GHGからサステナビリティ全般に領域を拡大する ブックマークが追加されました
IFRSでのサステナビリティ開示基準や欧州のCSRD/ESRS、SECの気候関連開示規則案の最終化が進む現在、日本でも有価証券報告書の開示項目にサステナビリティに関する記載欄が新設されるなど、経営戦略に企業のサステナビリティ対応が求められるようになった。サプライチェーン、GHG排出量、人権、生物多様性など、サステナビリティ対応の基盤となるESGデータは多岐にわたる。それら非財務情報の収集や分析だけではなく、連結で財務と同じタイミングでかつ内部統制を含む第三者保証が求められる中、テクノロジーの活用は欠かせない。
今回は株式会社ゼロボードの事業開発本部長の小野泰司氏と、開発本部長本間真氏にお話をうかがった。
中島(デロイト):この対談では、クラウドサービス「Zeroboard」やサステナビリティプラットフォーム構想について詳しくお話をお聞かせ頂ければと思います。まずは、自己紹介からお願いします。
小野氏:ゼロボードの事業開発本部に所属している小野と申します。これまでは約17年間、大手自動車メーカーで勤務していました。当時からカーボンニュートラルやGX、DXなどが主要な課題となっていましたが、特にカーボンニュートラルは競争力そのものであり、雇用にも直接関連する課題だと理解していました。
そういった状況の中、日本の「ものづくり」における産業競争力が、カーボンニュートラルというビックアジェンダにより一気に変わるのではないかという危機感がありました。一つの企業の中で必死に努力するという視点も大切ですが、日本のものづくり全体の中で自分が力を発揮できる領域があるのではないかと考え、ゼロボードで挑戦することを決意しました。
ゼロボードでの主な担当領域は、国内での大口顧客(特に自動車、物流、建設、小売、電機など)担当、海外展開、各種アライアンス、GHGの次の事業創造等です。
小野 泰司氏(株式会社ゼロボード 事業開発本部 本部長)
本間氏:私はゼロボードの創業メンバーの1人で、現在は開発本部の責任者とプロダクトマネージャを兼務しています。ゼロボードが開発するプロダクトの方向性の検討や、顧客の課題解決に必要な機能について考えています。
これまで外資系コンサルティングファームやスタートアップなどいくつかの組織を経ていますが、エネルギー領域に関るプロジェクトに従事する機会が多く、地球の環境の改善やそれに取り組む企業の支援は自分にとって重要なテーマとなっています。
本間 真氏(株式会社ゼロボード 開発本部 本部長 兼 プロダクトマネージャ)
中島(デロイト):日本企業の多くがESGの取り組みを加速させていますが、関連情報を集めるツールとしてスプレッドシートを使っているケースが多く見られます。
(出所:デロイト トーマツ グループ「ESGデータの収集・開示に係るサーベイ2023」)
そんな中、ESG情報を収集して経営に活かしたり、情報公開したりする仕組みを構築しようとしている企業から「A社のソリューションと、B社のソリューションどちらを選べばいいのか」という質問を受けることが増えています。しかし各ソリューションの適用領域が異なるため、簡単に比較できないケースも多い印象です。今回の対談では、さまざまなツールやソリューションの特徴についても情報提供したいと考えています。
小野氏:お客様との対話から「Zeroboardを使うことで少ない工数で正確な算出が可能になる」という意見を頂戴しています。また、「SXやESG経営の入り口として、Zeroboardでの可視化が役立つ」という意見も増えています。
デロイト トーマツをはじめとするパートナー企業とは、サステナビリティトランスフォーメーションなどの経営アジェンダを共同で推進することで、一気にスコープが広がると考えています。そのため、今回の対談を非常に楽しみにしていました。
三沢(デロイト):Zeroboardは、カーボンフットプリントをプロダクト別の排出量として計算できるだけでなく、サプライヤーとデータ連携して使うことができます。その結果、スコープ3を含めたCO2排出量を正しく管理するPDCAサイクルを回すことが可能になると理解しています。
海外では自動車業界における企業間データ交換ネットワークを設立するといったオープンな方向に進んでいるようですが、この領域でのゼロボードの方向性について詳しく教えていただけますか?
三沢 新平(デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社 デジタルガバナンス マネージングディレクター)
本間氏:ゼロボードのサービスは企業と企業がデータをやり取りすることを前提に設計しています。三沢さんがおっしゃる欧州の取組みや、日本の経産省のイニシアチブのひとつであるOuranos Ecosystem、世界的にもPathfinder Frameworkなどが知られています。我々は国内や海外のPathfinder Frameworkの実証実験に参画しており、そこで得た知見をプロダクトにフィードバックしています。グローバルな議論や課題を把握しているという強みはあります。
また、例えばサプライヤーとバイヤーのB to Bの情報共有は、これまでの財務データには無かった新しい概念です。これまで情報収集においては、情報を集めたい親会社が頂点となり、子会社・系列会社のデータを吸い上げるモデルが主流でした。しかしサプライチェーンのバイヤーとサプライヤーの関係にはそのモデルが簡単には適用できません。ゼロボードでは、情報開示することをコンセプトにし、情報を必要とする企業だけでなく、開示側の立場も考慮された設計となっています。
小野氏:サプライチェーン上でのデータのやり取りが増える中、秘匿性を保ちながら情報を連携していく必要があります。我々は欧州電池規則をファーストターゲットとするOuranos Ecosystemとの接続実証にアプリケーション事業者として採択され、目下開発を進めております。
中島(デロイト):今後はESG関連データの活用が進むでしょう。そうなると必要なデータの粒度が細かくなり、取得・収集する頻度も増加します。そういった状況に耐えうる体制を整備する必要があります。もちろん、オペレーションの課題も少なくありません。
情報収集の際にスプレッドシートのバケツリレーでは、ミスが多く時間もかかります。この課題を解決するソリューションのひとつがZeroboardでしょう。皆さんが各社と話されている内容を共有してください。
中島 史博(有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 ESG統合報告アドバイザリー ディレクター)
本間氏:企業は今、とても大変な状況下にあります。温室効果ガスの収集だけでなくESG領域では膨大な項目について情報をチェックしなければなりませんし、欧州発のアジェンダで知識・ルールに急速にキャッチアップする必要があります。さらにこういったルールは、日々進化し続けています。それに加えて、グループ企業やサプライヤーなど複数企業からデータを収集しなければいけないという状況です。
これらの負担を軽減するために、我々はゼロボードのサービスやプロダクトをまずESG領域全般に対応できるよう開発をしており、さらにサービス開発だけでなく「ゼロボード総研」という社内シンクタンクを立ち上げ、専門家チームを抱えて知見を蓄積し発信しています。このチームはお客様に対してコンサルティングサービスを提供することもできますし、ルールが進化してもスピーディに対応します。
サービスはSaaSで提供しているため、ルールの進化に合わせて機能を追加・強化し、様々な知見とサービスを組み合わせてお客様に提供できるようにしています。
自社のみならず、サプライヤーからのデータ収集も考えて開発をしています。サプライヤーは多くの取引先の求めに応じて情報を提供していますが、「システムが違うとデータをやり取りできない」という状況は避けたいですからね。理想としては、自社と他社を含め、全ての関係者が同じシステムを使うのが便利になると考えており、その点についてもSaaSが適しています。
中島(デロイト):これまでゼロボードはGHGデータの収集・可視化・算定支援に特化したサービスを提供してきましたが、今回、「Zeroboard Sustainability Platform」構想を発表し、サステナビリティ全般へ事業領域を拡大することになりました。その背景にある大きな意志決定についてお聞かせいただけますか?
小野氏:企業の実務担当者や経営層は、例えばCSRDを例に取った時、千を超える項目をどのように収集すれば良いのか、そもそもマテリアリティをどこに設定し、どの情報を収集すれば良いのかなど、さまざまな疑問に頭を悩ませています。これらを解決するには、未来志向で自社の状況を分析すると共に、社内外から種々のデータを集める必要があります。そして最も悩ましいのが、規制対応を行うということと、経営視点で企業価値を向上させていくことがリンクしていないことが一番の課題なのではないでしょうか。
ESG経営に取り組むことが事業にプラスになるという明確な方程式がまだ存在しない中で、ステークホルダーからの幅広い要請に取り組んでいかなければなりません。気候変動は明確な課題ではありますが、循環経済やCSRDなどで制約を受けてしまっています。
こうした中、経営と連携する取り組みが求められています。我々はGHGの範囲を広げ、データを広範囲に集め、高度な情報開示に対応しながらサステナビリティ経営の強化を支援していきたいと考えています。
そのため、非効率なデータ収集管理については、「チェーントレーサー(仮)」を開発してデータ収集のDXを実現し、「ESGダッシュボード(仮)」を開発して集めたデータの集計・可視化を行う予定です。従来のZeroboardと連携し、現状把握に加えてこれらの情報を活用するため、デロイト トーマツをはじめとするコンサルティングファームを中心とするさまざまな業種のパートナーと協業し、ESGの情報と経営を結びつけ、企業価値の向上に貢献したいと考えています。
プロダクト導入やソフトウェア面、そしてゼロボード総研などを活用しながら進めるのが、我々のサステナビリティプラットフォーム構想です。
中島(デロイト):当法人ではクライアントと共にCSRDの導入を検討するプロジェクトを進行中で、多くの議論を重ねていますが、あまり時間的な余裕はありません。ESG領域のお客様のニーズ、データのカバレッジを拡張していく必要性を検討し、それらを構築する期間を算出すると、かなりタイトなスケジュールのような気がします。このギャップをどう埋めていくべきでしょうか。
小野氏:2025年度から、日系の欧州子会社は事業規模にもよりますがCSRDの適用対象となります。その状況を考慮すると、2024年度中にソリューションの導入等何らかの対応策を講じる必要があります。我々は、CSRD対応も見据え、Zeroboard Sustainability Platformを発表しました。本ソリューションは3層にわかれており、まずデータ収集レイヤーで、バリューチェーンのデータ収集における効果的かつ効率的なDXを実現します。続いて収集したデータを集計・可視化し、CSRDをはじめとする各種アジェンダへのレポーティングに対応するダッシュボード。さらに、その情報をもとにESG経営を実施するためのソリューション提供レイヤーがあり、この3層をもつプラットフォームはグローバルでみても例がなく我々のユニークな点ではないかと考えています。
(図:株式会社ゼロボード様ご提供)
三沢(デロイト):確かにそうですね。ファーストステップである、情報収集の部分について、集めたい情報がどこにあるのかはしばしば明確ではなく、散在しているケースも少なくありません。特にGHG以外では、そういった問題を乗り越える必要があるでしょう。意思決定のための情報を提供するには、我々のようなアドバイザリーサービスを活用いただけるかもしれません。協力できる部分は多いと感じています。
小野氏:ありがとうございます。我々も様々な視点で考えていますが、まずは「情報を出してほしい」と頼まれる側の立場も考慮する必要があると考えています。取引先からの要望には協力したいものの、出す側の手間が増えるのは問題です。また、サプライチェーンには多くの中小企業が連なっており、情報開示のために工数を捻出する余裕がない企業も多いのが実状です。
経産省とも議論をしていますが、情報を出す側のインセンティブの設定は極めて重要な課題と考えています。サプライチェーン全体で産業競争力を高めること、真摯に努力をした企業が報われる世界をつくることがESGの取り組みをサステナブルなものにするために必要です。
中島(デロイト):Zeroboardは GHGに特化していましたが、サステナビリティという観点から見ると、必要な情報が一気に増えます。その中で優先順位や機能拡張の方向性などはどのように考えていますか。
小野氏: サステナビリティ領域に進出するべきかどうかという議論を行う中、社会のニーズに応えるために、我々もその領域に進出することにしました。
例えば自動車業界には、欧州の電池規制などの課題があります。そういった課題から需要が発生するので、そこから始めるのが「定石」だと考えています。最終的にはサステナビリティ全般に対応することになりますが、開発を進める順番については意識しています。
中島(デロイト):悩ましい課題は例えば、生物多様性などの指標をどう設定するかということではないでしょうか。生物多様性を考える際、共通の計算ロジックや単位、プロトコルが存在しない世界に入ることになります。その点についてはどのように考えていますか。
本間氏:ルールも少しずつ整備されていくと考えられ、それに合わせてお客様のニーズに基づいてできることから開発を進めていくつもりです。最初は一部手探りになるでしょうが、フィードバックを受けながら改善していく予定です。
小野氏:まさに定義が曖昧というのは大きな問題です。情報を集めると言いつつ、どのように設計し、プロダクトに具体的に落とし込んでいくか、ソリューションをどうつくるかは、いくつかの選択肢があると思っています。足元では、そういった課題を持つ企業が、御社に駆け込むのではないでしょうか。定義が曖昧で、どう対処すれば良いのか分からないという状況に対して、皆さんはどのように対応しているのでしょうか。
中島(デロイト):リスクアドバイザリーとして様々なサステナビリティに係るリスクを評価していますが、その中には気候変動のみならず人権を評価することも含まれていますし、生物多様性などの評価も行っています。地域性はありますが、「どう測るのか」という指標が個々には確かにあります。しかし、それらを全てまとめて「ネイチャーポジティブ」というひとつの軸に並べるのは困難です。
また、GDPに代わる指標としてインパクト評価やSROIといったものもあります。社会貢献活動などをトータルで考察していくという概念や取り組みは存在しますが、実装を考えると課題も多いと感じています。
サステナビリティ全般の領域では、これに対応する人材のスキルセットも変わってくるでしょう。労働安全衛生や人権などの知識も必要となります。そういった中で、ゼロボードがどういった活動を推進していくのか教えていただけますか。
(対談の様子)
本間氏:GHGに関しては、もともと知見のあるメンバーを採用してきました。またゼロボード総研を立ち上げましたが、その中にはESG領域に詳しい人材も獲得しています。もちろん社内だけでなく、社外からアドバイザーや顧問も招き、アドバイスを得ています。今後は、皆様のようなパートナーとの連携を強化し、その領域に詳しい方々からの知見も取り入れていきたいと思っています。
小野氏:想像力を働かせて対応するような領域では、確実に新しい知見が必要になってくるでしょう。まずは内部でその分野に詳しい人材を集めようとしていますが、全てを自社で対応するのは、我々の規模では難しい部分も出てくると感じており、その場合に「お客様のニーズに応じ専門性を持つ方々と協力していきたい」というのが我々のスタンスです。
デロイト トーマツのようなプロフェッショナルファームと一緒に取り組めば、それぞれが互いを補完できるのではないかと考えています。
ゼロボードはこれからも、経営層の課題に寄り添い、伴走者として事業を展開していきます。GHGやESGの問題に対しても、サプライチェーン全体の効率的な情報収集はもちろん、企業価値を上げるための支援をしていきます。多くのユーザー企業様、パートナー企業様と共に情報の収集・可視化に留まらず、SXを成し遂げようとする企業をサポートすることが我々の使命だと思っています。
本間氏:我々のミッションは、「気候変動を社会の可能性に変える」ことです。気候変動という問題に対し、CO2削減に真剣に取り組んでいる企業の努力が評価される仕組みを提供し、その企業の可能性を広げ、企業価値が向上していくことを支えていくという意図です。
今回サステナビリティに領域を広げることで、取り組むべき課題は増えます。しかし、その取り組みが報われ、クライアントの企業価値の向上につながる世界を作り出したいと考えています。このミッションに賛同いただける方は、ぜひ一緒に取り組んでいただければと思います。
中島・三沢(デロイト):ありがとうございました。
(左から、中島、三沢、小野氏、本間氏)
・ESGソリューションサービスを展開する各社との対談シリーズ
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コンサルティングファームおよび外資系ソフトウェア会社にて、デジタルトランスフォーメーション戦略、ビジネスモデル設計、デジタルマニュファクチャリング構想・設計、スマートファクトリー構想・設計、温室効果ガス(GHG)排出量削減を中心としたサステナビリティ戦略などをテーマに、自動車業界および製造業のお客様を中心にビジネス戦略を支えるDXコンサルティング業務に幅広く従事。 デロイト トーマツ グループに入社後は、デジタルガバナンスのマネージングダイレクターとして、自動車・製造業向けに複雑化・不安定化が増すサプライチェーンxサステナビリティxデジタル領域のリスクアドバイザリー関連サービスを提供。
有限責任監査法人トーマツ所属。外資系大手コンサルティング会社、サステナビリティコンサルティング会社を経て現職。サステナビリティ経営や脱炭素戦略の策定、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)対応及び気候変動シナリオ分析などに従事。