ナレッジ

持続可能な林業に向けたデロイト トーマツの取組み

森林資源の有効活用や仕組みづくりを通して、持続可能な林業を目指す

日本は国土面積の3分の2が森林という、世界的に見ても非常に高い森林率を誇る国です。現在日本の森林資源は成熟し、収穫期を迎えています。収穫適齢期の木材資源伐採量は増加している一方、再造林率(伐採された森林の面積に対する伐採後の土地への植林面積の割合)は横ばいとなっています。

林業従事者が年々減少傾向にあることに加え、所有者不明状態の山林が適切に管理されず、森林が持つ機能(土砂災害防止機能や物質生産機能など)が損なわれるリスクが増大しています。これらのリスクを減らすためにデロイト トーマツ コンサルティングでは、持続可能な林業を可能にする取り組みを推進しています。

持続可能な林業に対するアプローチ

森林は水質の浄化、土壌の浸食や流出の抑制、木材としての活用などの様々な機能を担い、自然の恵みである生態系サービスを提供しています。私たちがこうしたサービスを享受し続けるには、森林を植える→育てる→収穫する→再造林する、のサイクルを適切に回さなければなりません。

しかし、日本において本サイクルを回せている森林は少ないのが現状です。

日本の林業経営体の収益確保が困難になっており(1、林業従事者の減少を招くと同時に、上記のサイクルを回す意欲向上を阻んでいます。また、所有者不明の山林の存在も森林の適切な管理の大きな障害になっています。

その結果、原材料の枯渇に加え、土砂崩れや洪水などの自然災害や気候変動の促進などのリスクが増大しています。

このような状況において、林業経営の改善、そして日本の森林のポテンシャルを最大限引き出す方法を考えることは、持続可能な林業を行う糸口となります。

そこで当社では、本問題に対し以下3つのアプローチで取り組みます。

  1. ソーシャルインパクトボンド(SIB)を活用した収益化スキームの構築
  2. プラットフォームビジネスを活用した新規森林ビジネスの創出・進展
  3. 新会社の設立や市場からの資金調達

 

1 林野庁「特集1 森林を活かす持続的な林業経営:林野庁 (maff.go.jp)」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/R2hakusyo_h/summary/s_t1.html 2023年8月1日閲覧

 

1. ソーシャルインパクトボンド(SIB)を活用した収益化スキームの構築

持続可能な林業を営む仕組みを作る方法として、ソーシャルインパクトボンド(以下SIB)を活用した収益化スキームを構築し、関係者全員が収益を得ながら持続的に林業を続けていけるような基盤を整備することが考えられます。

SIBとは、民間の資金提供者から調達する資金を元にサービスを提供し、その成果に応じて行政が資金提供者へ資金を償還払いする、官民連携による社会的インパクト投資の一つです。
SIBの特徴は以下の3点となります。

  1. 民間資金を活用しながら革新的な社会課題解決型の事業を実施する 
  2. 事業成果(社会的コストの効率化相当分)を支払いの原資とする 
  3. 社会的インパクトを数値化し、自治体がその成果報酬を支払う
     

■SIBを利用した持続可能な林業活動方法の一例

森林保全活動結果に応じた償還払いシステムの構築の例をご紹介します。

ステークホルダー別の要望例:
  1. 企業:J-クレジットを始めとした森林クレジット以外の方法で森林保全活動に取り組みたい
  2. 自治体、森林所有者:所有している森林を活用し、マネタイズ可能なシステムを構築したい
解決策例:

企業は特定の自治体や森林所有者へ投資をし、自治体・森林所有者は投資金額を原本に森林保全活動(伐採・植樹・再造林・水資源管理など)を行います。

そして年度毎のCO2削減量・水源涵養量・再造林量などの指標の算出結果に基づき、自治体・森林所持者は企業に対して償還払いを行います。
当社は本座組構築をサポートします。
 

【SIBイメージ図】

ソーシャルインパクトボンド(SIB)のイメージ図
タップまたはクリックで拡大

2. プラットフォームビジネスを活用した新規森林ビジネスの創出・進展

アプリケーション導入を梃子にした森林管理も有用な手段になります。

例えば、当社では森林保有者・行政・企業が森林保全・活用を効率/効果的に行うアプリケーションを開発しています。

当該アプリケーションと自治体が公開している森林計画区域や保安林区域などが掲載された森林情報のオープンデータを連携後、森林の所有者情報を登録し、アプリケーション上でそれらのデータを連動させることで森林を利用したい人のニーズに応えることができます。
 

■アプリケーションを利用した持続可能な林業の実現方法の一例

アプリケーションを利用した森林クラウドシステムの効率化の例をご紹介します。

ステークホルダー別の要望例:
  1. 自治体・市町村:既存森林クラウドシステムへのデータアップロードや連携を容易にし、当該業務の負担を軽減したい
  2. 森林所有者:所有する森林の情報を登録することにより、自治体・市町村への報告を容易にしたい
解決策例:

林野庁が近年推進している森林クラウドシステムはデジタル化して整備した森林簿や森林基本図等の情報を管理する有力な手段ではありますが、データ収集や連携に未だ課題が残っています。

アプリケーションの導入によって、森林クラウドシステムのペインであるデータ収集や連携業務を効率化・軽減することが可能となります。

当社は、各ステークホルダーの課題を的確に把握し、アプリケーションを媒介したプラットフォームを構築することを目指しています。

 

3. 市場からの資金調達

伐採跡地のような再造林が必要な土地に投資し、地域的な造林・育林事業を育むなど、林業オペレーションの変革による課題解決も考えられます。
 

■再造林が必要な土地への投資を通した持続可能な林業の実現方法の一例

例として、無立木地を買い取り後、再造林・育林事業を行う森林再生プロジェクトを開始することによる森林アセットの増加があります。

ステークホルダー別の要望例:
  1. 無立木地所持者:自分たちで管理できない無立木地を管理可能な会社へ売却・預けたい
  2. 地域事業体:森林管理を行う会社への投資や再造林投資を行い、地域の森林アセットを確保したい
  3. 自治体・市町村:最小限の労力で地域の森林を健全化し、管理可能な状態にしたい
  4. その他企業:適切に管理された森林のアセットを利用してビジネスを行いたい
解決策例:

投資者からの出資金を元に、無立木地所持者へアプローチの上、土地に投資し、当該土地への造林・育林事業を通して、将来的にビジネスへも利用できるような森林を管理していくことが可能です。

当社は、投資された土地の造林・育林の事業進捗を適切に出資者にフィードバックします。

お役に立ちましたか?