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トーマツが描く、監査の未来とは?
シリーズ 監査に進化を 第1回
先端テクノロジーを取り入れることで、監査はどう変わるのか。そして、企業や社会にどんな価値を提供できるようになるのか。有限責任監査法人トーマツ パートナーでAudit Innovation部長の外賀友明とAudit Innovation部の遠藤慎也に聞いた。
社会の変化が加速し、企業のビジネス活動がますます複雑化する中で、監査に対する期待もより多様になっている。そんな中で既存の監査の概念や手法にとらわれず、未来を見据えた新しい取り組みを早期に現場へ導入するべく、トーマツが取り組んでいるのがAudit Innovationだ。
先端テクノロジーを取り入れることで、監査はどう変わるのか。そして、企業や社会にどんな価値を提供できるようになるのか。有限責任監査法人トーマツ パートナーでAudit Innovation部長の外賀友明とAudit Innovation部の遠藤慎也に聞いた。
Audit Innovation部という部署はどんなことをやっている部署なのでしょうか。
外賀:一言でいうと、未来の監査の実現に向け、既存監査領域の変革にむけた取り組みを行っています。
トーマツでは未来の監査を「既存監査領域における変革」、そして、「新規保証領域への挑戦」を通じて社会の変化に対応しステークホルダーの期待に応え続けること、と定義しています。
図 トーマツが考える未来監査
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私たちは、この既存監査領域における変革に特に注力し、「高度なデータ活用」、「デジタル化」、「標準化」、「集中化」施策の企画・実行と、それらを集約する最新の監査プラットフォームの導入を通じた変革の実行、および未来に向けた監査のあるべき姿の検討と実現に向けた研究開発を実施しています。
図 未来の監査を実現する4つの施策
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遠藤:私は外賀とともにAudit Innovation業務に携わりながら、事業企画の業務に従事しています。監査・保証事業における事業戦略を実現するために、Audit Innovation部に求められる目標や機能は何か、開発したツールや施策をどのような方法やスピードで業務に組み込んでいくのか。そのような、未来監査と事業戦略を融合し、実現していくための業務を担当しています。
有限責任監査法人トーマツ パートナー Audit Innovation部長 外賀友明
Audit Innovationに取り組む背景を教えてください。
外賀:監査を取りまく環境は大きく変化しています。単純にものを作って売る時代から、GAFAに代表されるような複雑なビジネスモデルへと移行し、どこでどのように稼いでいるのかが見えにくくなっています。またビジネスの舞台も一国にとどまらず、グローバル化が進んでいます。そんな中、企業が発信する情報の量は爆発的な勢いで増加しており、その内容も多様化しているのが現状です。
そんな状況下で、「その情報は本当に正しいのか?」ということを確認したいというニーズは、ますます高まっています。これは、ある意味当たり前のことで、何か意思決定をするとき、扱う情報が正しいことは大前提となります。監査という仕事は、そういった情報の信頼性を保証していくと捉えており、その複雑性は近年ますます高まっています。
情報の信頼性を保証することの難易度が上がっているということでしょうか。
外賀:はい。残念ながら、いつの時代も不正というものは後を絶ちません。不正があるとその企業の情報を信頼できなくなりますし、企業の皆さまにとっても積み上げてきた価値が一瞬で瓦解してしまいます。ですから、複雑性が高まっている近年において、企業の不正はなるべく小さいうちに発見し、是正を促すというのが我々の大事な役目です。さらに、そもそも不正が発生しないような仕組みを作るという部分でも我々は期待されていると考えています。
監査の仕事はかかりつけのお医者さんと似ていて、病気をできるだけ小さいうちに発見する、予防することが大切というわけです。
有限責任監査法人トーマツ Audit Innovation部 遠藤慎也
新しい領域における監査への期待
遠藤:今、外賀からご説明したのは、「既存の領域においてより高い価値を提供していく」というお話ですが、一方でまったく新しい領域においても監査への期待が高まっています。
これまで企業の価値というのは、主に経済的価値で測られてきました。ところが最近は、ESG(環境・社会・ガバナンス)、つまり気候変動や社会貢献、人的資本などへの取り組み、情報発信も求められるようになっています。必ずしも数値や金額では測りきれないESGへの取り組みが、いまや企業の価値を左右するような時代になってきているのです。
比較的新しい取り組みだからこそ、定量・定性両側面から、客観的に確認し保証する存在が必要となっています。我々は公平性、客観性、独立性を担保した会計監査を長年手がけてきた歴史がありますから、こういった新たな分野でも社会に貢献できると考えています。
外賀:信頼を届けるというのが、私たちのコアコンピタンスです。会計士は精神的、外観的に独立性を保つことが強く要求されています。当然、厳しい守秘義務もあります。ある意味、信頼性を保つために日々身を削っているわけです。そうやってマーケットやステークホルダーの皆さまに信頼を届ける仕事をしてきたからこそ、不確実な情報が大量に飛びかう今の時代にもっとできることがあると思っています。
こういった新領域を手がけるためにも、Audit Innovationによって既存領域における業務のプロセスや手法を変革していくことが重要です。
AIに置き換えられない価値が重要に
Audit Innovationを進める上で、具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか。
外賀:ひとつはデジタルテクノロジー、特にAI(人工知能)の活用です。AIを使うことで、より深く高度な分析ができるようになります。例えば不正の検知。私が入社した20年前、監査はそれこそ職人技の世界でした。熟練の会計士が請求書の束をバーッとめくるのですが、突然手がぴたっと止まるのです。「これを確認してほしい」と付箋が付けられた請求書を確認すると、確かに疑わしい内容だったということがよくありました。そこには「この規模の事業所で、この金額の取引を行うはずがない」といった経験の積み重ね、ノウハウが詰まっていたのです。
そういった暗黙知は、これだけ業務領域が増えている中で、必ずしも承継されているとはいえません。そこで経験やノウハウをAIに学習させ、確実に次世代に引き継ぐことが重要です。
また将棋の世界ではAIの登場により新たな手筋が発見され「定石が定石でなくなる」というようなことが起こっています。同様に監査の世界でも、AIが膨大なデータを分析することで人間には見つけられないような不正の特徴をつかみ、早期発見につなげることができるようになっています。
遠藤:不正検知だけでなく、AIを使うことにより、これまで人の目だけではチェックしきれなかった膨大な資料をタイムリーに確認できるようになりました。例えば会社が交わす契約書の細かい条項まで、すべてを人間が目を通すのは難しいことがあります。そんなときにAIを使うことで、通常の契約書とは異なる条件や項目を見つけられます。AIは、私たちの情報処理能力を拡張してくれるという側面もあるのです。こうした、デジタルを通じた様々な取り組みが評価され、トーマツは22年4月にDX認定を取得しています。
外賀:信頼性を担保するための監査は、今後AIやデジタル技術の活用によって、ますます精度が高まっていくでしょう。一方、未来の監査ではテクノロジーに置き換えられない部分が重要になってきます。
例えば企業における様々な業務は、それを担当する責任者が何を重視するかによって、クセが出るものです。これは継続性の観点からはあまり良いことではありません。そこで、私たちが管理方法や業務プロセスの見直しを提案することがあります。
このような監査の視点からの提案は、依然として専門家が力を発揮する領域です。監査の知識だけではなく、ビジネスについて、業界について、そしてガバナンスについても豊富な知識と経験が求められます。監査で信頼性を担保するのは、当然のこと。さらに組織やプロセスにまで踏み込んで改善の提案をすることが、監査の付加価値として重要になると考えています。
監査の未来に向けた組織変革の取り組み
外賀:会社全体としてはDEI(Diversity, Equity & Inclusion:多様性、公平性、包括性)を非常に重視しています。多様な専門性を持つ人財が集まることが、トーマツの強みだと考えていますので、グループ全体としてここに取り組んでいます。
Audit Innovation部でも、会計士だけではなく、企画、チェンジマネジメント、システムエンジニア、データサイエンティスト、UI/UXデザイン、マーケティング、人事、人財育成のスペシャリストなど、様々な職種のメンバーが所属しています。また、チームメンバーのバックグラウンドも多様で、国内の大企業はもちろん、グローバル企業やベンチャー企業で働いていた人もいれば、起業経験者もおり、様々なメンバーが協働しながら未来の監査を実現するために、力を合わせています。
遠藤:会計士の働き方改革にも取り組んでいます。2017年に監査に関わる定型業務を集中して手がけるトーマツ監査イノベーション&デリバリーセンター(AIDC)を千葉県の幕張新都心に開所しました。ここでは会計士の資格を持たない人財を新たに採用・育成し、資料の整合性を確認する突合や定型文章の作成や更新、定型化されたデータ分析や加工業務といった監査補助業務を手がけています。
企業のビジネスが複雑化する中、会計士の業務は増え稼働率が下がらないという課題があります。そこで、業務を標準化し、会計士に代わってAIDCで集中的に処理できるようにしています。
AIDCの開所以降、提供するサービスメニューの拡大、人員規模も拡大しており、会計士の業務は高度な判断が必要になる業務や、被監査先企業とのコミュニケーションにシフトし、より高い付加価値を生み出せるようになってきています。さらに、新たな専門領域の知識獲得や業務提供への挑戦など、会計士の守備範囲を広げるために時間を活用するといった効果も出てきています。
またAIDCでは、ライフスタイルに合わせて働くことができる柔軟な人事制度を採用しています。フルタイムやシフト勤務のほか、時短勤務や夏休みの長期休暇など多様な制度や支援を用意しており、ライフイベントによる働き方の変化を積極的にサポートすることで、多様な人財が活躍する場を広げることにもつながっています。
「本来やりたかったこと」を実現できる世界が来ている
Audit Innovationにより、監査はどのように変わっていくのでしょうか。
外賀:従来の監査は、基準準拠性、つまり「ルールに合っているかどうか」の確認に大きなリソースを割いていました。しかしAudit Innovationを進めることで、一定程度デジタルテクノロジーやデリバリーセンターなどにより、会計士の業務が代替されるようになるでしょう。
さらに、データがリアルタイムに企業から連携され監査に活用される継続的な監査や、人がより密接にAIと協働し付加価値を提供することも、近い将来実現できるようになっていきます。
一方で、高い付加価値を提供するために、会計士は専門領域を拡大し、さらに業務に関与する人財もこれまで以上に様々な領域の専門家が集うことになります。
トーマツが考える未来監査実現に向けたロードマップ
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外賀:私は20年前に入社したとき「監査によって企業、そしてその先にある社会に貢献したい」という大志を抱いていました。それがデジタルテクノロジーによって、いよいよ「自分がやりたかったことを、より具体的なだけでなく、より広く実現できる世界が来ている」と最近改めて感じています。このことは若い人たちや企業、社会にも共有し、監査の進化を後押ししていきたいですね。
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