調査レポート

グリーントランスフォーメーション人材調査

ネットゼロの実現を担うGX人材の現在

世界的に脱炭素経済への移行が急務となる中で、企業のグリーントランスフォーメーションを担う人材:GX人材の確保は重要アジェンダになっている。本調査では日本の労働市場におけるGX人材の規模を明らかにしつつ、彼らの特性やキャリア志向を聴取することで、GX人材市場の活性化に向けて国や企業に求められる施策の在り方を考察する。

グリーントランスフォーメーション人材を巡る近年の動き

2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、日本においては2023年に経済産業省が”GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ”*1を立ち上げている。その一環としてGX人材市場創造ワーキンググループが同年組成され、2024年にはGXスキル標準(GXSS)の第1版*2を公開するなど、グリーントランスフォーメーションの推進を担う人材(GX人材)の供給活性化に向けた基盤の整備が進んでいる。

このような流れの中で本調査は、労働市場の供給面に着目し、上記のGXスキル標準を活用しながら、日本の労働市場におけるGX人材の実態と彼らの人材特性やキャリア志向を掴むべく実施された。

*1 GXリーグ  https://gx-league.go.jp/(2024/9/30閲覧)
*2 GX人材市場創造WG 「GXスキル標準(GXSS)-検討概要と活用方法」GXスキル標準(GXSS)- 検討概要と活用方法.pdf (gx-league.go.jp) (2024/9/30閲覧)

 

日本の労働市場におけるGX人材の実態

GX人材は約254万人と推計、すでにGX人材市場の形成は進んでいる

本調査では①関与する商材/サービス領域と②職種の2つの条件から企業・社会のグリーントランスフォーメーションを推進する人材を「GX人材」として定義した。13万人以上のアンケート参加者の回答結果を基にした推計によれば、日本の就業人口約3,000万人のうち、GX人材は就業者人口の8.5%、人数としては約254万人存在しており、すでに一定規模の人材市場を形成していることが判明した。

職種内訳では研究開発・技術職が過半数、専門理系人材の重要性が高い

GX人材が就いている職業の内訳においては、ネットゼロ達成に向けた事業・商品開発および要素技術の研究に関与する研究開発職・技術職が52.9%を占めている。GX人材の就業実態は製造業が中心的な役割を担う日本の産業構造を反映している一面があり、グリーントランスフォーメーションの推進においては専門理系人材の果たす役割が大きいことが推察される。

また「排出量算定・開示・削減計画」を担う新しい職種も7.6%と決して小さくない規模で存在している。企業のグリーントランスフォーメーション推進における計画・戦略プロセスを担う専門職人材のプール形成は萌芽的でありながらも進んでいることがうかがえる。

GX人材確保の要となる彼らの志向性・キャリア形成

すでに一定の人材市場が形成されつつあるとはいえ、2050年のネットゼロ達成に向けてはさらなるGX人材の供給活性化が必要であり、その実現に向けてはGX人材が就業環境に対して抱く志向性や彼らのキャリア観を踏まえた環境整備が、政府の人材政策・企業の人事マネジメントにおいて重要なポイントになる。

組織全体で挑戦し新規性・専門性を追求しながら、ワークライフバランスを確保できる環境

GX人材が魅力的に感じる業務や環境について聴取したところ、「社員全員の総合力で成長する会社」、「フラットでオープンな環境で全員の協議によって物事が進む会社」といった“組織全体での挑戦”を示唆する選択肢がそれぞれ70%近いGX人材から票を集めている。また「新しいものを生み出す仕事」や「目指すキャリアの方向性は、専門分野を極めることだ」などの選択肢も60%以上のGX人材から支持されており、“新規性の追求”“専門性の深化”が可能な環境がGX人材から期待されていることが分かる。

さらに「仕事とプライベートは、別々に分けたい」、あるいは「働く時間や場所が自由な仕事」という“ワークライフバランス”“働き方の柔軟性”を重視する傾向も顕著に見られており、これらの要素を考慮した職場環境の整備はGX人材の確保を考える際に見逃せないポイントとなるだろう。

GX人材といっても実態は多様、ハイレベル層の獲得に向けた戦略を

本調査においては一部の設問群を利用して階層クラスター分析を実施し、GX人材の更なる類型化と実態解明を試みた。今回の分析ではGX人材は4つのクラスターに分類でき、この中にはGXに対する強い関与意向とリテラシーを兼ね備えた2つのクラスター(GXビジョナリーリーダー、GXプラクティショナー)が確認できる。これらのクラスターに属するGX人材は社会的インパクトやミッションの達成、新規性・創造性を特に重視しており、企業には果敢なチャレンジへの評価を期待するといった固有の特徴を有している。新規事業創造のリーダー人材と重なる特徴を持つこれらのクラスターには特に市場価値の高い人材が集まっている可能性があり、GXを推進する企業はこのようなハイレベル人材の特徴を適切に捉えた人事マネジメントの在り方を考えるべきである。

GX人材の複線化したキャリア観に対応する環境整備がカギとなる

またGX人材の今後のキャリアについては、基本的に現職と同職種でのキャリア形成・専門性深化を考えている傾向が見られたが、経営管理・事業企画から排出量算定、要素技術の開発から事業開発・商品開発といった現職と関連性ある他職種への関心も高いことが調査から明らかになった。一部の職種(金融・不動産や士業・コンサルタント)については特に現職とは異なる他職種への転身意向が顕著に見られている。総じてGX人材のキャリア形成においては、現職でのキャリア形成を後押しするためのリスキリングや働き方改革といった従来の環境整備と並んで、他職種への転身意向を妨げることがないように社内外の人材流動性を高めていく必要があるだろう。

調査概要

有効回答数

  • スクリーニング調査:131,970名
  • 本調査:5,128名

調査対象

  • 全国の20代~50代の勤労者
  • 高等学校卒業後、大学以上の教育あるいは専門的な職業訓練を修了した者
  • 会社役員、会社員、公務員・団体職員、契約社員・嘱託社員、自営業・フリーランスに該当する者

調査手法

  • Webアンケート方式

 

解説者紹介:

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ディレクター 澤田修一
シニアアソシエイト 渋谷拓磨
 

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