し、イノベーション戦略策定、組織デザイン、アライアンス、M&A、人材マネジメントなど多様な分野で活躍している。 また世界のイノベーションエコシステムにおいて幅広いネットワークを有しており、先端ビジネスモデル、先端技術の発掘・導入、オープンイノベーションといった分野において世界各地でプロジェクトをリードしている。 関連するサービス・インダストリー ・保険 >> オンラインフォームよりお問い合わせ

戸田 隆寛/Takahiro Toda

戸田 隆寛/Takahiro Toda

有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクター

米国において保険業界へのサービスに特化し、米国における各種監査会計基準に精通(PCAOB, AICPA, USGAAP, IFRS, NAIC, US SOX)。2024年有限責任監査法人トーマツに入社し、金融インダストリーに対する会計アドバイザリーを担当。 現在の専門領域としては、LDTI(長期的契約に関する限定的改善)とIFRS17の導入支援会計アドバイザリー、再保険会計アドバイザリー、コンプライアンス、IPOアドバイザリー、財務報告に係る内部統制のアドバイザリー、その他会計上のアドバイザリーサービス、買収事前調査、市場参入補助、保険新商品開発補助などに従事。